【完結:R15】蒼色の一振り

雪村こはる

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神室歩澄の正室【5】

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 仕上げにすっと紅を引いた瞬間、緒果と梓乃は思わず吐息を溢し、恍惚の表情を浮かべた。

「お義姉様、どうしてこのような美しさを隠していたのですか……」

 食い入るように澪の顔を見つめる梓乃に、澪はうっと体を仰け反らせた。

「隠していただなんてそんな……そもそも美しくなど……」

「お嬢様、これは少しばかり大変なことになってしまうかもしれませんよ」

「ええ、ええ。そうね……ただでさえ多くの殿方がいるというのに……せっかく梓月を宥めたのにこれではかえって逆効果ね」

 もはや澪の言葉など二人には届いていない。化粧気のなかった澪だが、幸か不幸か澪の容姿は絶大な人気を誇る妓女であった伽代に瓜二つだ。
 しっかりと着飾れば、男達を虜にして止まない名の通った花魁達も顔負けである。
 異国から取り寄せた整髪料によって、澪の髪はキラキラと輝きを放ち、鮮やかな赤色をしていた。濡れたように水分を含み、だからといってベタつくこともなく、しなやかである。横髪を頭の後ろで結い、長い後ろ髪を前に垂らしていた。
 此度は潤銘郷統主への嫁入りとあって、今まで敬遠してきたドレスへと身を包んだ。
 隣国では婚礼衣装は赤や青や緑のドレスが一般的であるが、澪の赤髪を引き立てる色がいいのではないかという梓乃の意見から、歩澄へ嫁入りするということもあり象牙色のドレスへと決まっていた。

 碧空石に似せたとんぼ玉(※ガラスビーズ)を胸元や裾にあしらってある。他にも小さな透明や白いとんぼ玉がドレス全体を光の反射で輝かせていた。
 澪が気にしてる背中が出ないよう、首元まで隠れる作りになっており、右手を隠すために肘上まで隠れる絹の手袋を装着した。

 首から胸元までは、銀糸でうっすら肌が透けるよう花の模様を縫い込んだだけの生地で出来ており、肌の露出が少ないにも関わらず、女人の梓乃や緒果でさえ何となく艶やかな色香を感じた。
 また、芳真榎の摂取により肌の色素を失った澪の肌は、象牙色よりも更に白く美しい。ほんの少し出た腕が作り物のように艶めいていた。

「とてもこの世の美しさとは思えませんわ……」

「ねえ、緒果。本当にこのような姿を皆に晒して大丈夫かしら」

「そうですね……ですが歩澄様に先にお見せになったら婚礼儀式を中止するだなんて言いかねませんよ」

「言えてるわ……独占欲の強い歩澄様のことですもの……きっと誰の目にも晒すまいとお義姉様を閉じ込めてしまうやもしれないわ」

 神妙な面持ちをした梓乃と緒果。澪はいやいやいやいや……と手と首を振る。
 こんなにも長い時をかけて支度をしたのだ。これで儀式を中止などと言われては、今までの苦労はなんだったのかという気持ちになる。
 それに、この儀式は他郷統主にも澪が統主の正室となったことを表明する意味も持ち合わせている。
 紬と朱々と対等な身分を与えられた証として必要な儀式である。

 澪は何でもいいから早く終わってはくれないかと更に今から続く儀式のことを思い、小さくため息をついた。
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