150 / 223
ヤンデレ男の娘の取り扱い方2~デタラメブッキングデート~
147.稚児
しおりを挟む
ふと、唐突に恐怖を覚える。
もしこの子供が結城だとして。
今目にしている光景が異形の祭りだとしても、状況や行動が現実に直結してはいないだろうか。
異形の景色が世界の裏側だと僕は考えた。
だとしたら、異形の世界で自分が素面として行動しながらも、現実世界では奇行をしていないと言い切れるのか。
認知症のように認知の歪みを引き起こしていないか。自分が正常だと思い込んでいる行動が、他者に異常と映っていないか。
例えるなら、夢遊病での徘徊だとか、覚せい剤で幻覚に陥りながらの凶行とか。
つまりこの子供は結城自身で、今僕が取った子供への対応はそのまま結城に行われた、とか。
そうすると、現実では奇怪な言動をする異常者だと捉えられかねない。
怖い。
現実の僕はいったいどうなってしまっているんだ。
気絶して倒れているのか、起立したまま意識を失っているのか。それとも夢遊病よろしく歩き回っているのか。
倒れているだけなら、それはそれで良い。
もしかしたら誰かが救護室にでも運んでくれているかもしれない。
しかし万が一、転倒の際に頭でも強く打ち付けていたら、最悪死んでいる可能性もある。
先日、夕方気絶した時は玄関に倒れたまま時間は経過していた。
だがあれは昏睡していた。夢も同然だった。
それ以外では、起きたまま異形の世界にいる時、概ね現実と同じ時間が流れている。
だとすると、やはり今も自分が何をしているかはともかく、経過時間は体感と変わらない。
いや、参道が尋常ではなく長かった。必ずしも現実と時間や場所が連動しているとも言い切れない。
「ねぇねぇ、おにいちゃん。何を考えこんでるの? どうせつまんないことでしょ。今は楽しもう。ボクと一緒にお祭りを回ろうよ」
般若面の子供が一歩前に出て、手をくいっと引っ張ってきた。
弱々しい力。
僕に自分の意思でついてこいと言っている。
「あぁ……でも、他に人を待たせてるからさ」
「その人なら先に行って待ってるよ。だから、ね? 一緒に行こう」
そうか。
結城は先に行って待ってるのか。
この子供が僕の連れ合いを知っているはずがない。
だが、その言葉は催眠のように信じ込んでしまいたくなる。
「やめろよ」
掠れの混じった声。
誰かが横から僕と子供の繋いだ手を叩いた。
ヒリとした痛みで微睡(まどろ)んだ意識が我に返る。
「誰よあんた」
般若面の子供が、手を叩いた相手を睨みつける。
面を被っているので確かには言えないが、僅かに苛立った調子なので実際そうなのだろう。
それまで機嫌の良かった子供が、初めて見せる怒りの感情だった。
「誰でもいいだろ」
相手もまた子供だった。
身長から推察する年齢もまた、概ね8~9歳頃の少年。
素人の散髪した、いい加減に切り揃えた短い黒髪。いかにも生命力が高そうで、太くツンツンしている。
擦り傷だらけで頬に痣のある、しかし妙に整った顔立ち。唇に二、三切り傷痕がある。喧嘩でもしてきたのだろうか。
面も何も被っていない、素顔だった。肌は健康的に、やや浅黒い。
釣りあがった眉と、真一文字に結んだ口は不機嫌そうだ。
しかしどこか可愛らしいと感じさせる容貌である。
同時に纏う雰囲気は、飢えた狼のようでもあった。
服装は灰色のパーカーと茶のカーゴパンツ。
上も下も長袖で暑苦しい。
普段着であれば普通で、祭りの場では浮いている。
子供らしい服装と言えばそうで、小さい頃は僕もこんな服を親に着せられていたような気もする。
「……お兄さん、行っちゃ駄目だ」
少年は僕の袖を引き、下から斜めに見上げてくる。
睨みつけられたと思ったが違った。
その視線に訴えかける情がある。
行くな、ではなく行かないでくれ。
もしこの子供が結城だとして。
今目にしている光景が異形の祭りだとしても、状況や行動が現実に直結してはいないだろうか。
異形の景色が世界の裏側だと僕は考えた。
だとしたら、異形の世界で自分が素面として行動しながらも、現実世界では奇行をしていないと言い切れるのか。
認知症のように認知の歪みを引き起こしていないか。自分が正常だと思い込んでいる行動が、他者に異常と映っていないか。
例えるなら、夢遊病での徘徊だとか、覚せい剤で幻覚に陥りながらの凶行とか。
つまりこの子供は結城自身で、今僕が取った子供への対応はそのまま結城に行われた、とか。
そうすると、現実では奇怪な言動をする異常者だと捉えられかねない。
怖い。
現実の僕はいったいどうなってしまっているんだ。
気絶して倒れているのか、起立したまま意識を失っているのか。それとも夢遊病よろしく歩き回っているのか。
倒れているだけなら、それはそれで良い。
もしかしたら誰かが救護室にでも運んでくれているかもしれない。
しかし万が一、転倒の際に頭でも強く打ち付けていたら、最悪死んでいる可能性もある。
先日、夕方気絶した時は玄関に倒れたまま時間は経過していた。
だがあれは昏睡していた。夢も同然だった。
それ以外では、起きたまま異形の世界にいる時、概ね現実と同じ時間が流れている。
だとすると、やはり今も自分が何をしているかはともかく、経過時間は体感と変わらない。
いや、参道が尋常ではなく長かった。必ずしも現実と時間や場所が連動しているとも言い切れない。
「ねぇねぇ、おにいちゃん。何を考えこんでるの? どうせつまんないことでしょ。今は楽しもう。ボクと一緒にお祭りを回ろうよ」
般若面の子供が一歩前に出て、手をくいっと引っ張ってきた。
弱々しい力。
僕に自分の意思でついてこいと言っている。
「あぁ……でも、他に人を待たせてるからさ」
「その人なら先に行って待ってるよ。だから、ね? 一緒に行こう」
そうか。
結城は先に行って待ってるのか。
この子供が僕の連れ合いを知っているはずがない。
だが、その言葉は催眠のように信じ込んでしまいたくなる。
「やめろよ」
掠れの混じった声。
誰かが横から僕と子供の繋いだ手を叩いた。
ヒリとした痛みで微睡(まどろ)んだ意識が我に返る。
「誰よあんた」
般若面の子供が、手を叩いた相手を睨みつける。
面を被っているので確かには言えないが、僅かに苛立った調子なので実際そうなのだろう。
それまで機嫌の良かった子供が、初めて見せる怒りの感情だった。
「誰でもいいだろ」
相手もまた子供だった。
身長から推察する年齢もまた、概ね8~9歳頃の少年。
素人の散髪した、いい加減に切り揃えた短い黒髪。いかにも生命力が高そうで、太くツンツンしている。
擦り傷だらけで頬に痣のある、しかし妙に整った顔立ち。唇に二、三切り傷痕がある。喧嘩でもしてきたのだろうか。
面も何も被っていない、素顔だった。肌は健康的に、やや浅黒い。
釣りあがった眉と、真一文字に結んだ口は不機嫌そうだ。
しかしどこか可愛らしいと感じさせる容貌である。
同時に纏う雰囲気は、飢えた狼のようでもあった。
服装は灰色のパーカーと茶のカーゴパンツ。
上も下も長袖で暑苦しい。
普段着であれば普通で、祭りの場では浮いている。
子供らしい服装と言えばそうで、小さい頃は僕もこんな服を親に着せられていたような気もする。
「……お兄さん、行っちゃ駄目だ」
少年は僕の袖を引き、下から斜めに見上げてくる。
睨みつけられたと思ったが違った。
その視線に訴えかける情がある。
行くな、ではなく行かないでくれ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
24
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる