【完結】先生、大人の診察は勤務外でお願いします

噂だらけの病院

違和感

　なんとなく違和感を抱くようになった。あの女は噂通りのアバズレのはず。川崎先生からあの噂はただの噂だと聞かされた時だってとても信じられなかった。
　この病院にしては、まともな医師がいた。この人のことは信頼に値する。そう思えたのに、あの女を庇う発言に結局この男もあの女に毒されてんだと思うようになった。それなのに、少しだけ残る違和感。

　相変わらずあの女は、挑発的な視線を送ってくるし、一緒にエレベーターに乗り込んでも全く緊張した素振りはない。

　自分でいうのもなんだが、大体の女は俺と2人きりなんていったら顔を赤らめたり動きがぎこちなくなったりするものだ。
　だが、あの女にはそれがなかった。男に慣れてる証拠だ。俺レベルの男なんか、食い慣れてるってところか。
　そう思ったら見下されている気がした。男漁りをするために職場へきているような女にバカにされ、俺には興味がないような顔をする。
　だったら、その気にさせて捨ててやろうか。そう思った俺は、咄嗟にキスしてやった。

　真っ赤になって狼狽えるか、誘いに乗ってくるか。どちらかの反応が見られると思いきや、とんでもない勢いで平手打ちされた。
　弾くような音と激痛がほぼ同時にやってきた。

｢本当にありえないし、キモイんですけど！　このセクハラ野郎！｣

　そんなことを面と向かって言われたのなんて生まれて初めてだった。キスをしたら喜ばれる。俺の中ではそれが普通だった。それなのにあの女はキモイっつって、セクハラだと騒ぎ立てた。

　……誰が、セクハラだ。そっちが先に誘ってきたんだろうが。
　それともこれも作戦なのか？　そう色々考えたが、あの女はあからさまに俺を避け始めた。

　何を考えてんのかさっぱりわかんねぇ。男好きのくせに俺を避けて、セクハラ野郎呼ばわりなんて解せねぇ。
　そう思っている最中、森岡という医師を見かけた。

　あの女と不倫してると噂のある男。こんな不細工なジジイと比べたら絶対俺の方がいい男だろ！　なのになんで俺がセクハラ野郎でこの男とは不倫してんだよ！

　他の医者は騙せても俺は騙せないからな！　絶対不倫の証拠を掴んでやる！　そんで謝ってもらうからな！

　そんな思いで、森岡がいつも使っている外来の診察室に隠しカメラを設置した。音声は入るし、密会まではいかなくとも会話くらいなら撮れるかもしれないな。そんな期待も込めて、俺は数日様子をみることにした。