【完結:R15】蒼色の一振り

雪村こはる

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赤髪の少女【19】

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「歩澄が今の潤銘郷を作り上げるまでに三年かかっている。頭の弱そうに見える八雲だが、経済情勢を任せればあやつの右に出る者はいない。しかし、戦闘力は歩澄よりも洸烈郷よりも下だ。一対一で刀を交えれば確実に歩澄が勝てる。故に八雲と神室の総戦力は同等と言われている」

「でも、栄泰郷の軍勢は……」

「そう、国一だ。しかしね、王を目指す者が軍勢を引き連れて民を巻き込んだらどうなると思う? 被害にあった村人は八雲を支持しない。そうなれば民からの信頼は得られなくなる」

「そうでした……」

「だからその軍勢を使うのであれば、自郷に引き込まなければならない」

 そう言った楊の言葉で、燈獅子を囮にして歩澄を誘き出そうとした皇成の考えを悟った。

(そういうことだったのか……ということは、やはり計画的に……。ずる賢い奴だな)

 澪はうーんと唸った。

「次に洸烈郷。あそこは戦闘力はどこよりも長けている。しかし、粗暴で独裁的」

「ええ。そう聞きます」

「力はあるが、民を力で捩じ伏せようとする節がある。洸烈郷の民だけならそれでいい。しかし、力だけでは民は動かせまい。それが他郷なら余計に。洸烈郷統主が王となった時、その横暴さに耐えきれず、不平不満が各統主に向かうことは目に見えている」

「はい。私もそう思います」

「しかし、仮にだ。もしも他の敵国からの襲撃があり、戦争が起こった場合。あの戦力は国を守る救いの手となる」

「……確かに」

「王になれなかったことを不服に思い、その戦力を国の為に使うことを拒絶したらどうなる? 最悪なのは、敵国に寝返り共に他郷を襲撃することも……」

「そんなこと!」

「やるかもな。洸烈郷なら。だからここも候補から外せない」

「では翠穣郷は……」

「あそこは穏やかでいいところだよ。歩澄が無理なら私はあそこの統主に王になってもらいたいね」

 楊はうっすらと笑みを浮かべた。手元は様々な薬草を瓶から取り出したり、箱から瓶に移し変えたりしている。

「翠穣郷は匠閃郷と同じくらい小さな郷だ。しかし、全ての郷と食物の取引をしている」

「はい」

「あの郷でしか捕れない魚や珍しい料理が多くある。米の量も国一だ。魚を捕るための罠は、匠閃郷の職人に作らせているから丈夫な罠が手に入った」

「そうなんですか?」

「匠閃郷は貧しい村が多いだろう? 本来翠穣郷の米や魚は物価が高く良家の者しか仕入れができない。だから貧しい村人は、翠穣郷の食物にはありつけない。しかし、その罠の技術料として取れた量の何割かを匠閃郷に納めている。わかるかい? あそこの統主は頭が回る。
 その村、郷の弱点を瞬時に見抜き、相手が納得する条件で取引をする。もし今後隣国だけでなく他の国との貿易を結ぶのであれば、つゆりの力はこの国の革命にも繋がる」

「そんな力が……」

「しかし、彼は争い事を好まない主義でね。戦闘力は統主達の中でも一番劣る。自ら田や畑に出ては民達と農作物を育てるような者だからねぇ」

「統主なのに!?」

「ああ。変わった統主だよ。しかし、当然民からの信頼は厚い。他の村同士の交流も盛んだ。決して裕福な郷ではないが、他の郷と比べても類を見ない団結力だろうね。其々短所もあるが、秀でているものの方が多い。そこを王となった者がどう活かせるか……。長所を潰すか活かすかは王の力量次第」

「ということは……全ての統主を納得させ、協力を仰いだ上で王になる必要があるということですか?」

「その通り。冷酷非道と言われている歩澄にそれができるかどうか。他郷の民から恐れられているのは何も洸烈郷統主だけじゃないということさ」

 楊はそう言うと、全ての薬草を片付け片手で抱えられる程の木箱を持った。

「さあ、その統主のところにでも行ってこようかね。お前さんも城にお戻り」

 そう言って淡い笑みを浮かべた。

 澪は、楊に礼を言ってその場を後にした。
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