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神室歩澄の正室【10】
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辺りは途端にざわめく。現れたのは歩澄だけであり、隣に澪の姿はなかったからだ。
婚礼衣装に身を包んだ歩澄は、不機嫌そうな表情を浮かべていた。
それでも、他郷の者は見たことのない婚礼衣装に釘付けになる。潤銘郷独特の隣国から輸入した豪華な衣装であった。上下黒の衣装で、中には白の襯衣を着ている。羽織は膝下まで丈があり、襟元から裾まで金糸で模様があしらわれている。生地もしっかりとした重みのある見た目で、思わず手を伸ばして触れてみたいと思うほどであった。
着物に身を包む者達は、その不思議な衣装をもっと近くで見たいと身を乗り出す。
そんな中、「今日は婚礼儀式と聞いたが、相手はどうした。逃げられでもしたか」と馬鹿にしたような声が響いた。
家臣達はぎょっとして声の方へ目をやる。可笑しそうににやりと笑うのは煌明である。その隣で朱々は何事もなかったかのように涼しい顔をしている。
「そのようだな」
歩澄がそう言ってさっさと上段に上がり、準備されていた豪華な椅子へ腰掛けたことにより、辺りは更に騒がしくなる。
「おいおい、本当に逃げられただなんてことはないだろうな」
煌明もこれにはとうとう怪訝な顔をする。
梓乃と緒果は、先に歩澄に澪の姿を見せれば御披露目を中止すると言いかねないと考え、歩澄にさえも会わせず、皆と同じ機会にするよう申し出たのだ。
ぎりぎりまで支度が済まないと理由をつけて、梓乃から歩澄に先に行くように申した。
そんなことはできぬと、眉をひそめる歩澄であったが、障子の向こう側から澪に諭され、仕方なく一人で大広間へと向かったのだった。
「妻は支度に手間取っているようでな。皆の前に出るのが恥ずかしいとのことだ」
歩澄がぶっきらぼうに言うと、紬と朱々はくすりと笑う。
(あの姿では恥ずかしくて見せられぬであろうな……。賢明な判断だ)
朱々は心の中で嘲笑う。
(こんなにも美しい殿方の隣に並ぶんですもの。あの姫様ではお可哀想ですわ)
紬も袖で口元を覆う。
しっかりと障子が閉められたところで、障子の向こう側から梓乃の声が聞こえた。
「本日は皆様、お集まりいただきありがとうございます。奥方様の準備が整いました故、御披露目させていただきます」
もしかしたら澪は顔を出さないのではないか。誰もがそうも思い始めていたところへ、直ぐに聞こえた梓乃の声。皆唖然としながら自然とまた静寂に包まれた。
「何をもったいぶる必要があるのだ」
険しい顔でそう煌明が呟いた瞬間、障子が開かれた。
その刹那、皆の視線は澪に向く。
一気に視線を注がれたことにより、澪はびくりと肩を震わす。こんなにも注目されるのは久方振りであった。といっても、澪が注目されるといったら、決まって刀剣を振る時くらいである。その力強くしなやかな刀捌きは、見る者を釘付けにする。
しかし、今回ばかりはそんな勇ましい姿ではない。武器を持たぬ澪は、すっかりしおらしい佇まいで体の前で握り締めた手に力を込めた。
統主達も家来達も暫く口を開けたままその姿に魅了された。真っ白い肌によく映える鮮やかな赤髪は、縁側から差し込む太陽の光に照らされて神々しく光輝く。目がくらむ程の眩しさに目を細める者さえいた。
象牙色のドレスは、澪の上半身にぴったりと合い、女性らしい美しい体の曲線を描く。大腿部から下に向かって広がる裾が、まるで伝説の人魚のようで、この世のものとは思えぬ美しさであった。
皆、女神でも舞い降りたのかと錯覚するほどの緊張を覚え、全身に鳥肌が立つ。誰もが声を失い、その姿から一瞬たりとも目が逸らせずにいた。
婚礼衣装に身を包んだ歩澄は、不機嫌そうな表情を浮かべていた。
それでも、他郷の者は見たことのない婚礼衣装に釘付けになる。潤銘郷独特の隣国から輸入した豪華な衣装であった。上下黒の衣装で、中には白の襯衣を着ている。羽織は膝下まで丈があり、襟元から裾まで金糸で模様があしらわれている。生地もしっかりとした重みのある見た目で、思わず手を伸ばして触れてみたいと思うほどであった。
着物に身を包む者達は、その不思議な衣装をもっと近くで見たいと身を乗り出す。
そんな中、「今日は婚礼儀式と聞いたが、相手はどうした。逃げられでもしたか」と馬鹿にしたような声が響いた。
家臣達はぎょっとして声の方へ目をやる。可笑しそうににやりと笑うのは煌明である。その隣で朱々は何事もなかったかのように涼しい顔をしている。
「そのようだな」
歩澄がそう言ってさっさと上段に上がり、準備されていた豪華な椅子へ腰掛けたことにより、辺りは更に騒がしくなる。
「おいおい、本当に逃げられただなんてことはないだろうな」
煌明もこれにはとうとう怪訝な顔をする。
梓乃と緒果は、先に歩澄に澪の姿を見せれば御披露目を中止すると言いかねないと考え、歩澄にさえも会わせず、皆と同じ機会にするよう申し出たのだ。
ぎりぎりまで支度が済まないと理由をつけて、梓乃から歩澄に先に行くように申した。
そんなことはできぬと、眉をひそめる歩澄であったが、障子の向こう側から澪に諭され、仕方なく一人で大広間へと向かったのだった。
「妻は支度に手間取っているようでな。皆の前に出るのが恥ずかしいとのことだ」
歩澄がぶっきらぼうに言うと、紬と朱々はくすりと笑う。
(あの姿では恥ずかしくて見せられぬであろうな……。賢明な判断だ)
朱々は心の中で嘲笑う。
(こんなにも美しい殿方の隣に並ぶんですもの。あの姫様ではお可哀想ですわ)
紬も袖で口元を覆う。
しっかりと障子が閉められたところで、障子の向こう側から梓乃の声が聞こえた。
「本日は皆様、お集まりいただきありがとうございます。奥方様の準備が整いました故、御披露目させていただきます」
もしかしたら澪は顔を出さないのではないか。誰もがそうも思い始めていたところへ、直ぐに聞こえた梓乃の声。皆唖然としながら自然とまた静寂に包まれた。
「何をもったいぶる必要があるのだ」
険しい顔でそう煌明が呟いた瞬間、障子が開かれた。
その刹那、皆の視線は澪に向く。
一気に視線を注がれたことにより、澪はびくりと肩を震わす。こんなにも注目されるのは久方振りであった。といっても、澪が注目されるといったら、決まって刀剣を振る時くらいである。その力強くしなやかな刀捌きは、見る者を釘付けにする。
しかし、今回ばかりはそんな勇ましい姿ではない。武器を持たぬ澪は、すっかりしおらしい佇まいで体の前で握り締めた手に力を込めた。
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象牙色のドレスは、澪の上半身にぴったりと合い、女性らしい美しい体の曲線を描く。大腿部から下に向かって広がる裾が、まるで伝説の人魚のようで、この世のものとは思えぬ美しさであった。
皆、女神でも舞い降りたのかと錯覚するほどの緊張を覚え、全身に鳥肌が立つ。誰もが声を失い、その姿から一瞬たりとも目が逸らせずにいた。
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