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愛情は感じるもの

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「病院と警察行ってさ、落ち着いたらどっか出かけようか? 亜純の行きたいところ」

 千景はそう提案した。亜純が結婚している時は、依と休みを合わせてよくどこかへ出かけていた。
 自宅で亜純を独占したい依も、亜純が行きたいところがあればそれに従った。時には亜純が喜びそうなところを探して依の方から誘うこともあった。

 そんな過去があったことも千景は亜純から聞いている。離婚した今となっては新しく出来た彼氏と色んなところに行くのが楽しみだったのだろうと想像はつく。
 千景はいつだって亜純の休みに合わせられるし、亜純の気分転換になるのならどこにでも連れてってやりたいと思った。

「お出かけ? ……千景が連れてってくれるの?」

 亜純は不意に顔を上げた。下から覗き込むように目線を上げた亜純の瞳は真っ赤に充血していた。
 瞼も頬も赤く色付いている。千景は何度か見たことのある泣き顔を見て柔らかく微笑んだ。

「うん。どこでもいいよ」

「えっ……。どうしよう」

 躊躇いがちに視線を逸らした亜純。千景は急に誘い過ぎたかと軽く動揺したが、亜純がすぐに「いっぱいあって迷う!」と困ったように眉を下げたものだから思わずふふっと笑ってしまった。

「いいよ。全部行ったらいいし」

「えー……。そっかぁ、全部かぁ。えー……どうしよう」

 亜純は病院も警察署のことも忘れてしまったかのようにうーんと考え始めた。悩むくらいやりたいことも行きたいこともあったのだろうと思えた。

「あ、ねぇ千景」

 亜純は思いついたようにまた千景の顔を見あげた。

「ん?」

「私、久しぶりに千景が絵描いてるところ見たいよ」

「俺の絵?」

「うん! だって、お出かけは誰とでもできるけど、千景の絵は千景にしか描けないでしょ?」

「っ……」

 嬉しそうに言う亜純に、千景は言葉を失った。
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