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神室歩澄の正室【15】
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未だに澪を抱えたままの歩澄は、「民に見せるのは中止する」とぼそりと言った。
「何をおっしゃっているのかわかりません」
瑛梓だけではなく、梓月すらも目を細める。梓乃から恐らく歩澄様は婚礼儀式さえも中止しようとなさるでしょうと聞かされていたのだ。澪の登場で、その意味を把握した瑛梓と梓月。一瞬二人も澪の姿に見とれたが、すぐに役目を遂行しなければと心を正していた。
「わかるであろう。このような姿を民に晒す必要などない」
「あります。皆、歩澄様と奥方様を一目見ようと集まっているのです。せっかく着飾り、正室として相応しいお姿を披露する場ですよ。民からの支持がなければ王への道も更に険しくなります。潤銘郷統主と奥方様への憧れが強くなれば、それだけ支持を得ることにも繋がります。ここで中止にしては反感を買うだけですよ」
瑛梓の正論に歩澄は口を尖らせる。
「匠閃郷からは銀次達もやってきています」
「銀さんも!?」
銀次の名前を聞き、澪は目を輝かせた。上向きの睫毛が揺れ、目元が光を浴びて反射する。一際その笑顔を際立たせ、瑛梓は思わず穏やかな笑みを浮かべた。
「ええ。小菅村の者は殆ど集まっております。家族同様の村民達に、奥方様の晴れ姿を見せてやりたいとは思わないのですか」
「そ、それはだな……」
銀次の名前を出されては歩澄も強くは出られない。唸る歩澄の腕を掴み、「歩澄様、銀さん達に会いたいです」と言った。
「もちろん会うのはかまわぬ。城に招待してもよい。しかしだな……」
「歩澄様、御披露目をすると民に公言してしまったのですから約束を破るわけにはいきませんよ。私達が民を裏切ってはなりません」
澪にそう言われたことで歩澄はようやく渋々頷いた。
瑛梓はふうっと安堵の息をつき、梓月は呆れたように首を左右に振った。五平と琥太郎は寄り添いながら、どうやら死罪は免れそうだと数歩後ろに下がった。
瑛梓と梓月に急かされ、歩澄と澪は城下へと向かう。家来達の護衛に囲まれながら、城下町を歩き、広場へと向かう。
事前に用意されていた高座に登り、自郷、他郷の民達に手を振る。
向こう側までいっぱいに押し寄せる人々。普段見ることのない人数に澪は圧倒された。しかし、瑛梓に忠告されたように正室としての振る舞いを忘れなかった。
民達はというと、他郷統主同様目を見開き、澪の姿に見とれた。
「やっぱり歩澄様の想い人は、あの赤髪の姫様だったのね」
「悔しいけどとてもお美しいわ……」
「あの髪はどうしてあんなにも輝いているのかしら」
「髪だけじゃないわ。あんなにも豪華なドレスに劣らぬ美貌。それに、あの真っ白な肌はどうなっているのかしら……」
「まるで陶器のようね……」
「あのお方も異国のお姫様かしら」
「いいえ。匠閃郷統主の娘ですって」
「あら……では、あの赤髪は伝説の……」
「ええ。初代王の申し子だって噂よ」
特に美しいものを好む潤銘郷の貴婦人達は、こぞって澪の会話で盛り上がる。そんな会話が澪に届くことはないが、高座から見下ろす民達の表情は恍惚に満ちている。
歩澄の挨拶となり、澪は一旦高座から降りた。するとそこには銀次と妻のお松の姿があった。
「銀さん! お松さん!」
澪が嬉しそうに顔を綻ばせると、二人はぼろぼろと涙を溢した。
「お澪ちゃん、なんて綺麗なんだい。まったく知らないお姫様みたいだよ」
澪の手をとって感激しているお松に、澪はくすぐったそうに笑う。
「これ! お松! 奥方様に失礼じゃあないか!」
鼻水を流しながらも、村長の責任感からか銀次は澪に対する無礼を叱咤した。
「何をおっしゃっているのかわかりません」
瑛梓だけではなく、梓月すらも目を細める。梓乃から恐らく歩澄様は婚礼儀式さえも中止しようとなさるでしょうと聞かされていたのだ。澪の登場で、その意味を把握した瑛梓と梓月。一瞬二人も澪の姿に見とれたが、すぐに役目を遂行しなければと心を正していた。
「わかるであろう。このような姿を民に晒す必要などない」
「あります。皆、歩澄様と奥方様を一目見ようと集まっているのです。せっかく着飾り、正室として相応しいお姿を披露する場ですよ。民からの支持がなければ王への道も更に険しくなります。潤銘郷統主と奥方様への憧れが強くなれば、それだけ支持を得ることにも繋がります。ここで中止にしては反感を買うだけですよ」
瑛梓の正論に歩澄は口を尖らせる。
「匠閃郷からは銀次達もやってきています」
「銀さんも!?」
銀次の名前を聞き、澪は目を輝かせた。上向きの睫毛が揺れ、目元が光を浴びて反射する。一際その笑顔を際立たせ、瑛梓は思わず穏やかな笑みを浮かべた。
「ええ。小菅村の者は殆ど集まっております。家族同様の村民達に、奥方様の晴れ姿を見せてやりたいとは思わないのですか」
「そ、それはだな……」
銀次の名前を出されては歩澄も強くは出られない。唸る歩澄の腕を掴み、「歩澄様、銀さん達に会いたいです」と言った。
「もちろん会うのはかまわぬ。城に招待してもよい。しかしだな……」
「歩澄様、御披露目をすると民に公言してしまったのですから約束を破るわけにはいきませんよ。私達が民を裏切ってはなりません」
澪にそう言われたことで歩澄はようやく渋々頷いた。
瑛梓はふうっと安堵の息をつき、梓月は呆れたように首を左右に振った。五平と琥太郎は寄り添いながら、どうやら死罪は免れそうだと数歩後ろに下がった。
瑛梓と梓月に急かされ、歩澄と澪は城下へと向かう。家来達の護衛に囲まれながら、城下町を歩き、広場へと向かう。
事前に用意されていた高座に登り、自郷、他郷の民達に手を振る。
向こう側までいっぱいに押し寄せる人々。普段見ることのない人数に澪は圧倒された。しかし、瑛梓に忠告されたように正室としての振る舞いを忘れなかった。
民達はというと、他郷統主同様目を見開き、澪の姿に見とれた。
「やっぱり歩澄様の想い人は、あの赤髪の姫様だったのね」
「悔しいけどとてもお美しいわ……」
「あの髪はどうしてあんなにも輝いているのかしら」
「髪だけじゃないわ。あんなにも豪華なドレスに劣らぬ美貌。それに、あの真っ白な肌はどうなっているのかしら……」
「まるで陶器のようね……」
「あのお方も異国のお姫様かしら」
「いいえ。匠閃郷統主の娘ですって」
「あら……では、あの赤髪は伝説の……」
「ええ。初代王の申し子だって噂よ」
特に美しいものを好む潤銘郷の貴婦人達は、こぞって澪の会話で盛り上がる。そんな会話が澪に届くことはないが、高座から見下ろす民達の表情は恍惚に満ちている。
歩澄の挨拶となり、澪は一旦高座から降りた。するとそこには銀次と妻のお松の姿があった。
「銀さん! お松さん!」
澪が嬉しそうに顔を綻ばせると、二人はぼろぼろと涙を溢した。
「お澪ちゃん、なんて綺麗なんだい。まったく知らないお姫様みたいだよ」
澪の手をとって感激しているお松に、澪はくすぐったそうに笑う。
「これ! お松! 奥方様に失礼じゃあないか!」
鼻水を流しながらも、村長の責任感からか銀次は澪に対する無礼を叱咤した。
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