憂い視線のその先に

雪村こはる

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変化の理由

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「今日は猫のためにいいものを持ってきたんだ」

 そう切り出したのは千愛希。ぴくりと眉を動かした律は、千愛希の取り出した柄の長いおもちゃに目を向けた。

「行ってみる?」

 猫がいるかいないかはわからない。なんたってヤツは野良で自由だから。けれど、周とまどかがいるこの空間にずっと一緒にいるよりかはいい、と千愛希を連れ出した。

 庭に出て猫を探す。こんな時に限って見当たらない。律の母、ダリアが大切に育てている草花は、この寒い時期には咲いていない。
 春から秋にかけてカラフルに色づく庭は、ひっそりとしていた。
 祖母がお気に入りの縁側に出てみても猫はいなかった。

「……いないね」

 千愛希は残念そうに眉を下げた。

「うん……じゃあ、おばあちゃんに会ってってよ」

 律は、しょげた千愛希を宥めるかのように次の提案をした。

「うん。おばあちゃんに会うの久しぶり」

 ふふっと嬉しそうに笑う千愛希に、律もつい顔が綻んだ。猫には会わせてあげられなかったけれど、おばあちゃんとなら穏やかに過ごせるかもしれない。そんな期待を抱いて、祖母の部屋をノックした。

 開けて中に入ると、話し声が聞こえた。

「ひまちゃんはいい子だねぇ」

 そんな声が聞こえ、きゃっきゃと弾む子供の声も聞こえた。姿が見えなかった周とまどかの子供。1歳半を過ぎた妃茉莉は嬉しそうに走り回る。
 その姿を捕らえた時には、祖母の姿も見えた。

「こんにちは」

 先に声をかけた千愛希。風貌の変わったその姿を見た祖母は、にっこり笑って「あらあら、綺麗な子だね」と言った。

「お久しぶりです」

「どこかでお会いしましたかね。こんなに綺麗な子なら覚えてると思ったんだけどね」

 さすがに見た目が変わったらわからないか、と苦笑する千愛希の隣で律が「おばあちゃん、この前湯呑み茶碗をくれた千愛希だよ」と言った。
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