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こんにちは知らない世界
10. 大雨の中で
しおりを挟むその夜、ベッドに横になった千佳は眠れずに天井をボーッと見つめていた。
初めての旅で緊張しているのか、明日の散策が楽しみなのか、やけに頭が冴えている。
ザァァッ
外は雨が降り始め窓が少し揺れている。
「・・・大丈夫かな。私」
天井を眺めたままそう呟いた千佳は、寝返りを打ち目を瞑る。
一向にこない眠気に小さくため息をつき、再び天井を見上げた時だった。
ーーー・・・さまっ、・・・さま!!!
ーーだれかっ
川沿いの道で
土砂降りの雨が降る中
怪我をした男性が叫んでいる
そんな光景が突然浮かんだ。
「え・・・何、今の」
はっきりと意識があるのに鮮明な映像を見た気がした千佳は、思わず起き上がり顔を叩く。
「起きてる・・・こわっ!!!」
“ストレス??
もしかしなくても、ストレスで白昼夢見た!??”
混乱しながらも、気持ちを落ち着かせようと深呼吸を繰り返す。
“大丈夫。
今のは、疲れすぎて見た私の妄想。
明日に備えて、さっさと寝なきゃ”
妙な胸の高鳴りを感じながら、千佳は布団に潜り目を閉じた。
————————
ザァァァァッッッッ……
翌日、土砂降りの雨が降る中、2人には少し重たい空気が流れていた。
朝食をとる宿泊客で賑わう食堂の一角で、パンをかじりながら千佳は窓の外をじっと眺めている。
「・・・・・・散策」
「仕方ないわよ。
にしても、すごい雨ね」
土砂降りの雨は弱まるどころか時間を追うごとに強まっている。
楽しみにしていた散策は中止となり、朝食をとりながら食堂で時間を潰していた。
「そんなに落ち込まないで。」
「そうなんですけど・・・」
せっかく不思議な街並みを眺めて楽しめると思ったのに。
そう思っていた千佳は、残念そうに手にしていたカップに目を向ける。
「・・・何かトラブルかしら?」
ふと、ヘイデンが入り口の方へ目を向ける。
食堂の横にある受付には人だかりができ、何やら話し合っているようだ。少し見てくると言って席を立った彼を見送った千佳は、また外へと視線を向けた。
“白昼夢まで見るなんて・・・私、ストレス溜まってるのかな”
昨晩の事を思い出した千佳は紅茶を口に含みながらそんな事を考えていた。
フード越しに強まる雨足を眺めながら、ボーッとしていると一向に戻ってこないヘイデンが気になり彼の方へ視線を向ける。
「何か、あったのかな・・・」
人の輪に加わり、真剣な顔で話をする彼が気になった千佳は席を立ち彼の元へ向かった。
「・・・キリタ村近くの川が氾濫したらしい」
「あの川が氾濫したら、村まで行く道が途絶えるな」
「村の先にある集落に行かなきゃならないんだ」
「積荷はどうすればいい・・・」
「!!」
千佳が人だかりに近づくと、周りの人たちがそう言って真剣に話し合っていた。
“近くの川って、来る時に通った・・・”
澄み切った水が流れていた事を思い出した千佳は、村の人たちを思い出し不安になりながら話を聞いていた。輪の中でヘイデンは、話し合っている人たちが見ていた地図を眺め道を確認している。
「多分、橋は使えない。
雨が止んだら時間はかかるが、こっちの山沿いの道を迂回すれば行けるはずだ。」
地図を挿しながら話す彼に、これから向かう予定の人達は頷きながら話を聞き、手持ちの地図を確認している。
「・・・ヘイデンさん、村の皆さん大丈夫でしょうか」
「あ、ごめん。気づかなかなくて。
村は大丈夫だ。村長が早めに避難させているはずだし。」
話に集中していたヘイデンは、千佳が隣に来ていたことに気づかなかったらしい。彼女へ視線を向けるとそう言って再び、村やその先に向かう予定だった人たちへ道を説明している。
カラン カラン
「すみませんっ」
「いらっしゃいませ。
今、拭く物をお持ちしま・・・」
「こちらに、ローガン・デイビーズという名前の方はいませんか?」
ドアベルが勢い良くなると、ずぶ濡れになった恰幅のいい男性が宿へ入って来た。
少し余裕のない表情を浮かべている彼は、従業員が言い終わるよりも先に受付のカウンターに身を乗り出して尋ねている。男性の焦った様な表情に、従業員は驚いて「か、確認します」と台帳を広げた。
突然の出来事に、周りにいた人達も何事かと集まり事情を聞いている。彼と一緒に入って来た人達も、周りの人に聞いて回っている。
「・・・ローガン?・・・もしかして、エヴァンズ?」
遠巻きに見ていたヘイデンが思い出した様に声をかけると、男性は勢いよく振り返ってヘイデンを見た。
「ターナー様!!ターナー様!!
伯爵様を見かけていませんか!?」
「俺たちは昨日からここにいるが、姿は見ていない」
エヴァンズと呼ばれた男性は、ヘイデンを見るなり慌てた様にそう尋ねる。首を横に振って答える彼に、落胆した様に項垂れた男性はその場に立ち尽くしていた。
“ターナー様?”
ターナーと呼ばれた事に千佳は疑問を感じていると、隣にいたヘイデンが声をかけた。
「チカちゃん。ごめん。
ちょっと、待ってて。」
そう言ってエヴァンズと話を始めたヘイデンの表情は少し深刻そうな顔をしていた。受付の女性は、台帳を確認し「申し訳ありませんが、こちらには宿泊されておりません」と伝えエヴァンズ達にタオルを渡す。
「君たちは先にこの街へ来たのか?」
「はい。
私たちは積荷の関係で昨晩こちらに入りました。
本日、合流予定だったのです。
今朝方、バーチ様に魔文を送ったのですが、
何の返答もなくて・・・」
「・・・そうか」
外を見ながら話す2人を見ていた千佳は、不意に昨晩の白昼夢が脳裏に浮かんだ。
“・・・・・・雨、助けを呼ぶ人・・・まさか”
そんなはずはない。あれはただの白昼夢。
そう思っていたいのに、何故かそう言い切れないでいる千佳は何かもやもやした感覚を覚えていた。
“なんで、こんなにハッキリ・・・”
そればかりか、場所を知っているのだから早く行けと言わんばかりに、昨日の白昼夢は自分の脳裏でどんどん鮮明に映っている。ギュッと握り拳を作って、何かを決意した千佳はヘイデンの方へ顔を向けた。
「・・・ヘイデンさんっ!」
「ん?」
「私、外に行ってきます!」
「この土砂降りの中、どこに・・・」
フードをしっかり被り外に行こうとした千佳の手をとったヘイデンは、慌てて制した。
「・・・多分、知っているかもしれないんです」
「ちょっと待て!」
そう言って、宿を飛び出した千佳は迷わず走り出す。
慌てて彼女の後を追うヘイデンは、「エヴァンズ、他の者達と一緒に着いて来い」と言ってその場を後にした。
ヘイデンは急いで馬を借り、雨の中走る千佳を馬に乗せ駆け出した。着いて来いと言われた、エヴァンズ達も馬と馬車で後を追う。
「・・・この道をまっすぐ」
「あの木が倒れているところを右に」
“なんでわかるんだ・・・”
「この先の分岐を左に」
土砂降りの中、手綱を握るヘイデンは的確に道案内する千佳に戸惑いながら、馬を走らせた。川沿いの街道を走る彼らは、氾濫しそうな川を尻目に千佳が指差す方へと急ぐ。
「・・・あ、あの、崖の下です!」
そう言って指差す先には、土砂崩れを起こし辺りに土砂や木々が転がっていた。
急いで近づくと、誰かが叫んでいる。
「・・・伯爵さまっ!!・・・・伯爵さまっ!!」
「だれかっ・・・」
“・・・・・・昨日の”
馬から飛び降り、慌てて駆け寄るヘイデンやエヴァンズ達をよそに千佳は目の前に広がる光景に立ち止まっていた。
「バーチ、大丈夫かっ!」
「・・・っ!
ターナ様、なぜここにっ。
それより、伯爵様と護衛が土砂に巻き込まれてしまって・・・」
叫んでいた男性の元に駆け寄ったヘイデンは、埋もれた人達を助けようと土砂をかきわける。
「私が、やります!」
ヘイデンの後を追ってきたエヴァンズは大声を張り上げながらそう言って、駆け寄り両手を土砂へ向けた。
「救いの蔓!!!」
ボコッ ボコッ ボコッ ボコッ
彼が叫ぶと同時に土砂の中から無数の太い蔓が空に向かって伸びる。そして、埋もれていた人達を土砂から押し出す様に蔓で運び出した。
「治療師!!!」
「はいっ!」
エヴァンズが一人一人慎重に安全な場所へ降ろすと、治療師と呼ばれた男性が彼らに近づき手当を始めた。
「急げ!また崩れるかもしれない!!」
「応急処置のみ行います!早く戻りましょう」
そう言って手際よく魔術で処置をする治療師は、処置が終わった者たちを運ぶ様に指示をした。
「うっ・・・」
「伯爵様っ」
治療師に付き添われ運ばれる伯爵の後を追う様に他の者達も馬車に乗り込む。
“私、予知夢を見たの?”
呆然と立ち尽くしていた千佳は、目の前の状況を受け入れられずにいた。
村の人たちは自分をプロフィティアと呼んでいたけれど、そんなはずはない。
これはきっと、ただの偶然だ。
そう思いながら、怪我人を運ぶエヴァンズ達を見守っていると土砂の除去を手伝っていたヘイデンが戻って来る。
「ありがと」
「私はなにも・・・」
「また、崩れるかもしれません。
早く、ここを去りましょう」
全員運び出した事を確認したエヴァンズに促され、千佳達はその場を後にした。
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