ガラスの靴をもらわなかった方は

櫻 左近

文字の大きさ
7 / 30

7.魔道具

しおりを挟む
 実に十日。
 携帯できる収納魔道具ができあがった。
 細身のブレスレットに小さな魔石がずらっと一列に並んではめ込まれている。その一つ一つに様々な衣装や装飾品などが入っており、出し入れができる。
 一つの石に一つのアイテムを収納してあるのだ。いくつかは未だ空であるが、これなら当面の生活に支障は無い。いざというときの備えにもなるはずだ。量産できれば、騎士や兵の遠征などでも重宝するだろう。
 問題は魔力量の少ないものには重く感じる、という点だ。
  コンコン。
「どうぞ」
「失礼いたします。……あ、完成したんですね」
 お仕着せ姿のナナが、カートに食事を乗せて入ってきた。
「取り敢えずね。求めているものには、程遠いけれど……」
 物を出し入れするのは誰が使っても出来るが、変身のような機能は魔力消費が激しすぎて、実用的ではない。操作性も不安定で、下手をすると袖に首を突っ込んで窒息……ということもあり得る。
 とは言え、これだけでもかなりの大発明だ。
「これ、光魔法を使ってないんですね」
「!」
 ナナのセリフに、一瞬動揺が走った。無属性なら、もの凄く使った。それはもう、ふんだんに。
「魔道具の研究だけじゃなくて、属性魔法の研究もお忘れなく」
「忘れていたかったわ」
 無属性の研究も兼ねてるの、とは言えない。光魔法を忘れたかったのも、事実だ。
「この魔道具に、組み合わせられないんですか?」
「光を?」
「いやまあ、確かに、できそうな感じは少ないですけどねー」
「いえ、いいアイディアよ!ありがとう、ナナ」
  イオリティは微笑んでお礼を伝える。
「では、私の業務はこれで終了ですので、今から自分の研究にかかります」
「ありがとう。ナナも頑張ってね」

  

「最近忙しそうだったけれど、成果はでたの?」
 サロンの個室付給仕を下がらせて、ガチガチに緊張したナナにお茶を勧めた途端にこれだ。
「せっかちね、ヘレナ」
「あら、申し訳なかったわね。初めまして、ナナ。ヘレナ・ストラディアよ。わたくしとも、ぜひ仲良くしてちょうだい」
 令嬢としておっとりした色気を醸しながら、目の奥では獲物を狙っている鋭さを閃かせているヘレナ。
「ナナと申します。宜しくお願いいたします」
 緊張と恥ずかしさと本能的な恐怖で、ナナは頭を下げるのが精一杯だ。
「これ、ヘレナへのプレゼントよ」
 小さな箱をそっと渡す。
「あら?ありがとうーーまあ、可愛いわね!わたくしの瞳に合わせてあるなんて、嬉しいわ」
 ヘレナの色を使った細身のブレスレットは、彼女が持つとしっくりくる。早速、利き手で無い方に着けた。
「これ、魔道具なのね……」
 ヘレナは色々と触り、仕組みを理解したらしい。
 昨夜渡したイオリティの家族は説明するまで魔道具とは気付かなかった。ナナにも渡してその場の全員に他言無用を誓わせた。
 使うのが楽しみだわ!と母の興奮した気配に少し引いたが、ばれないようお願いするに留めた。
「流石ね、解るの?」
「辺境伯家の人間を舐めないでよね。これ、なんだか中が広いの……?」
「え、そこまで解るんですか?」
 ナナがびっくりしすぎたのか、緊張も忘れて問いかけた。
「ざっくりとだけど。魔石の中に空間を創ったのね……。へえ。わたくしにはできない魔力の使い方ね」
「使い方はその中の手紙に書いておいたわ。家族と親しい人にしか渡していないから、まだ公にはしないで欲しいの」
「勿論よ、こんなに素敵なものを本当にありがとう!家族や婚約者にだって、内緒にしてみせるわ」
 そう言ったヘレナは、にやりと笑った。
に渡すなんだからーー当然、殿下にも献上するのよね?」
「ーーえ?」
「だって、大事な婚約者候補だわ。ーーねぇ?」
 ヘレナはわざとらしくナナに同意を求めるように微笑みかけた。
「え、いや、その……」
 ちらり、と助けを求めてナナを見やるも思い切り裏切られる。
「ちゃぁんと御用意されてたではありませんか」
 にまにまとイオリティを見返すナナ。
 ぶわり、と顔の中心から熱が広がり視界の端がぼやけてくる。
「そ、そうなんだけど……その……」
 扇を取り出して軽く扇ぎ、口元を隠しながらちらり、ちらりと二人を見る。
「それなら、きちんと渡していらっしゃいな」
 ヘレナはにやりと笑みを深め、紅茶に口をつけた。
「どうせ、に遠慮してるんでしょう?」
「そ、ういう訳でも、ないんだけど……」
 渡していいものか。受け取ってもらえるのか。
 サンドレッドなら素直に渡して、喜んで受け取って貰えそうなのに、と思う。
「大丈夫よ。もしバレても、あの方ならちゃーんと嘆き悲しんで、周りを巻き込みまくって、悲劇のヒロインとして振る舞ってくれるわ」
 ぶふっ。
 ヘレナのセリフに、ナナの喉は耐えられなかったらしい。ごぼごぼと咳込みながら、ハンカチで口元を押さえるが、肩は小刻みに揺れている。
「だ、大丈夫?!」
「は、はい……ぶっ。申し訳ありません……ふくっ。あの、方は、やっぱり、いつもそんな感じなんですね……くくっ……こほっ」
 イオリティとともにいる時、何度かサンドレッドに遭遇した。その結果、アレは小さな天災だなとナナは結論付けた。 
 イオリティがどのような言葉を返しても、自分を哀れな存在に位置付けることができるのだ。
(ナニコレ、嫌がらせ?)
 初めての遭遇で抱いた疑問だった。話しが通じないなんてものじゃない。一人舞台の演出にされるのだ。
 イオリティが言質を取られないように話せているのが凄い。
「アレ、かなり精神的に疲労が溜まるのよ……しかも、悪意がないからーー余計にタチが悪くって」
 あー、とナナは頷くしかなかった。
 サンドレッドの凄い所は、絶対に他者を悪く言わないところだ。他者を持ち上げたり、ちょっとした言い回しで己を悲劇の中に放り込み、周りの哀れを誘い、味方につける。
 劇場を展開する天才天災なのだ。
「王宮で渡せば良いじゃない。あの方が学園にいる時で、殿下が執務で城にいらっしゃる時があるでしょう?」
 優秀な王太子は卒業資格を当然得ているため、生徒会のためだけに学園に訪れる。
「そうね……」
 そこまでするものか、と思う。
「イオがしてるブレスレット、殿下からのプレゼントでしょう?お返ししなくて良いの?」
「は!?えっ?!な、なん……?」
(なんで、知ってるの!?)
 動揺のあまり、言葉を紡げないイオリティにナナがキラキラとした目を向けている。
「そのお話、ちょっと、詳しく聞きたいです!」
「話すことなんて、特にないのよ。突然渡されただけなんだから」
 言われたのは、常に身につけることだけ。
「プレゼントを貰ったなら、ちゃんとお返しが必要よね。こっそりいただいたなら、こっそりお渡しでいいとと思うわよ」
「ちょっ」
 済ました顔で紅茶を飲むヘレナが憎たらしい。
「だって、明らかに貴方と殿下の色じゃない、それ」
 そう言ってヘレナが目をやった先にはイオリティの手首に光る細身のブレスレット。慌てて隠すも、ナナもヘレナもしっかりと見た後だった。
「でも」
「あら、ーー何が不安なの?」
 ヘレナに言われ、イオリティの視線がブレスレットに落ちる。
「サンドレッド様は、もっと違うものをプレゼントされているかも知れないのよ。それに、わざわざ御礼を差し上げて、ご迷惑になるかもしれないわ」
 現在の学園でのお茶会にしても、以前の妃教育中のお茶会にしても、サンドレッドが他の候補より優遇されていたのは、確かだ。
「そんなに心配しなくても、ちゃんと付き添ってあげるわよ。わたくしの方が、下手な護衛より良いと思うわ」
「あ、あたしも侍女としてついて行きます!」
 心強い申し出だが、気恥ずかしくもある。 
「せっかく作ったんですから。だめだったら、持ち帰りましょう!やらずに後悔するのは、ダメですよ!後々、絶っっ対、引きずります!」
 ナナのいう通りかもしれない、とイオリティは頷いた。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

ローザリンデの第二の人生

梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。 彼には今はもういない想い人がいた。 私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。 けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。 あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。 吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 1/10 HOTランキング1位、小説、恋愛3位ありがとうございます。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

「義妹に譲れ」と言われたので、公爵家で幸せになります

恋せよ恋
恋愛
「しっかり者の姉なら、婚約者を妹に譲ってあげなさい」 「そうだよ、バネッサ。君なら、わかるだろう」 十五歳の冬。父と婚約者パトリックから放たれた無慈悲な言葉。 再婚相手の連れ子・ナタリアの図々しさに耐えてきたバネッサは、 その瞬間に決意した。 「ええ、喜んで差し上げますわ」 将来性のない男も、私を軽んじる家族も、もういらない。 跡継ぎの重責から解放されたバネッサは、その類まれなる知性を見込まれ、 王国の重鎮・ヴィンセント公爵家へ嫁ぐことに。 「私は、私を一番に愛してくれる場所で幸せになります!」 聡明すぎる令嬢による、自立と逆転のハッピーエンド。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない

春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。 願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。 そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。 ※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

義務ですもの。

あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。

処理中です...