天性の天才と天性の努力家

瑳来

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9話

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「ーー銀髪! 俺と勝負しろ!」

 俺の言葉に学食にいた奴のほとんどの視線が集まった。
 急に言い寄られた銀髪の男はフォークに刺さった唐揚げを口の中に入れようとしたまま時間が止まったかのように動きを止めている。
 そして、何故か銀髪の男がいる席には銀髪と向かい合わせにレオンも座っていて、額に手を当てて「やっちゃったぁ」と言っている。

 なぜ、こうなったかと言うと、それは時を少々戻して俺とインが学食で食事を始めたところから話そう。



 × × × 



「いっただきまーすヨ!」
「はい。いただいてください」
 インは音を鳴らして手を合わせ、すぐに食べ始めた。
 こいつはいつもここに来ると必ずと言っていいほどオムライスを食べる。

 そんなに食べて飽きないのだろうか?
 かくいう俺も毎回オムライスだけど。

「おいひ~」
「そんな焦って食べてると喉詰まらせるぞ?」
「はいほーふネ! うっ……」
 俺が注意を促した直後にインは苦しそうに胸を叩いた。
 言わんこっちゃない。

「水飲め。水」
 俺が水をインの前に出すと一気に飲み干してから肩を大きく揺らして呼吸を整えた。
 余程苦しかったのだろうか「死ぬかと思ったヨ」と、か細い声で何度か言っている。
 これで落ち着いて食べるだろ。

「きゃー! アランさんよ!」
「かっこいいわぁ」
「いっしょにいる人彼女かな?」
「どうだろー!」

 俺に聞こえるようにわざと言っているのか、はたまた元から声量が大きいのか、俺に気づいた女が口々にそんな事を言ってるのが聞こえた。
こんなのは日常茶飯事だが、いつ聞いてもこういう評価は気分がいい。

「むぅー……」
 唸り声がして、目線を戻すとインが頬を膨らませて唸っていた。
 もう食べてしまったのかオムライスがあったであろう皿の上にはスプーンのみが乗せられてあった。
 俺まだ半分しか食べてないのに。

「にやけ面ムカつくネ……」
「はぁ!? ニヤけてない!」
 不意の指摘に反射的に自分の口を塞いだ。

「ニヤけてるネ! 自分の顔面鏡で見ろヨ!」
「だーかーら! ……て、あれ?」

 インと言い争っているとインの座ってる背後に見覚えのある銀髪とオレンジ髪の二人が通り、少し離れた席に向かい合って腰をかけていた。
 あれは……銀髪とレオンか?
 二人とも仲睦まじいご様子。
 確か、銀髪の男が転校してきた時のレオンの反応を見る限りだと赤の他人ではなさそうだったしな。

「どうしたヨ? アラン?」
 インの呼び掛けに二人を追っていた視線を戻した。

「いや、なんでもない」
 そう答えては見たものの俺の思考は全然別の所にあり、言葉になんの感情も込められていない。

 俺は今、一つの欲望に駆られている。

 それはーー。

 あの銀髪の男ともう一度試合をやりたい。という欲望だ。

 さっきまではそんな思いなかったのだが、改めてあいつの顔を見ると闘争心が掻き立てられる。
 昨日はあいつに勝てたが、納得のいく勝ち方ではなかった。
 あー。くそ……モヤモヤする。だけど、レオンにやるなって言われてるからな。
 ぶつけようが無い苛立ちに行儀悪く肘をついて前髪をかきあげた。

「アラン……?」
 チラッと前を見ると、焦りと不安を滲ませてるインが見え、さらに奥に目線を移すと楽しそうに談笑しているレオン達。
 何あれ。俺あいつらにハブられてる見たいじゃん。確か、前もこんな事あったよな。レオンがプリンを二人で食ってて、俺が後で見つけて怒ったやつ…………て、あれ? なんだ? この記憶?
 おかしくないか? レオンがプリンを二人で食べたって、おかしいよな? 二人ならあともう一人居るはずなのに、思い出せない。
 また脳が過去を拒否してる。
 ストライキするなよ! 俺の優秀な脳! あーもー!
 俺は勢いよく立ち上がった。

「どうしたネ!?」
 後ろでインが何か言ってるが返事をする余裕がない。
 俺はキビキビとレオン達のところへ行き、机を力強く叩いた。

「ーー銀髪! 俺と勝負しろ!」

 今のままじゃ、何もかもが中途半端でモヤモヤしてて気持ちが悪い。だから、取り敢えずこいつと俺、どっちが強いか白黒させたかった。
 


 × × × 



 ーーそして、今に至るわけだ。

「オーケーオーケー」
 たっぷりと間をあけた銀髪がフォークに刺した唐揚げを皿の上に置き、いつもみたいに首の後ろを摩った。
 それに対しレオンは「おい!」と珍しく声を荒らげて銀髪の男を睨みつけているが、銀髪の男は気にしない様子で声を潜めて告げてきた。

「勝負するのはいい。だけど、口外はするなよ? 」
「なんでだ? 負けるのを知られるのが怖いのか?」
「「お前がな!」」
 銀髪の男とレオンに怒涛の勢いでツッコまれたがよくわからない。
 なに? 俺が負けを知られるのが怖いわけないだろ? ていうか、負けないし。

「あのさ、アランどうせ今『俺負けるの怖くないし。てか負けないし』て、思ってると思うっすけど、いざそうなったら絶対暴れ出すっすよ。オレ、アランが暴れるにプリン賭けるっす」
「じゃあ、俺はアランが泣くにプリン十個賭けるわ」
「お前ら……っ。それで暴れも泣きもしなかったらプリン全部俺によこせよ!」
 レオンと銀髪の男は面白そうにケラケラ笑いながら俺をバカにしている。
 レオンに至ってはわざわざご丁寧に全然似てない俺の声真似披露してくれたし。
 この俺をコケにするなんて……絶対許さん!
 ……なんて、言いたいけど、なんだこの気持ち。懐かしいようなどこか暖かい気持ち。

「何いじられて嬉しそうな顔してんだよ? もしかして、マゾ?」
「は、はぁ!? 違うし! 今、怒り状態だけど、大人だからわざと嬉しいですよ風にしてるだけだし!」
「……お前って、嘘つくと語彙力消えるよな」
「う、嘘じゃない!」
 小さい子のようなくだらない言い争い。でも、それが楽しくて銀髪も俺も顔の表情が緩んでるのはすぐにわかった。
 それと、何よりレオンがいつになく嬉しそうな顔をしているのが視界の端に見えた。
 もともとレオンは表情が豊かな方だが、今みたいな嬉しそうな泣きそうな変な顔は見たことがない。
 なんて顔してんだ。こいつ。

「ーーアランー! 何やってるネ?」

 インが駆け寄ってきて、ふと周りの視線が俺達に向けられていることに気がついた。
 声大きかったかな……?

「なんだよ? お前、ガールフレンドと来てたのかよ?」
 銀髪の男がからかうように言ってきて、顔に熱が集まった気がした。が瞬時に俺の氷の術で平べったい氷を作り顔面にぶつけたからどうにか冷ませた。
 その時間およそ一秒。
 さすが俺。素早い行動力と判断力。だけど、痛い。物理的にも視線的にも痛い。
 
「お前……やっぱりマゾ?」
 銀髪の男もインもレオンもドン引きした面持ちで見てくる。

「俺はマゾではないし、インとそういう関係ではない。余計なことを言うな」
「うわぁ……心も氷かよ」
 銀髪の男が憐れんだ表情をして、大きな瞳が少しだけインの方に向けられた。
 インは俯いてしまい、レオンもわかりやすく大きなため息を吐いている。
 んん? 俺言っちゃダメなこと言った?

「とにかくだ! 明日の昼。術士練習場に来い。わかったな。イン行くぞ」
 俺は一人でペラペラと話し、教室に帰ろうとレオン達から背を向けた。

「はいはい。お前は俺に負けないようにせいぜい努力しとけよ~」
「あと、女心もわかるようにしとくっすよ~」
 後ろから銀髪とレオンの声が聞こえるが、振り向かないで足を進めた。

 インは相当怒ってるのか教室に帰るあいだ話しかけても一言も口を聞いてくれなかった。
 うーん。取り敢えずインには後で謝っとかないとな。好きでもない相手と恋人って勘違いされたら誰でも嫌だよな。
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