漆黒の大魔将軍は勇者に倒されたはずでした!?

武家桜鷹丸

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第三章 半世紀後の世界。

ギルドマスターになった男。

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 久々のハコダンテ国を訪問してから早くも半月。
 大黒林から南に約四百メートル先では木の柱に網目状に組んだ有刺鉄線を付けられた壁が約三キロメートルに渡ってハコダンテ国との間に建設されておりまだまだ延長させる作業が続いていた。
 あれからハコダンテ王の命令で冒険者ギルドへの応援は断り、兵士達は壁を作る作業に追われていた。
 一方こちらも大きな仕事が1つ終わった。
 ついにケット・シー達の居住区が完成した。
 外からはレンガ作りの二階建ての一軒家にみせた建物の中は地下へ続く分厚い門があり、そこから左右に部屋がホテルのように連なっておりケット・シー達はグループ分けして住んでいる。
 ケット・シー達の住み処が完成したことで次はエルフやドワーフの家を現在建設中である。
 ハコダンテ国から荷馬車で運ばれた奴隷隊のエルフとドワーフ達は大黒林の前に降ろされ困惑していたところへパーサーが現れて解放されたことを伝えれば皆が喜んでみせた。
 しかしパーサーの案内した先で我と出会うとすぐに悲鳴を上げた。
 かなり離れたところでパーサーが長く解説するとドワーフが先に納得して従う意思を示してくれたのでエイムに頼んで拘束を解いてあげた。
 エルフは首輪型だったがドワーフは腕輪型で脱力感を与える仕組みだった。
 一人が拘束から解かれるのを見て他のドワーフやエルフも前に出てくれたので全員の拘束を解いてやり治療と充分な休息を与えてあげた。
 大魔将軍として双方の種族から恐れられた我が今ではまるで難民支援団体のような活動をしていることに少しだけ嬉しく思ってしまう。
 しかしここから先は大魔将軍としての我の出番である。
 人手は欲しいが無理強いはしたくないので回復したエルフとドワーフに告げた。

「お前達には二つのものを作ってもらう。一つはこの森で住む為の家。もう一つはお前達を運ぶ為の船である。」

 我の告げたことにパーサーも含めたエルフとドワーフ達は驚く。
 ドワーフ側の一人が船を造ることについて尋ねてきたので我は返してやった。

「ここは雪が多いというわけではないが北の大陸。寒波がくればお前達全員を満足に食わせられないかもしれん。それに、帰るべき場所があるのなら海路の方が安全であろう?」

 まあこの世界に点在している【次元転移】の魔方陣へと飛ばしてやることも出来るが半世紀経った今では自然現象などで地形が変わっている可能性もあり無責任に飛ばして危ない目に合わせたくないというのも理由に含まれている。
 月日はかかろうが船が出来たら我が動かして悪天候も関係なく帰りたい者達を連れてってやるとしよう。
 我がそう返してやるとドワーフとエルフの女性陣が何故か感動してお礼を言ってきた。
 半世紀前だったら信じられるか!と不信感が出ていたはずの二種族が今ではこちらをまるで救世主を見る眼差しになっていることが我にとって今度は心に虚しさを感じさせた。
 勇者が唱えたとされる[人間至上主義]の影響で騙されたり拉致され奴隷として働かされてしまうことになったせいで少なからずこの目の前にいる者達も勇者を憎んでいることであろう。
 世界を救った男が今や人間以外の全種族から目の敵にされている事実が我にとってまだ半信半疑であった。
 だからこそこちらは真実を確かめる為にも早期にこの大黒林での衣食住を固めて外へと向かいたいのだ。
 我の答えに賛同したエルフとドワーフは祖国に帰る組と大黒林に住む組に分かれて早速行動してくれたので各組に運搬係としてブラックスケルトンを二体ずつ配置した。
 帰る組には船の建設の為に森と海に面したところで生活出来るように最初だけ我が手を貸した。
 漆黒の大盾を変形させ特大の斧にすればその場で時計回りに回転してみせる。
 それだけで周囲の大木は切り落とされ振動と土煙が上がった。
 これをもう三回やったらエイムとミケラを呼んでミケラには倒した大木の枝を切らせ、エイムには残った切り株を角材へと【再構築】させるなどの後処理をすればあっという間に船を建設するのに充分な広さが確保できた。
 後は倉庫からそれなりの道具を出して渡すと任せることにした。
 住む組の方はログハウス的なものを造ることになったのでエイムに丸太から板材を生成させ道具と一緒に渡して作業に当たらせた。
 ちなみに大事なこととしてケット・シー達と同様に全員に休憩一時間を入れた八時間労働を設定させ厳守することを約束させた。

(さてと、次は向こうの様子でも見に行くか。)

 粗方指示を終えたので我はケット・シー達の住み処にある一室に向かった。
 格子の窓が付いた扉の前に立つとケット・シー達の鳴き声に混じってあの副隊長の声が聞こえてきた。

「や、やめろ!ちゃんと、ちゃんとするから、待って…!」

 多少艶のある声が聞こえてきたりするが格子の窓から覗き込むと実際は全く違う。
 副隊長の手には櫛タイプのブラシがあり太ももの上ではケット・シーがゴロゴロと伸びて寝そべり周りではせがむように身体を擦り付ける者達に囲まれていた。
 そう、彼女は今ケット・シー達のブラッシングをしてあげているのである。

「ふっふっふ、精が出るなアンジュよ?」
「はっ!?大魔将軍!」

 窓越しに声をかければ副隊長だった女性アンジュは驚いてからこちらを睨み付ける。

「何が精が出るだ!私に魔獣の世話をさせなんて何が目的だ!あとこの格好はなんなんだ!」

 こちらを見るなりアンジュは怒鳴って質問を連発させてきた。
 ちなみに今のアンジュの格好はエイムが彼女の身につけていた服を【再構築】させて作ったミニスカートメイド服になっている。
 我が何故この服にしたかエイムに尋ねると恥ずかしさで動きにくくなるからと返してきた。
 そこは余計な知識を与えてしまった我にも責任があるなと思った。
 ていうか我が声をかけるまでアンジュの奴若干幸せそうな顔になっていたではないか。

「怒鳴るでない。むしろ感謝して欲しいものだ。あのまま廃人になっていたらお前も部下達と同じ姿になったのだぞ?それを生かして役職も与えたのだから。」
「何が役職だ!ずっと魔獣の毛繕いをさせるばかりではないか!」

 アンジュが言い張る通りエイムの尋問から目覚めた彼女がまだ正気だったのでどういう扱いにするかで一度話し合った。
 そこで元奴隷隊で女性陣代表のエルフとドワーフからアンジュの助命申請が出たのだ。
 我が理由を尋ねれば彼女は常日頃から奴隷隊の扱いについて不満を持っていたことや人目につかない時に食事等の援助をしてくれていたことなどを述べてくれた。
 つまりアンジュは心の内では勇者が唱えた人間至上主義に反対していた者なのだ。
 となればこの森林で彼女の利用価値が出てくる。半世紀で変わった世界の常識に我が一石を投じ真実を明らかにする時、こちら側の生き証人としてアンジュには見聞きしてもらう為にここで生活させることにした。
 最初は建設の労力にと考えたがただ一人だけの人間というのは虐げられた者達には格好の的になり兼ねない。
 だからここは囚人という形で個室に閉じ込めてケット・シー達に囲まれた生活を送らせることにしたのだ。
 今はブラッシングの時間ということでケット・シー達に人数を決めて入ってもらいアンジュにやらせている。

「毛繕いだけではないぞ?次は部屋の掃除に、トイレの処理と続いている。その間見張りとしてミケラが傍に立っているからな?」

 今後の活動を伝えれば背後にいるミケラが敬礼してみせる。
 万が一アンジュがケット・シー達を人質に取ろうとした場合には痛めつける程度の対処は必要であろう。
 ハコダンテ国は手を出さないし、ここでは衣食住の設営も始まった。
 ならば次に成すべきことは海を隔てた先にあるという三つの大国を見にいくべきか、それともその海路を持つ海の都に脚を運ぶべきか……


 大魔将軍によって動きを封じられたハコダンテ国からさらに南西の海岸にある都。
 半分が海の上にある石造りの建物が立つその都の名は海都ミネトン。
 半世紀前と建物の姿は変わらないが都の一ヶ所だけ大きな建物が建造されていた。
 これこそ半世紀の間に生み出された冒険者ギルドの一つであり冒険者と呼ばれる者達が日々、金と名声の為に出入りしている。
 その建物の受付から一番奥にあるのがこのギルドをまとめる存在、ギルドマスターがいる部屋である。
 ここのギルドマスターは齢すでに六十に差し掛かろうとしているも銀の短髪で無精髭の顔には生気が未だに盛っており腕力と斧の扱いは若者に負けぬ程である。
 さらに新米から熟練の冒険者まで彼のことを慕い敬っている。
 何故なら彼はかの、戦士ヴァンクだからだ。

「ギルドマスター。先の一件どう見ますか?」

 秘書である熟練冒険者の女性からコーヒーの入ったカップを受け取りヴァンクは一口飲んでから答えた。

「わからん。あれほど災害級の化け物が森に現れたと訴え出たくせに少ししたらいなくなったからもういいと、しかも王様直々の言葉でだ。」

 これは何かある。ヴァンクの長年の勘がそう告げていた。
 しかし依頼もなく勝手に禁止区域に冒険者を送り込んでは法律に違反し冒険者ギルドの名を落とすことになるのは避けないといけない。

「だからこそ、ここは俺自ら確かめないといけねぇ。」
「ヴァンク様自らですか?」
「ああ、ハコダンテ国には知り合いの大臣がいる。まずはそこと連絡して事情を聞くとしよう。」

 最後に手配を頼むと秘書に言ってから見送るとヴァンクは席を立ってからハコダンテ国の方角がある窓を見る。
 いや正確には国より先にある大黒林がある方の空をだった。

(大黒林に災害級の魔獣……まさか、まだ将軍の眷属が生き残っていたのか?)

 ならば半世紀経った今出現したのは何故か?とヴァンクは悩む。
 あの森林には自分達が倒した大魔将軍がいた魔空城の残骸がいくつかあるのは知っている。
 もしかしたらその残骸に隠れて力をつけていた魔族がいたのかもしれない。

(あるいは…いやいや、それはあり得ねぇか。まさか怨念が集まって蘇ったなんてことがあったらたまったもんじゃねぇ……)

 万が一今自分が思ってしまったことが現実になったらそれこそ世界の危機に瀕する事態となるであろう。
 大国の王になった勇者を始めに世界に散らばった仲間を集めたところで勝機があるかどうか。
 それに、今の勇者の元に仲間達が集まるかどうかも怪しいのだ。

(ったく!返事一つ返さねぇで何をやってんだかあいつめ!聖女だってきっと何か気づいてるはずなのによ!)

 心の中で悪態をついてからヴァンクは大きくため息を漏らす。
 突然王になったことを知ってからずっと手紙を送っているが半世紀の間向こうから一切返事が返ってこなかった。
 さらには勇者自らが唱えた【人間至上主義】のせいで他種族との連携も取れなくなったせいで森や山岳の詳細も得られ難くなったことも今回の問題に繋がったはずだ。
 だが今さら文句を並べ立てたところで良い方向に進むわけではない。
 今はまず大黒林とハコダンテ国に何が起きているのかを確かめるのが大事だ。


 手紙を送ってから三日後、知り合いの大臣から返事がきた。
 内容を確認するとどうやらある日を境に王の行動に変化があったらしい。
 なんでも王は朝になると王妃と姫に健康診断を必ずやらせるようになったという。
 別にどこも異常がないことを医者は何度も申しているのだが王は止めようしないらしい。
 次に王は大黒林への干渉を一切禁止するように王命を出し現在境界線として大規模な工事も作り始めている。
 さらにはハコダンテ国が抱えていたエルフとドワーフも秘密裏に大黒林へと移送されたことが書かれていた。
 手紙の内容を呼んだヴァンクは間違いなく大黒林に何かあると確信した。
 どうやら災害級の魔獣はただの魔獣ではなく知性のある魔族であり、相当の策略家なのであろう。
 しかし災害級の魔族が何故エルフとドワーフを求めたのかは不明であった。

「これは由々しき問題ですヴァンク様。王が魔族に脅されているのを我々が黙っているわけにはいきません。ここは精鋭を連れて魔族の討伐に行きましょう。」

 秘書から言われたヴァンクは腕を組んで悩む。
 国が今魔族の脅威に晒されているというのに冒険者ギルドとして、ギルドマスターの立場として何もしないのが正しいことなのか。
 もしも半世紀前の勇者だったら、あいつだったらどうするか…
 そう考えると答えは簡単だった。

「…よし、こうなったら金は俺が出す。討伐の一番の立役者には俺の宝をくれてやると掲示板に貼り付けろ!」

 ヴァンクの発したこの依頼はすぐに冒険者ギルドの掲示板に貼り出され多くの腕利きが手を挙げた。
 人数の制限はしなかったので総勢三十人の名のある冒険者が揃った。
 朝、街に馬車を五台用意させそれに冒険者を乗せると馬に乗るヴァンクを先頭に魔族討伐の為、大黒林に向けて出発した。
 しかしこの行動は無駄に終わってしまうことになる。
 何故ならヴァンク達が出発した日に
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