【完結】先生、大人の診察は勤務外でお願いします

雪村こはる

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変化する関係性

日課にする

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 どのくらい先生に抱きしめられていただろうか。時間にしたらきっと大したことはない。けれど、私にとってはとても長く感じた。その間ずっと心臓がドクドクと激しく脈打って、先生に聞こえてしまうんじゃないかと心配になる。

 けれど、彼は黙ったまま特にそれを指摘することもなかった。全く慣れないまま、だけどほんの少し心地よく思えたところで「緊張解れた?」と彼の方から切り出した。

「す、少しは……」

「うん。毎日してりゃ慣れるだろ」

「え!? 毎日!?」

 私はバッと顔を上げた。気怠そうに私の肩の上で向きを変え、右頬をそのまま上に乗せた。私の首筋に吐息がかかるくらいの距離。
 私はまたピキンと硬直する。
 こ、こんなに距離が近いのはちょっと……。どうしよう……私、本当に中学生みたいだ。処女でもあるまいし、こんなことに一々ドキドキして……恥ずかしい。

 私は顔を隠すように目元を先生の肩口に押し付けた。また顔を伏せた私の頭を先生は軽く二度撫でた。

「毎日出勤してきたら3分これな」

 さ、3分!? そう言ったつもりが、顔を押し付けているがためにフガフガ言うばかりで全く言葉にならなかった。

「日課にしたら当たり前になるだろ。そしたら次第に慣れる」

「そ、それはそうかもしれませんが! 毎日とはっ……」

 ぷはっとまた顔を上げて声を張った。けれど先生は更にぎゅっと腕に力を込めて「うるせー。俺が決めたから毎日なんだよ」と言った。

 な、なんだと……。俺が決めたから? なんであなたが決めるのよ。こ、こんなに毎日ドキドキしなきゃいけないなんて心臓に悪いわ……。
 本当は自分の胸を押さえたいけれど、それが叶わない未だに、ひたすら先生の白衣を握りしめる手に力を込めた。

「で、でも……」

「リハビリだろ?」

「リハ……ビリ……」

 なるほど、そうきたか。確かにリハビリか。精神的に受けた傷により、男性に触れられることが怖くなったのだから、こうやって少しずつ慣れていったらいつかはあの頃のように前向きに恋愛ができるようになるんだろうか。

「お前が言ったんだろ。事情を知ってる俺にしか頼めないって」

「あ……はい」

「ここにいる間は協力してやるよ。仮にも彼氏だしな」

「か、彼氏はっ……」

 プシューと湯気がでそうなほど全身が熱くなった。偽彼氏だ、ニセモノ。そう思うのに「彼氏だろ? 愛莉彩」なんて名前を呼ばれて飛び上がる。
 どこまでも先生のペースだ。エレベーターの中では私の方が余裕だったはず。なのに、今ではすっかり形勢逆転してしまっている。

 こんなことが毎日繰り返されたら、私は一体どうなってしまうんだろうか。そっと息を止めた私は、次の言葉を探すべく黙り込んだ。
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