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強者の郷【22】
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何かを真剣に考えている様子の澪に、空穏はふっと笑みを溢す。
「どちらにせよ、これは洸烈郷の問題だ。暴動が起きても潤銘郷は巻き込まないさ。洸烈郷と潤銘郷の間には分厚い大きな壁もあるしな。以前のように栄泰郷など他郷同士の闘争にでもならない限り、あの壁や門を破壊して潤銘郷に流れることはない」
「壁……。そういえば、潤銘郷には大きな門が三つあると言いましたが、門の周りは全て壁で囲まれているのですか?」
空穏から聞くまで疑問にも思わなかった。門の左右には澪が両手を広げても届かない程の分厚い壁が長く長く続いている。一体それがどこまで続いているのか、考えたことなどなかったのだ。
「最初に来たときに言わなかったか? 潤銘郷は郷全体が厚い壁で覆われている。そのため、手形を持つ者しか入って来られぬのだ。壁の高さは六十尺(約十八メートル)以上はある。全て壁をならし、少しの凹凸もない。忍びでもあの壁を走って登ってくるのは困難であろうな」
歩澄は顎に手を当ててそう言うが、洸烈郷と栄泰郷の暴動で一部壁が破壊され、潤銘郷が被害にあったのは事実。その終息に向かった歩澄の両親が亡くなった程だ。激しい闘争になったことは言うまでもない。
その一件により、更に潤銘郷の壁は強化されていた。空穏が言うように内戦だけでは潤銘郷に被害が及ぶことはないと思えた。
「そういうことだ。俺には伊吹様が何を企んでいるのかも、貴方達が何のためにやってきたのかも知らないが……とにかく今は俺も含めて王位を譲るつもりはない」
「貴様は煌明を王にしたいのか?」
「……煌明様がそれを望むのであれば」
「ふん。主に忠実なのもいいが、貴様の首を締めることにならねばいいがな」
腕を組んでまるで哀れむかのような表情を見せた歩澄に、空穏は喉を鳴らした。
「……どこまで気付いているのですか?」
もしや、煌明が名ばかりの統主であると気付かれているのではないかと空穏は動揺した。そう思えば、今までの己とのやり取りも納得がいく。
歩澄はそれ以上興味なさそうに「さあな。私は、私の進むべき道をいく。ただ、覚えておけ。私も家来達も澪も、求める先は国全体の民の安寧だ。そのために私は王を目指す。貴様の頭が切れることだけは認めてやる。……判断を見謝るな」と言った。
既に預けておいた馬の前までやって来ていた歩澄達は、さっさと馬車に乗り込んだ。
(煌明についた時点でお前の判断は間違っているがな……)
そうは思ったが、澪がいる手前、口に出すことはなかった。
澪も空穏に最後の挨拶をし、歩澄同様馬車に乗り込んだ。
出発した馬車の中で、穏やかな空気にとはいかなかった。歩澄は先程の煌明の様子を思い出していたし、澪は朱々を追いかけていった歩澄が何を目にしたのか気になって仕方がなかった。
痺れを切らした澪の方がそれを尋ね、歩澄は今回の評定には参加させてやれぬからと言って朱々が煌明の代わりに郷を統治している旨を話して聞かせた。
「どちらにせよ、これは洸烈郷の問題だ。暴動が起きても潤銘郷は巻き込まないさ。洸烈郷と潤銘郷の間には分厚い大きな壁もあるしな。以前のように栄泰郷など他郷同士の闘争にでもならない限り、あの壁や門を破壊して潤銘郷に流れることはない」
「壁……。そういえば、潤銘郷には大きな門が三つあると言いましたが、門の周りは全て壁で囲まれているのですか?」
空穏から聞くまで疑問にも思わなかった。門の左右には澪が両手を広げても届かない程の分厚い壁が長く長く続いている。一体それがどこまで続いているのか、考えたことなどなかったのだ。
「最初に来たときに言わなかったか? 潤銘郷は郷全体が厚い壁で覆われている。そのため、手形を持つ者しか入って来られぬのだ。壁の高さは六十尺(約十八メートル)以上はある。全て壁をならし、少しの凹凸もない。忍びでもあの壁を走って登ってくるのは困難であろうな」
歩澄は顎に手を当ててそう言うが、洸烈郷と栄泰郷の暴動で一部壁が破壊され、潤銘郷が被害にあったのは事実。その終息に向かった歩澄の両親が亡くなった程だ。激しい闘争になったことは言うまでもない。
その一件により、更に潤銘郷の壁は強化されていた。空穏が言うように内戦だけでは潤銘郷に被害が及ぶことはないと思えた。
「そういうことだ。俺には伊吹様が何を企んでいるのかも、貴方達が何のためにやってきたのかも知らないが……とにかく今は俺も含めて王位を譲るつもりはない」
「貴様は煌明を王にしたいのか?」
「……煌明様がそれを望むのであれば」
「ふん。主に忠実なのもいいが、貴様の首を締めることにならねばいいがな」
腕を組んでまるで哀れむかのような表情を見せた歩澄に、空穏は喉を鳴らした。
「……どこまで気付いているのですか?」
もしや、煌明が名ばかりの統主であると気付かれているのではないかと空穏は動揺した。そう思えば、今までの己とのやり取りも納得がいく。
歩澄はそれ以上興味なさそうに「さあな。私は、私の進むべき道をいく。ただ、覚えておけ。私も家来達も澪も、求める先は国全体の民の安寧だ。そのために私は王を目指す。貴様の頭が切れることだけは認めてやる。……判断を見謝るな」と言った。
既に預けておいた馬の前までやって来ていた歩澄達は、さっさと馬車に乗り込んだ。
(煌明についた時点でお前の判断は間違っているがな……)
そうは思ったが、澪がいる手前、口に出すことはなかった。
澪も空穏に最後の挨拶をし、歩澄同様馬車に乗り込んだ。
出発した馬車の中で、穏やかな空気にとはいかなかった。歩澄は先程の煌明の様子を思い出していたし、澪は朱々を追いかけていった歩澄が何を目にしたのか気になって仕方がなかった。
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