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想いの矛先

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「職場の先輩と来ているんですが、いい雰囲気なので私も誰かとお話しようかと思ったところです」

 亜純は素直に答えた。男はチラチラと亜純の目を何度か見てから言いにくそうに「あのー……実は、さっき聞こえてしまったんですけど……離婚経験が有るんですか?」と尋ねた。

 亜純はきょとんとした顔をしながら、ああ、だからソワソワしてたのかと頷く。

「ええ。まだ離婚して3ヶ月です」

「さ、3ヶ月!? 早いですね……」

「今すぐ再婚したいわけでもありませんし、仮にしたかったとしてもあともう少しで100日経ちますから」

「そうですか……あの、実は僕もバツイチなんです」

 男は頬を指先でカリカリと掻きながらへらっと笑って言った。どこか頼りなさそうだった。依とも千景ともタイプが違う。
 たまに園児を迎えにくるパパたちとも違う。あまり出会ったことのないタイプで戸惑ったが、同じバツイチ同士というところだけは親近感を覚えた。

「あ……そうだったんですね」

「はい。僕はもう2年経つんですけど、その、相手の不倫が原因で」

「それは……大変でしたね」

 亜純は理由を聞いたわけでもないのにそんなことを言われても困ると思いながらも、そう答えた。
 これじゃまるで自分の理由も言わなきゃいけないみたいじゃないかと息苦しさを感じたのだ。

 同じバツイチ同士なら話が合うかともおもったけど、これはなんだか難しそう……。そんなふうに思いながら、元妻が不倫に至った経緯を聞かされた。

「あの……すみません。元奥様のお話はそんなに興味がないと言いますか……私も相談に乗りにきたわけではないので……本当にすみません」

 亜純は10分ほど我慢したが、とうとう痺れを切らしてその場を離れた。

 なんだか変な人につかまっちゃうな……。

 段々と疲弊しながらも何人かと会話を繰り返した。
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