したい夜はきみとじゃない

雪村こはる

文字の大きさ
185 / 243
愛情は感じるもの

10

しおりを挟む
 悠生は、小さく笑った。

「ホテル代? 亜純ちゃんが払ってくれるの?」

「う、うん……。私の都合でご飯行けなくなりそうだから、せめてホテル代だけでもって思って……」

「そんなこと気にしなくてもいいのに。俺が亜純ちゃんと来たかったから来たんだよ」

「それは……私も同じだから」

「そっか。じゃあ、今回だけはお願いしようかな」

 亜純は悠生の言葉に驚いた。何だかんだ言ってここは悠生が払うものだと思っていたのだ。しかし、他人の財布を勝手に開けて金を盗むくらいだからホテル代を払ってくれるならその方がいいのだろう。
 亜純はこんな思いをさせられてまでなぜ自分が払わなければならないのかと思いながらも、これで解放されるならそれでいい気がした。

 現金はないが、クレジットカードは入っている。暗証番号を見られないようにだけ気を付ければいい。

「わかった。……じゃあ、行こうか」

 言いながら亜純は財布を開けた。

「……え?」

 亜純はポロリと声を漏らした。そこにあるはずのない1万円札が入っていたからだ。悠生はすぐにそれに気付くと「どうかした?」と尋ねる。
 きっと財布の位置が変わっているということは、自分が疑われているんだろうと悟った悠生がこっそり戻しておいたのだ。亜純はどこまでもバカにされているような気がして憤りさえ覚えた。

「ううん……なんでもない」

「なんでもないって感じじゃなかったよね」

「本当になんでもないから。カードで払うから待ってて」

 亜純はそれだけ言って、1人精算機へと向かった。札には悠生の指紋がついているはずだ。本来つくはずのない悠生の指紋がついていたら、触った証拠にはなる。
 悠生を処罰できるかどうかはわからないが、亜純もその金には触れない方がいいと思った。

 暗証番号を覗きにくるかと思ったが、悠生はおとなしく帰り支度をしていた。亜純が会計を済ませて戻ると「ありがとう」と笑う。
 その笑みにすらゾッとした。

「うん。帰ろう」

「うん。それより、さっきの何だったの?」

「何が?」

「財布の中見て、えって言ったの」

「……なんでもないってば」

 何でそんなに突っ込んで聞いてくるんだ。いい加減しつこい。そんなふうに亜純が思った瞬間、ゴッと顎辺りに鈍い痛みを感じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

継承される情熱 還暦蜜の符合

MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。 しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。 母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。 同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...