87 / 143
変化する関係性
日課にする
しおりを挟む
どのくらい先生に抱きしめられていただろうか。時間にしたらきっと大したことはない。けれど、私にとってはとても長く感じた。その間ずっと心臓がドクドクと激しく脈打って、先生に聞こえてしまうんじゃないかと心配になる。
けれど、彼は黙ったまま特にそれを指摘することもなかった。全く慣れないまま、だけどほんの少し心地よく思えたところで「緊張解れた?」と彼の方から切り出した。
「す、少しは……」
「うん。毎日してりゃ慣れるだろ」
「え!? 毎日!?」
私はバッと顔を上げた。気怠そうに私の肩の上で向きを変え、右頬をそのまま上に乗せた。私の首筋に吐息がかかるくらいの距離。
私はまたピキンと硬直する。
こ、こんなに距離が近いのはちょっと……。どうしよう……私、本当に中学生みたいだ。処女でもあるまいし、こんなことに一々ドキドキして……恥ずかしい。
私は顔を隠すように目元を先生の肩口に押し付けた。また顔を伏せた私の頭を先生は軽く二度撫でた。
「毎日出勤してきたら3分これな」
さ、3分!? そう言ったつもりが、顔を押し付けているがためにフガフガ言うばかりで全く言葉にならなかった。
「日課にしたら当たり前になるだろ。そしたら次第に慣れる」
「そ、それはそうかもしれませんが! 毎日とはっ……」
ぷはっとまた顔を上げて声を張った。けれど先生は更にぎゅっと腕に力を込めて「うるせー。俺が決めたから毎日なんだよ」と言った。
な、なんだと……。俺が決めたから? なんであなたが決めるのよ。こ、こんなに毎日ドキドキしなきゃいけないなんて心臓に悪いわ……。
本当は自分の胸を押さえたいけれど、それが叶わない未だに、ひたすら先生の白衣を握りしめる手に力を込めた。
「で、でも……」
「リハビリだろ?」
「リハ……ビリ……」
なるほど、そうきたか。確かにリハビリか。精神的に受けた傷により、男性に触れられることが怖くなったのだから、こうやって少しずつ慣れていったらいつかはあの頃のように前向きに恋愛ができるようになるんだろうか。
「お前が言ったんだろ。事情を知ってる俺にしか頼めないって」
「あ……はい」
「ここにいる間は協力してやるよ。仮にも彼氏だしな」
「か、彼氏はっ……」
プシューと湯気がでそうなほど全身が熱くなった。偽彼氏だ、ニセモノ。そう思うのに「彼氏だろ? 愛莉彩」なんて名前を呼ばれて飛び上がる。
どこまでも先生のペースだ。エレベーターの中では私の方が余裕だったはず。なのに、今ではすっかり形勢逆転してしまっている。
こんなことが毎日繰り返されたら、私は一体どうなってしまうんだろうか。そっと息を止めた私は、次の言葉を探すべく黙り込んだ。
けれど、彼は黙ったまま特にそれを指摘することもなかった。全く慣れないまま、だけどほんの少し心地よく思えたところで「緊張解れた?」と彼の方から切り出した。
「す、少しは……」
「うん。毎日してりゃ慣れるだろ」
「え!? 毎日!?」
私はバッと顔を上げた。気怠そうに私の肩の上で向きを変え、右頬をそのまま上に乗せた。私の首筋に吐息がかかるくらいの距離。
私はまたピキンと硬直する。
こ、こんなに距離が近いのはちょっと……。どうしよう……私、本当に中学生みたいだ。処女でもあるまいし、こんなことに一々ドキドキして……恥ずかしい。
私は顔を隠すように目元を先生の肩口に押し付けた。また顔を伏せた私の頭を先生は軽く二度撫でた。
「毎日出勤してきたら3分これな」
さ、3分!? そう言ったつもりが、顔を押し付けているがためにフガフガ言うばかりで全く言葉にならなかった。
「日課にしたら当たり前になるだろ。そしたら次第に慣れる」
「そ、それはそうかもしれませんが! 毎日とはっ……」
ぷはっとまた顔を上げて声を張った。けれど先生は更にぎゅっと腕に力を込めて「うるせー。俺が決めたから毎日なんだよ」と言った。
な、なんだと……。俺が決めたから? なんであなたが決めるのよ。こ、こんなに毎日ドキドキしなきゃいけないなんて心臓に悪いわ……。
本当は自分の胸を押さえたいけれど、それが叶わない未だに、ひたすら先生の白衣を握りしめる手に力を込めた。
「で、でも……」
「リハビリだろ?」
「リハ……ビリ……」
なるほど、そうきたか。確かにリハビリか。精神的に受けた傷により、男性に触れられることが怖くなったのだから、こうやって少しずつ慣れていったらいつかはあの頃のように前向きに恋愛ができるようになるんだろうか。
「お前が言ったんだろ。事情を知ってる俺にしか頼めないって」
「あ……はい」
「ここにいる間は協力してやるよ。仮にも彼氏だしな」
「か、彼氏はっ……」
プシューと湯気がでそうなほど全身が熱くなった。偽彼氏だ、ニセモノ。そう思うのに「彼氏だろ? 愛莉彩」なんて名前を呼ばれて飛び上がる。
どこまでも先生のペースだ。エレベーターの中では私の方が余裕だったはず。なのに、今ではすっかり形勢逆転してしまっている。
こんなことが毎日繰り返されたら、私は一体どうなってしまうんだろうか。そっと息を止めた私は、次の言葉を探すべく黙り込んだ。
2
あなたにおすすめの小説
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる