憂い視線のその先に

雪村こはる

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様々な恋愛事情

06

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「話にならない。もう帰るよ」

「律!」

「蓮さ、自分の欲ばかりじゃなくて叶衣の幸せのことも考えてやんなよ。向こうにだって同じように感情はあるんだから」

「……そうだけど……」

「蓮が璃空に対して許せないように、叶衣は璃空の妹に対しても蓮に対しても相当怒ってると思うよ。それ以上に悲しんでると思う」

「……うん」

「どうするかは叶衣が決めることだよ。裏切った蓮が2人を責めるのは違う。もっとちゃんと客観的に物事を捉えた方がいい」

 律はどこまでも冷静だった。律が1番冷静でいられたのだ。璃空の気持ちも叶衣の気持ちもなんとなく理解できるから。
 璃空は律と同じように、恋愛に溺れるタイプではなかった。

 璃空に彼女がいたこともあったし、そろそろ結婚するだなんて言っていた日もあった。けれど、律にはどこか璃空が本気で相手と向き合っているようには見えなかった。今までの自分と同じように。
 それが叶衣に対しては違う。そう思ったのは、璃空の表情が目に見えて明るくなったからだ。

 10年以上付き合いのある律でさえも見たことのないような笑顔を引き出した叶衣。おそらく璃空が抱いている感情は、自分がまどかに抱いたものと同じだと感じる律。
 千愛希や律と同じように、自分は本気で恋愛することはないだろうと考えていた璃空がようやく目の前の恋愛に本気で向き合おうとしている。

 今週、叶衣から奏のおかげでチョコレートの売り上げが跳ね上がったと報告があった。嬉しそうに弾んだ声だった。その時、璃空のことは友達として好きだからこそ失いたくはないと彼女の口から聞いた。
 きっと叶衣は璃空と付き合うことはない。このまま友人関係を続けていたら、少なくともお互いを失うことなどないから。

 俺と千愛希みたいに……。

 そう思う律だったが、璃空が本気で向き合うと決めた限りは結果がどうなろうと見守ってやりたいと思っていた。
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