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愛情は感じるもの

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「はっ……なんだよ、強がっちゃって。そもそも自分が疑われるようなことするから悪いんだろ!」

 悠生は、余裕なさ気に声を荒らげた。

「私は疑われるようなことはしてない。ホテル代だって払ったし。それに、お札にはもしかしたらゆうくんの指紋がついてるかもしれないよね」

「はぁ? 札なんて皆触るし、俺以外の指紋だってついてるだろ。そもそも元々が俺の金なら指紋ついてて当然だし」

「じゃあ、一緒に警察いく? 両方の財布を出して指紋取ってもらう? 多分ゆうくんのお財布からは私の指紋は出ないと思うけど」

「別に……そこまで言ってないだろ! つーか、さっきからなんなんだよ。こんなの脅迫じゃん。脅迫罪だよ、脅迫罪!」

 悠生はやってられないとばかりに両手を挙げた。亜純はジンジンと痛む唇が乾くのを感じた。

「それはゆうくんでしょ。大きな声を上げて私の服を掴んで、暴力まで振るった。だから傷害罪もおまけ付きだね」

「うるせぇな! 殴られるようなことしたお前が悪いんだろ! まぁ、殴った証拠もないけどな。警察行きたきゃ行けよ。どうやって証明するのか知らないけど」

 そう言いながら悠生は灰皿をソファーにかけてあったタオルで丁寧に拭った。自分の指紋も亜純の細胞も消すつもりなのだ。

「はい。ご苦労様でした。バカバカしい、帰ろ」

 悠生がタオル越しに持った灰皿を乱暴にテーブルの上に置き、背を向けたところで亜純はバッグからスマホを取り出した。
 財布から1万円札が抜き取られているとわかった時に、スマホでボイスレコーダーアプリをダウンロードし、録音ボタンを押しておいたのだ。
 バッグのマチの間にスマホを潜り込ませてあったため、悠生はその存在には気付いていないようだった。
 亜純は録音を停止すると、そのデータを自分のパソコンと千景に送った。これでこの場で消せと言われても、証拠が消えることはない。
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