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神室歩澄の正室【17】
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お松は大きく頷いた。
「私達は皆、元気なお澪ちゃんが好きだけどね。勇まさしい姫様だって格好いいけどさ、やっぱり王妃様っていうのは気品と聡明さを兼ね備えた人物だって相場は決まってるんだよ。お澪ちゃんの舞は、一瞬で皆を虜にしちまう気品がある」
お松がそう言ったことで、銀次は瞳を揺らし「おお! そうか! 舞か! 確かに伽代の舞は匠閃郷一だった。いや、国一と言っても過言じゃないぞ。なんたって三つの時から学び、座敷に上がってたんだ! その伽代に直々に仕込まれた舞なら皆さぞ驚くだろうな」と声を張った。
「……歩澄様にはいつか披露するといったけれど……こんな大勢の前で……大丈夫かな」
「当たり前じゃないか! あんたがわざわざ隠してきた女人としての色香を見せ付けておやりよ!」
「い、色香って……」
困惑する澪の背中をぐいぐい押すお松は、満面の笑みを浮かべていた。
いつか銀次とお松は勧玄から言われていたのだ。「九重には黙って澪に舞を続けさせている。統主をも魅了させた舞だ。今後絶対に役に立つ時がくる。そん時は、しっかり背中を押してやってくれ」そんなふうに。今思うと、まるで自分の死期を悟っていたかのような物言いを思い出し、お松は目頭が熱くなった。
歩澄の挨拶が終わったようで、再び澪に高座へ上がるよう梓月から声がかかった。急かされながら高座に向かう澪。
後ろを振り返ると、銀次とお松は頑張ってこいと言わんばかりに拳を上に掲げていた。
その姿に励まされ、澪は覚悟を決めた。
澪の姿を再度目にした民達は、またもうっとり顔を綻ばせた。挨拶をしている間も、言葉など耳には入らない。ただただ美しい澪と歩澄に見とれ、まるで夢心地であった。
澪の挨拶が終わり、一礼をすると澪は歩澄に目を向けた。
「歩澄様、以前言っていた舞をここで披露させてはいただけませんか」
「舞を?」
歩澄は目を瞬かせ、首を傾げる。民への御披露目という名目だが、見せ物ではない。そこまで気を遣ってやることもないのではないか。そんな考えも浮かぶ。
「正室は、何か一つ秀でた芸事を持っているものだとおっしゃっていたではないですか」
「それを言ったのは私ではないがな。まあ……澪がそう言うなら、私はかまわぬ。ただ、今度は私だけのために披露してくれると約束してくれるか」
「ふふ。もちろんです」
高座で仲睦まじく話す二人の様子に、民達もつい柔らかな表情になる。洸烈郷の民達は、煌明と朱々にはない柔らかい雰囲気に穏やかな気持ちになり、栄泰郷の民は皇成と紬にはない厳かな雰囲気に気は抜けずにいた。
民達が何か始まるのかと心踊らせる中、歩澄より澪が舞を披露する旨が伝えられた。その途端、統主の正室の舞がこのような場で見られるのかとわっと会場が沸いた。
潤銘城でもてなすため、待機するよう言われていた他郷統主達だったが、紬と朱々がどのような御披露目をするのか気になると言って聞かないめ、二人を連れて参加していた。
潤銘城の家来達による厳重な警備がされる中、他郷統主と正室達は澪の申し出に眉をひそめた。
「私達は皆、元気なお澪ちゃんが好きだけどね。勇まさしい姫様だって格好いいけどさ、やっぱり王妃様っていうのは気品と聡明さを兼ね備えた人物だって相場は決まってるんだよ。お澪ちゃんの舞は、一瞬で皆を虜にしちまう気品がある」
お松がそう言ったことで、銀次は瞳を揺らし「おお! そうか! 舞か! 確かに伽代の舞は匠閃郷一だった。いや、国一と言っても過言じゃないぞ。なんたって三つの時から学び、座敷に上がってたんだ! その伽代に直々に仕込まれた舞なら皆さぞ驚くだろうな」と声を張った。
「……歩澄様にはいつか披露するといったけれど……こんな大勢の前で……大丈夫かな」
「当たり前じゃないか! あんたがわざわざ隠してきた女人としての色香を見せ付けておやりよ!」
「い、色香って……」
困惑する澪の背中をぐいぐい押すお松は、満面の笑みを浮かべていた。
いつか銀次とお松は勧玄から言われていたのだ。「九重には黙って澪に舞を続けさせている。統主をも魅了させた舞だ。今後絶対に役に立つ時がくる。そん時は、しっかり背中を押してやってくれ」そんなふうに。今思うと、まるで自分の死期を悟っていたかのような物言いを思い出し、お松は目頭が熱くなった。
歩澄の挨拶が終わったようで、再び澪に高座へ上がるよう梓月から声がかかった。急かされながら高座に向かう澪。
後ろを振り返ると、銀次とお松は頑張ってこいと言わんばかりに拳を上に掲げていた。
その姿に励まされ、澪は覚悟を決めた。
澪の姿を再度目にした民達は、またもうっとり顔を綻ばせた。挨拶をしている間も、言葉など耳には入らない。ただただ美しい澪と歩澄に見とれ、まるで夢心地であった。
澪の挨拶が終わり、一礼をすると澪は歩澄に目を向けた。
「歩澄様、以前言っていた舞をここで披露させてはいただけませんか」
「舞を?」
歩澄は目を瞬かせ、首を傾げる。民への御披露目という名目だが、見せ物ではない。そこまで気を遣ってやることもないのではないか。そんな考えも浮かぶ。
「正室は、何か一つ秀でた芸事を持っているものだとおっしゃっていたではないですか」
「それを言ったのは私ではないがな。まあ……澪がそう言うなら、私はかまわぬ。ただ、今度は私だけのために披露してくれると約束してくれるか」
「ふふ。もちろんです」
高座で仲睦まじく話す二人の様子に、民達もつい柔らかな表情になる。洸烈郷の民達は、煌明と朱々にはない柔らかい雰囲気に穏やかな気持ちになり、栄泰郷の民は皇成と紬にはない厳かな雰囲気に気は抜けずにいた。
民達が何か始まるのかと心踊らせる中、歩澄より澪が舞を披露する旨が伝えられた。その途端、統主の正室の舞がこのような場で見られるのかとわっと会場が沸いた。
潤銘城でもてなすため、待機するよう言われていた他郷統主達だったが、紬と朱々がどのような御披露目をするのか気になると言って聞かないめ、二人を連れて参加していた。
潤銘城の家来達による厳重な警備がされる中、他郷統主と正室達は澪の申し出に眉をひそめた。
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