【完結:R15】蒼色の一振り

雪村こはる

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神室歩澄の右腕【14】

ーー

 歩澄と瑛梓が去った後、皇成は正門をくぐり抜けた。皇成は眼光炯々、口をぎゅっと閉じたまま辺りを見渡す。
 その場にしゃがみ込み、様子を伺っていた頼寿は皇成の視線に気付き、びくりと体を震わせた。
 片目を前髪で覆った黒髪の頼寿。もう片方の茶色の瞳を揺らし、動揺した。
 皇成は早足で近寄ると、頼寿の左頬を勢いよく蹴り上げた。

「ぐっ……申し訳ございません!」

 ざっと音を立て、地面に倒れ込んだ頼寿はその場で頭を下げた。

「だからあんなただの女など使うなと言ったであろうが!」

 皇成は殺気を放ち、何度も頼寿の頭を踏みつけた。

「ぐっ、ぐはっ、申し訳っ……はっ……」

 鼻から口から血を流しながら頼寿は必死で頭を下げた。唾液と共に流れた血液は、ぽたぽたとその場に落ち、地面を濡らした。

「秀虎の妹だぞ!? 何の躊躇もなく首を持ってきおった! 気狂いもいいところだ!」

「は、はい……」

「わかっておるのか! あの冷酷非道な神室歩澄だ! 匠閃城の者を皆殺しにしたそうではないか」

「そのように伺っております……」

「して、その姫を見せしめにするため人質として持ち帰ったそうだ。……下手をしたら栄泰城もただでは済まぬぞ!」

「し、しかしながら人数ではこちらの方が上! 統主と重臣だけでは我等の比では……ぐはっ!!」

 皇成は、顎から上へと向かって更に蹴り上げた。頼寿の体は後屈し、その場に倒れ込んだ。

「そのような甘いことを言っているから、すぐに千依のことも見破られるのだ。お前に心酔している故、上手くいくと言ったのは他でもないお前ではないか!」

「も、申し訳……」

 体を震わせたながら体勢を整える頼寿は、顔を歪ませた。
 元を辿れば千依を利用しろと言ったのは皇成であった。皇成は一目千依を見た時から気に入っていた。然れど、千依が慕情を抱いたのは己の重臣である頼寿であった。
 郷の女は皆、権力と財力のある皇成へ媚びへつらい、皇成に従った。美しい良家の娘がこぞって皇成の側室になりたいと身を寄せてきた。そんな中、思い通りにならなかった千依をよく思っていなかったのだ。
 痛い目を見せてやろうと目論んだ事であった。歩澄とただならぬ信頼関係を得ている秀虎の妹をまさか殺すなどとは皇成も思っていなかった。

「忘れたのか? 先統主はこの多勢に驕り、洸烈郷に破れたのだぞ!? あの頃はまだ王が存在していたからよい。しかし、今同じようなことが起こればどうなる!? 栄泰郷は奪われるのだぞ!」

「は、はい……」

「今回の相手は神室歩澄。あの暴動であやつの両親が死んでいる。統主を亡くした潤銘郷は立て直すのに苦労したと聞く。あの暴動を一番恨んでいるのは神室よ。
 わかるな!? 栄泰郷も洸烈郷もあやつにとっては敵だ。挙げ句、匠閃城を滅ぼしたのだぞ!? もはやあやつは、誰とも仲良しこよしなどするつもりはないのだ!」

 皇成は癇癪を起こした。毛量の多い毛の中に手を突っ込み、ぐしゃりと握る。

「お、皇成様……しかし、先程の話は?」

「……燈獅子か?」

「はい……。そのようなもの、栄泰城うちには……」

「ああ、ない。全てはったりだ」

 皇成はなんの悪びれもなくそう言ってのけた。

「なに、誰も燈獅子など見たことはないのだ。私の作話にも興味を示していたであろう? 所詮はまだ子供よ。玩具を与えてやれば喜ぶのだ」

「し、しかし……三日後には」

「ああ、城の者全員に伝えろ。三日後は戦だとな。神室歩澄の姿が見えたら全員でかかれ。情けは無用だ。一瞬でも怯めばこちらが狩られるぞ」

「こ、殺すのですか!?」

「当然だ。脅威は早い内に手を打った方がいい。あちらとて、神室軍を引き連れてきやしないであろう。周りから囲んでおけばあやつの命など容易に取れる。よいな?」

 そう言ってようやく皇成は満足気に笑った。
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