【完結:R15】蒼色の一振り

雪村こはる

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楽しいお茶会……?【7】

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 皇成が青冷めているのは、事件が解決したことではない。それにより、第八夫人と第十二夫人が憤慨しているのだ。
 皇成が手を出すだけ出して放ってしまったことにより、遊女達が殺されることになったのだ。二人が怒るのも当然であった。

 涙を流していた二人であったが、怒りの矛先は皇成へと向き、詰め寄ったのである。
 そこで皇成は二人にもっと大きな屋敷を建ててやると交渉した。しかし、それだけでは納得できない二人は、正室である紬と同じ位置に建てることを条件とした。
 栄泰郷では正室が絶対的な地位だが、側室の地位は嫁入りした順ではなく皇成から受ける寵愛の度合いで決まる。
 寵愛を受ける者は、皇成自身が側におきたがるため、屋敷も紬の側へと近付くのだ。故に、二人の条件は実質側室の地位を上げろというものであった。
 詰め寄られてつい約束してしまった皇成だったが、それをまだ紬には言わずにいた。絶対的地位である紬の側に第八夫人と第十二夫人の屋敷を建てることは紬の自尊心を傷付けることにも繋がる。どのように伝えるべきか、言うに言えずにいたのだ。

 それを澪が話題に出したことで、まさかその事を知っているのではないかと肝を冷やしているのだった。

「遊女の方々はとても残念でした。しかし、傷心している側室の方を慰めるために近くに屋敷を建てて下さるとはとてもお優しいお方ですね」

 澪はにっこり笑ってそう言った。皇成と頼寿の顔から更に血の気が引く。

「おおおおおお、おぬし! な、何を言うか!」

「栄泰郷の御統主様は、正室だけでなく側室の方々にも平等に愛情をかけて下さるとお聞きしました。懐の広い方なのだと感銘したのですよ」

 わざとらしくも見える澪の物言いに、歩澄と秀虎は笑いを堪える。伊吹もこの後起こりうる修羅場を想像して苦笑した。

「……旦那様? 近くに屋敷を、というのはどういうことでしょうか?」

 にこっと麗しい笑みを浮かべる紬だが、その目は決して笑ってはいない。黒く渦巻く殺気にも似た空気を纏い、そっと皇成の腕に触れた。

「こ、これにはわけがあるのだ!」

「わけ?」

「そ、そうだ! 可愛がっていた遊女達が殺された話はしたであろう? あの者達が可哀想だと思わないのか!?」

 顔をひきつらせ、皇成は声を張る。二人を擁護するような態度に、紬は鬼の形相を浮かべる。
 しかし、紬が言葉を発する前に口を開いたのは澪だった。

「八雲様、紬様がそのようなことを思わない筈がないではありませんか。あのように繊細で華美な琴を奏でるお方ですよ。優しいお心をお持ちに違いありません」

 その言葉に、紬も皇成も一旦動きを停めた。頼寿は何を言うつもりかと思わず腰を浮かせた。

「可愛がっていた者達が立て続けに亡くなっては、それはもう大変な悲しみであった事でしょう。そのような側室達に寄り添い、御統主様の寵愛をも優先させて差し上げるとはさすがは素晴らしい正室のお心遣いです」

 尊敬にも似た表情を作って見せた澪に、紬はうっと言葉を失う。そして、他郷統主の前であることを思い出した紬は小さくなり「と、当然です……私は正室ですから。城の安寧を優先させる務めがございます……」と唇を震わせて言った。
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