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ヤンデレ男の娘の取り扱い方2~デタラメブッキングデート~

74.女医と鍵

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「ここで予約を取ることもできますが、お急ぎなら近場のメンタルクリニックもご紹介します。おそらく精神科を受診されるよりは早いですよ」

「うーん……そう……ですね……」

 そうしよう……かな。
 ここまで来てしまって落胆はある。
 しかし1ヶ月も先まで気長に待っていられない。

「もし良ければ私が診ましょうか?」

 いつの間にか、僕の隣に見知らぬ女性が立っていた。
 年の頃は30前半ほど。
 白衣を着ている。この病院の女医なのだろうか。

 ポケットに手を入れ、すらりと伸びた背筋が凛々しい。
 毅然とした立ち姿でありつつ、そこに威圧感もない。

「…………え?」

 受付の男性がポカンと口を開けて女性に目を向けている。
 その瞳に困惑の色が浮かんでいた。

 様子がおかしい。
 この女性はここの関係者ではないのか?

「私、ちょうど手が空いていますから、こちらで診療しますよ」

 白衣の女性は受付の男性を見つめたまま静かに微笑む。
 ゆったりした口調で、説くようにそう告げた。

「あ……………………そう、ですね。お願いします」

 男性はこくりと頷き、何事もなかったかのように視線をパソコンモニターに戻す。

「じゃあ、行きましょうか」

 女性が首で付いてくるように促す。
 早くはないが、迷いのない足取りで先に立って歩き出した。

「あ……はい」

 今さっきの、女性と受付男性の妙なやり取り。
 あれを見た上で、僕は何故か何の疑問もないまま女性の後に続いた。
 思考の片隅で何か引っかかっているが、それが何か判別できない。

 自分でも不思議なくらい、彼女を信用しきっていた。
 不自然なほど自然に、彼女に害意がないと。
 だから言われるがままに、その後ろに付いていった。




 精神科から離れ、廊下の突き当たりを曲がった廊下。
 そこは治療とは別用途に使われていると思しき、部屋の連続だった。
 待機室とか仮眠室、あるいは物置などがあるのだろうか。

 人気がない。遠くで声は聞こえるものの、隔絶された世界のように静かだった。
 それに薄暗い。電灯がないにしても、昼間なのに妙に光度が足りない。窓はあり、外光が入ってくるので、薄暗く感じるのもおかしな話であるが。
 どことなく霊安室のような、雑音自体が少ない。

 前を歩く女性が、奥から3番目のドアの前で立ち止まる。

「んー……ここでいっか」

 ここでいっか?
 どこか目的の部屋を目指して歩いていたのではなかったのだろうか。
 それとも、ちょうど良くこの部屋の都合が良いという意味なのか。

 女性はポケットに入れていた手を出し、ドアノブの前で何か握っているような形で捻る。
 ちょうど鍵を差し込んで回すような。
 だがその手には何もなかった。

「ガチャリ」

 と彼女は口で言う。
 そしてドアノブを回すと、当たり前にドアは開いた。

 最初から開いていたのではなかろうか。
 今の奇行は何なのだろう。
 変な人だ。

「さ、どうぞ」

 そう言って入室する彼女に促され、僕も後に続く。
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