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ヤンデレ男の娘の取り扱い方2~デタラメブッキングデート~

101.ファースト

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「わっわっ……あーくん、これどうするの?」

「こうやって、さっきみたいに銃口を向けて、引き金を引くんだよ」

 画面上の自分のレティクルを農夫の男性に向け、発砲する。
 右肩の付近に着弾と出血表現が表示される。

『オオオォォォ……!』

 農夫は大げさに両手を振り回し、右背後に仰け反る。

「こ……こう?」

 三郎がやはり不慣れな手つきで、両手に持ったガンコントローラーを前方へ突き出す。
 突き出そうとしすぎて、体が前のめりになっている。
 テキヤの射的ではないのだから、身を乗り出しても操作認識は変わらない。
 本人がやりやすいのなら、それでいい。

「そうそう、落ち着いてね」

「えいえいえいっ!」

 バスバスバス!
 3回引き金が引かれ、1発目は画面の右上端に、2発目は農夫の胸に、3発目は振り上げた鎌に当たった。

『グォオオオオオ……!』

 農夫が倒れる。
 下にスクロールしながら消えるようにフェードアウトした。

「ねっねっ、あーくん見た? さーやが倒したよ」

 三郎が頬を紅潮させこちらに迫る。

「うん、凄い凄い」

「へへへ……」

 嫌味にならない程度に小さく拍手をする。
 三郎が破顔して照れる。

 最初の敵キャラクターなので動作も遅く、体力も低めに設定されている。
 攻撃の頻度も少ないはずで、初心者でも簡単にクリアできるようになっているはずだ。
 被弾箇所によってダメージソースは違うだろうが、僕の撃った1発と三郎の1発で片付いた。

 照準ブレ機能がなかったから、初弾を額にぶち込んだら1発で倒せたかもしれなかったが、ゲームセンターに慣れていない三郎にトドメを譲った。
 その方が彼も気分が良いだろうから。


 農夫の敵キャラクターが完全に消滅する。
 ポン、と電子音1つが鳴り、+120と撃破ポイントが浮かび上がる。
 左上の総合点に加算された。

 その瞬間、キーンと耳鳴りのような怪音が鼓膜を叩いた。
 細い針が耳孔を貫くような、低いが鋭い音。

 画面に映る背景が紫と黄色に染まり、二重にブレた。
 ゲーム開始時と似たような症状。
 それもほんの1秒未満のことで、すぐに快復する。

 何なのだろう……。
 気にする程でもない、軽い不調。

 隣の三郎は、軽く目を抑えていた。

「大丈夫? 気分悪い?」

「……ううん、平気、なんでもない。ちょっと目がチクリとしただけ。それより早く続けよう」

 元気そうだ。

「……あぁ、そうだね」

 釈然としないながらも、ゲームに戻る。
 やはり不調はほんの一瞬だった。
 明確に気分が悪い訳ではないので、止めようと言い出せない。
 調子を伺ったのも、三郎の方から止めると言うのを少し期待していた。

 とはいえ、これくらいなら平気だろう。
 以前にもっと酷いゲーム酔いを引き起こしたことだってある。
 それに比べたらどうということもない。
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