憂い視線のその先に

勘違いがいっぱい

07

　あの男と言われて浮かぶのは律の顔。たった今返信したばかりの相手だ。
　上手くいっていないというのは何を指しているのかと思いながら、とても良好とは言えない今の状況に顔をしかめた。

「そんなことありませんよ。曽根さんの勘違いです」

　掴まれた腕をそっと払って歩き出すと、後ろから力強く抱きしめられた。懐かしい香りが千愛希を包む。

「そんなこと言って、全然楽しそうじゃないだろ。辛い思いしてるんじゃないのか」

「……そうだとしても曽根さんには関係ありません」

　その腕を振りほどこうともがけば、更に強い力が加わった。後ろから覗き込むような形で右の首筋に鼻先を埋める睦月。
　昔はこれが心地よかった。けれど今は、律以外の男性に触れられることに嫌悪を抱いた。

「やめてください！　私、今他の人とお付き合いしてるんですから！」

「わかってるよ。それに、関係なくなんてない。離れてみて後悔してる。俺には千愛希しかいないって。他の子と付き合うことも考えたけどやっぱり千愛希じゃなきゃダメなんだ」

　たったその一言が、胸に大きく響いた。律は絶対にこんな言葉をくれない。律にとってその存在はまどかであって自分ではないから。そう思う千愛希はぎゅっと強く目を閉じた。

「その言葉、2年前に聞きたかったですよ……。今突然そんなこと言われても困ります。私は彼のことが好きなので」

　律とはダメになるかもしれない。そうはわかっていてもこの甘い言葉に揺らぐほど簡単に律から乗り換えられる千愛希ではなかった。