したい夜はきみとじゃない

雪村こはる

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新しい風

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 真白は順を追って半生を振り返った。綾菜は時折手で口元を覆ったり、顔を青白くさせたり、時にはギュッと目を瞑った。

 途中、真白の方から「聞きたくなかったら言って。きっと楽しい話はしてあげられないから」と言ったが、綾菜は「ちゃんと最後まで聞きたい」と言って決して逃げなかった。
 語りながら過去を思い出す真白は、吐き気を催した。両親の顔がリアルに浮かんできた。10年以上経った今でも、両親の血の臭いを覚えているのだ。

 殴った時の手の痛みも痺れも。それに散々父親から受けた被害も。すぐ側に感じるそれに、真白の声も震えた。
 綾菜はそんな真白を見て目を潤ませた。思い出したくない過去を思い出させてしまったのだと気付いたからだ。
 真白はどこか影のある女性だったが、まるで悩みなどない、皆から愛されて生きてきたように振る舞うのが上手だった。だから綾菜はまさか真白に暗い過去があるだなんて思いもしなかった。

 両親の愛情をたっぷり受けて育った綾菜にとっては全身が汗でびっしょりになるほど、恐怖を感じる話だった。
 聞くだけだっておぞましいのに、真白はそれを体験しているのだ。当然人間不信になって、人と関わることが怖いはず。それなのに、自分のことを信用して洗いざらい話してくれる真白が儚く見え、いつもは憧れのお姉さんだった彼女を守ってあげたいと思った。

 同時にこんな過去を思い出させたからには、一緒に背負っていくくらいの覚悟を持たなければと思えた。

 真白は亜純のことも、依のことも話した。もちろん自分が同性愛者であることも。そして、1番大切だった人を傷付けた自分が綾菜といたことで幸せを感じ、罪悪感に駆られたことも。

 いつの間に綾菜はボロボロと涙をこぼし、真白の隣へ近付くと、そっとその体を抱きしめた。
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