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11話
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憂鬱な授業が終わり放課後になった。
オレらの学年になるとやる授業もほとんど国に関することか実技の剣の練習ばかりでつまらない。
オレは別段剣士やら戦士やらには興味はない。ただ、アランがなるって言ってたからオレも真似してなっただけ。
術士でもいいなって思ってたけど、術はアランの最も得意とするもので、アランに敵うわけないし、肩を並べていたかったからあえて術ではなく剣を選んだ。
それが意外にも才能があってこうやって今回もS1でいられるんだけどね。
そろそろ、寮に帰ろ。
いつの間にか誰もいなくなっている教室。
ボーッとしていたら最後になっていた。
オレはゆっくり席から立ち上がり、出入口の方へ行くと廊下から慌ただしい足音が聞こえた。
「ーーレオン! 緊急事態!」
足音の正体はソフィアらしく、よく通る声で告げられた。
相当焦ってきたのか、呼吸が乱れて辛そうだ。
「大丈夫っすか? 深呼吸深呼吸」
オレが促すとソフィアは数回深呼吸をして自力で呼吸を整える事が出来た。
「はい。水あげるっすよ」
「ありがと」
オレが持っていたリュックから水の入ったまだ一口も飲んでないペットボトルを差し出すとソフィアは素直に受け取り、一気に全部飲み干した。
「で、何があったんすか?」
「アランが、寮に帰ってきたと思ったら引きこもっちゃって、いや、引きこもるのはいつもの事だけど、なんかいつもと雰囲気が違うの!」
必死の訴えに血の気が引くのを感じた。
大袈裟とか、気のせいだとか思うかもしれないけど、状況が状況だ。万が一の場合も考えられる。
今のアランはリアムをよく知らない。だから、何処の馬の骨かもわからない奴に負けて焦りとか不安で周りが見えなくなってるはず。
「始まったっすか……」
「何か知ってるの?」
「説明はあとっす。リアムはそこにいるっすか?」
オレは寮の方へと走り、ソフィアも後についてきた。
寮は学園の隣にある建物で、すぐ着くことが出来た。
ホテルのようなつくりの寮に入り、すぐ様アランの部屋へと向かう。
アランの部屋は五階だが、エレベーターなんて使ってる余裕はなく、階段を駆け上がった。
そして、五階に辿り着きアランの部屋の前に行くとリアムとピンインが何も出来ずに立ち尽くしていた。
「お? 来たか」
「どういう状況っすか? なんで入らないの?」
「この部屋だけ闇の術で入れないようにされてんだよ。強力すぎてドアノブにすら触れねぇ」
リアムは頭をガシガシと乱暴に掻き、もどかしそうにしている。
ピンインは雷の術を何度もドアに向かって放ったが吸収されるようにドアに吸い込まれるだけで傷一つつかない。
なにこれ。最強じゃん。
オレ自身ドアノブに触れてみようと手を伸ばしたが、どうにも上手く触れず空気を掴んでるかのように掠ってしまう。
これは……完全にバリア張られてるっすね……
「ねぇ、レオン。なんでこうなってるの?」
ソフィアは訳が分からないとでも言いたげに若干の怯えと不安を滲ませた表情で聞いてくる。
「この中で何が起こってるかわかるっすか?」
「何がって……わかるわけないでしょ」
オレの質問に技を出していたピンインも手を止め小首を傾げた。
リアムだけは何故か不敵な笑みを浮かべている。
「アランは練習してるっす。努力してるっす。今に始まった事じゃないっすけどね」
「え? でも、アランは努力とか大っ嫌いよね?」
「今に始まった事じゃないって言ってもアランが努力してるところ見た事ないヨ」
みんなは見た事ないだろうけど、あいつはかなりの努力家だ。
寮に帰ったらすぐに寝て、夕飯の時に起きてからそれから、一睡もしないで勉強とかその他の事やってるし。
実際見たことないけど、幼い頃からの付き合いだ。なんとなくわかる。
「そんじゃ、答え合わせと致しましょうか!」
突然リアムが口を開いて、コキコキと指を鳴らした。
何をやる気だ?
それから手をドアに翳すと一瞬だけ光、闇が消え去った。
「よーし、これで入れるぜ!」
「初めからそれをやれっす!」
リアムはにひひっと笑ってからなんの躊躇もなくドアノブを回し、中に入っていった。
それに続いてオレも入り後ろからピンインとソフィアもお化け屋敷に入るかのように恐る恐るはいってきた。
「なんすか。これ」
玄関には大量の術士の本が散らばっていて、それはもう足場がないくらい。
それが廊下もぎっしり本の海で埋まっている。
「これ、踏んじゃっていいっすかね?」
「片付けてから行こうヨ」
「片付けなくていい。キリがねぇよ。この本の海、三層になってっから相当時間がかかる。今やるべき事じゃねぇ」
パッと見だと上の本を片付ければ床が見えそうだが、リアムがそう言うならそうなのだろう。
こいつこう見えて天才だし、こいつの言うことは大概あってる。記憶力も化け物並だし、技も教えてもらわなくても独自で習得出来てしまうから羨ましい。
なるべく本を踏む面積を少なくしようとつま先立ちで進んでいくとアランのいる場所へとたどり着いた。
この寮の部屋の間取りはベッドが置いてあったりする部屋とトイレと風呂しかないからどこにいるかはわかりやすい。
アランはベッドの置いてある部屋で机と向き合っている。
とてつもない集中力でオレ達がすぐ後ろで立っているのに気づかない。
「わぁ、すげぇ……」
リアムは珍しく口元を引き攣らせている。
無理もない。
机の両端にはどうやって積まれたのかわからないが、天井まで紙が積まれていて、たまに闇の術を出したかと思うと紙に書くを繰り返している。
「おい! アラン!」
リアムが声を張って呼ぶがまるで聞こえてないかのように作業を続けている。
こいつはこいつで化け物並の集中力があって一度入り込むと呼ぶだけじゃ集中力は切れない。
「アラン!」
「気づいてヨ!」
ソフィアとピンインがアランの両腕にしがみついてアランは我に返ったかのように止まった。
「なんでここにいるんだ? どうやって入ってこれた?」
「おまっ! 女だと無視しねぇのか!? 差別だ!」
「違うっすよ。区別っす」
「ぐぅ……」
腑に落ちないでいるリアムを放っといて、オレはアランに近づいた。
机の上の紙に目をやると、白紙の紙にぎっしり書かれた細かい字。
机の上に置かれてる紙は全て読めなくなるくらい大量の字で埋め尽くされていた。
まだ寮に戻ってきてからそれほど時間は経っていないだろうに。これはもう、集中力だけでどうにか出来る問題じゃない気がする。
「なんだ? お前らもいたのか」
アランは特にリアムを見ても態度を変えることなく普段と変わらない様子で話しかけてくる。
「こりゃぁ、また。アランは努力家だなぁ」
リアムがヒューっと口笛を吹き言うとアランの眉間が微かシワが寄った。
「努力なんてしてない。これはただの“復習”だ!」
「はぁ?」
困ったような薄笑いを浮かべるリアムだが、オレもたぶんリアムと同じ気持ちだ。
これは復習なのか? 何年分の復習だよ?
「努力なんてくだらない事は俺はしない。俺は復習でじゅうぶんだ」
「この量の復習なら努力みたいなもんだけどなぁ」
「うるさい! 黙れ!」
珍しく声を荒らげ怒鳴ると顔を真っ赤にして俯いた。
アランはプライドが高いっすからね。何もしないで完璧っていうので常にいたかったんすよね。
「あのな、アラン。オレはずーっとお前を見てたからわかるんだけど、お前は天才じゃない」
「……っ!」
衝撃的な言葉にアランは顔を上げた。
「確かにお前は一般人よりは強い。でも、それでも、ランクで言うとSランクくらいだろ。それをお前は努力でずば抜けた力を手にいれてるんだ」
「お前に、たかが数日前に会ったお前に何がわかる……」
恐ろしく低い声で言い、アランがゆらりと立ち上がった。
その全身から滲み出る怒りのオーラにアランの近くにいたソフィアとピンインはオレの後ろに隠れた。
だが、リアムは何も動揺せずアランの間合いに入り手を取った。
「わかんだよ。お前の手を見りゃどれだけ努力したのかとか、頑張ったのかとか、全部わかんだよ」
リアムがアランに見せるようにアランの手のひらを目の位置に上げる。
オレにはよく見えなかったがそれでも少しだけ見えたアランの手は皮がめくれ、赤く血が滲んでいた。
いつもはこんな手じゃないのだが、治癒術で治していたのだろう。治癒術は誰にでも使える基本的な術のだから、もちろんアランも出来るし、オレも出来る。
オレの場合は弱いから擦り傷程度しか無理だが、アランなら骨折くらいは秒で治せるらしい。
「ちが……う。これは……さっき転んだだけだ」
苦し紛れの言葉を吐くと手が黒い霧で包まれ、傷跡が綺麗に消えた。
そして、一度小さく息を吸うと乱暴にリアムの手を払い除けて椅子に腰をかけ、ふてぶてしく足を組んだ。
「もういいだろ。どっか行ってくれ」
流れをどうにか変えようとしてるのかいつもの様な態度で面倒くさそうに言った。
オレはチラッとリアムに目を向けるとリアムは首の後ろを摩りながらイラついたかのように眉間にシワを寄せている。
「……いくぞ」
「あ、え!?」
意外にもあっさりリアムが引いてしまい、オレとソフィアとピンインは驚きを隠せないままついて行った。
部屋から出て扉を閉めるとリアムは手前の壁に額をつけて肩を震わせている。
顔は見えないが泣いてるのだろうか。
……しょうがないか。幼い頃のアランはもう少し素直だったしな……そう。素直……素直……だっけ?
「くくくっ。ふははははっ!」
途端にリアムが大声で笑い飛ばし、ピンインが反射的に「気持ち悪いネ!」といって左頬をぶん殴った。
「ピンインちゃん。今のは痛かったよ?」
「ごめんネ。なにかに取り憑かれたかと思って……」
リアムは頬を擦りながら笑いだか、痛さだかで頬に伝った涙を軽く拭った。
「でも、どうしたの? 壁に面白いものでもあった?」
「このなんにもない壁見て面白いってなったら本格的に頭いかれた奴っすよ」
「そうだぞ! 俺は正常だから壁を見て笑ったわけではない!」
……そうじゃなくても、やっぱりいかれちゃったっすかね? まだ若いのに可哀想に。
「おいおい。レオンさんや。その憐れむような目はなんだね?」
「なんでもないっすよ。んで、なんかいい事でもあったんすか?」
オレが聞くと、待ってましたと言わんばかりにわざとらしくひとつ咳をした。と思ったらむせ返ったらしく連続した咳をしている。
ダメだこりゃ。
「ゴホン! ゲホゲホ! カハっ! う……ゴホン! その問にお答えしよう」
やっと落ち着いたのか仕切り直したかのように厳かな雰囲気で告げた。
あんだけ咳き込まれたから厳かの“お”の字もないっすけど。
「結論から言うと、いいことがあったのか、悪いことがあったのかはわからん! ただ、期待は出来そうだ」
「なにがなんだかさっぱりヨ?」
「んー、なんて言うか、取り敢えずアランが努力してくれてよかった」
「あれを見てよかったって言えるなんて、お前、相当Sネ」
ジトーっと見ているピンインにリアムは「まぁまぁ」と軽く宥めるとオレの方を向き直った。
「あいつはあのままでいい。さっきの奴でどう転がっても俺がちゃんと強くさせるし、体調も管理するから」
「オレはあいつの親父っすか? 結婚前の挨拶っすか?」
冗談半分で言うと、ピンインとソフィアは石化したかのように固まった。
そうだ。この二人アランのことが好きなんだっけ。
リアムはもうわかっているのかピンインとソフィアの頭に手を乗せて性格の悪そうな薄笑いを浮かべた。
「そうだなぁ……もらえるもんなら欲しいなぁ……」
こいつは、また……アランに怒られるっすよ……
ピンインとソフィアは素早くリアムの腕を掴んだ。
リアムですら反応できないくらいの速さと殺気のなさに一瞬だけリアムがたじろぐ。
そして、そのまま廊下の通路に投げられ、顔面から床に突っ込んだ。
おぉ。30メートルはいったっすね。
さすが、S1ランクとSランク。か弱そうに見えてとてもお強い。
「2人ともあいつの事は気にしちゃダメっすよ。どうせ、悪ふざけっすから」
「でも! なんとなく、あと1発顔面にぶち込んでやりたいネ!」
「そうね! とてつもなく不愉快だわ!」
二人の意見をしっかり聞き入れたところで、よろよろと立ち上がったリアムに向かって言った。
「だってよ。どうするっすか?」
「あ? なに? 俺とキスしたい?」
直後、リアムの頭上に雷が落ちた。
「あだだだだだ!!」
ちゃんと技を受けて上げてるあたりこいつは優しいっすよね。
これくらいなら避けれるのに。
「あー。だいぶスッキリしたネ!」
ピンインが手を数回払い、「もう帰るネ」と言って寮にある自分の部屋に帰って行き、ソフィアも続いて帰っていった。
オレはうつ伏せに倒れてるリアムに近づいて足で突っついた。
「リアム、上手く空気変えてくれてありがとっす」
「別に。俺はなにもやってねぇよ。お前らのおかげで勝手に空気が変わっちまっただけだ」
「……そうっすね」
リアムはおもむろに立ち上がると、身体が淡い光に包み込まれピンインによる雷で傷ついた身体や投げられた時の怪我が綺麗さっぱりに消えてなくなった。
「さて、と。俺もそろそろ戻って練習すっかなぁ」
「お前はやんなくていいでしょ。千年に一人の逸材じゃないっすか」
ふざけた嫌味を言ったつもりだった。
こいつの事だから、ドヤ顔して胸を反らせて誇らしそうにすると思ってた。
だけど、顔を伏せて首の後ろを何度かさすったまま沈黙が流れる。
あれ……地雷だったっすか?
「……それは、アランだ」
たっぷり間を空けるとポツリと呟き、勢いよく顔を上げた。
変わらない笑顔のリアムだが、どこか辛そうでそれはもう、目を逸らしたくなるほど。
「リアム、ごめんっす……なんか」
「なんで謝んだよ? 別にお前は悪ぃ事してねぇだろ?」
「でも……」
言葉が上手く出てこない。
謝りたいけど、今のオレだとまた下手に言ってしまいそうだ。
「なぁ、知ってたか? お前は才能の塊って呼ばれてて、それより強いアランは千年に一人の逸材って呼ばれて、更にそれより強い俺はなんて呼ばれたか」
オレ、そんな風に呼ばれてたんすか。初めて知った。
オレ達は幼い頃、ここの系列の小等部の学園には行かず、個人塾のような場所で三人だけで修行していた。
それで、たまに小等部と試合をするのだが、まぁ、小等部の弱いこと弱いこと。そのため、そんな風に呼ばれるのは仕方ないのかもしれない。
「リアムは、天才っすかね? それか、神?」
「んー、違うんだなぁ」
眉を下げ、困ったように笑うリアムはそう言い、重たい口をこじ開けるかのようにスローモーションと呼べるくらいのスピードで開く。
そして、喉を締め付けられたように絞り出すようにただ一言こう言った。
「俺は…………“化け物”だ」
オレらの学年になるとやる授業もほとんど国に関することか実技の剣の練習ばかりでつまらない。
オレは別段剣士やら戦士やらには興味はない。ただ、アランがなるって言ってたからオレも真似してなっただけ。
術士でもいいなって思ってたけど、術はアランの最も得意とするもので、アランに敵うわけないし、肩を並べていたかったからあえて術ではなく剣を選んだ。
それが意外にも才能があってこうやって今回もS1でいられるんだけどね。
そろそろ、寮に帰ろ。
いつの間にか誰もいなくなっている教室。
ボーッとしていたら最後になっていた。
オレはゆっくり席から立ち上がり、出入口の方へ行くと廊下から慌ただしい足音が聞こえた。
「ーーレオン! 緊急事態!」
足音の正体はソフィアらしく、よく通る声で告げられた。
相当焦ってきたのか、呼吸が乱れて辛そうだ。
「大丈夫っすか? 深呼吸深呼吸」
オレが促すとソフィアは数回深呼吸をして自力で呼吸を整える事が出来た。
「はい。水あげるっすよ」
「ありがと」
オレが持っていたリュックから水の入ったまだ一口も飲んでないペットボトルを差し出すとソフィアは素直に受け取り、一気に全部飲み干した。
「で、何があったんすか?」
「アランが、寮に帰ってきたと思ったら引きこもっちゃって、いや、引きこもるのはいつもの事だけど、なんかいつもと雰囲気が違うの!」
必死の訴えに血の気が引くのを感じた。
大袈裟とか、気のせいだとか思うかもしれないけど、状況が状況だ。万が一の場合も考えられる。
今のアランはリアムをよく知らない。だから、何処の馬の骨かもわからない奴に負けて焦りとか不安で周りが見えなくなってるはず。
「始まったっすか……」
「何か知ってるの?」
「説明はあとっす。リアムはそこにいるっすか?」
オレは寮の方へと走り、ソフィアも後についてきた。
寮は学園の隣にある建物で、すぐ着くことが出来た。
ホテルのようなつくりの寮に入り、すぐ様アランの部屋へと向かう。
アランの部屋は五階だが、エレベーターなんて使ってる余裕はなく、階段を駆け上がった。
そして、五階に辿り着きアランの部屋の前に行くとリアムとピンインが何も出来ずに立ち尽くしていた。
「お? 来たか」
「どういう状況っすか? なんで入らないの?」
「この部屋だけ闇の術で入れないようにされてんだよ。強力すぎてドアノブにすら触れねぇ」
リアムは頭をガシガシと乱暴に掻き、もどかしそうにしている。
ピンインは雷の術を何度もドアに向かって放ったが吸収されるようにドアに吸い込まれるだけで傷一つつかない。
なにこれ。最強じゃん。
オレ自身ドアノブに触れてみようと手を伸ばしたが、どうにも上手く触れず空気を掴んでるかのように掠ってしまう。
これは……完全にバリア張られてるっすね……
「ねぇ、レオン。なんでこうなってるの?」
ソフィアは訳が分からないとでも言いたげに若干の怯えと不安を滲ませた表情で聞いてくる。
「この中で何が起こってるかわかるっすか?」
「何がって……わかるわけないでしょ」
オレの質問に技を出していたピンインも手を止め小首を傾げた。
リアムだけは何故か不敵な笑みを浮かべている。
「アランは練習してるっす。努力してるっす。今に始まった事じゃないっすけどね」
「え? でも、アランは努力とか大っ嫌いよね?」
「今に始まった事じゃないって言ってもアランが努力してるところ見た事ないヨ」
みんなは見た事ないだろうけど、あいつはかなりの努力家だ。
寮に帰ったらすぐに寝て、夕飯の時に起きてからそれから、一睡もしないで勉強とかその他の事やってるし。
実際見たことないけど、幼い頃からの付き合いだ。なんとなくわかる。
「そんじゃ、答え合わせと致しましょうか!」
突然リアムが口を開いて、コキコキと指を鳴らした。
何をやる気だ?
それから手をドアに翳すと一瞬だけ光、闇が消え去った。
「よーし、これで入れるぜ!」
「初めからそれをやれっす!」
リアムはにひひっと笑ってからなんの躊躇もなくドアノブを回し、中に入っていった。
それに続いてオレも入り後ろからピンインとソフィアもお化け屋敷に入るかのように恐る恐るはいってきた。
「なんすか。これ」
玄関には大量の術士の本が散らばっていて、それはもう足場がないくらい。
それが廊下もぎっしり本の海で埋まっている。
「これ、踏んじゃっていいっすかね?」
「片付けてから行こうヨ」
「片付けなくていい。キリがねぇよ。この本の海、三層になってっから相当時間がかかる。今やるべき事じゃねぇ」
パッと見だと上の本を片付ければ床が見えそうだが、リアムがそう言うならそうなのだろう。
こいつこう見えて天才だし、こいつの言うことは大概あってる。記憶力も化け物並だし、技も教えてもらわなくても独自で習得出来てしまうから羨ましい。
なるべく本を踏む面積を少なくしようとつま先立ちで進んでいくとアランのいる場所へとたどり着いた。
この寮の部屋の間取りはベッドが置いてあったりする部屋とトイレと風呂しかないからどこにいるかはわかりやすい。
アランはベッドの置いてある部屋で机と向き合っている。
とてつもない集中力でオレ達がすぐ後ろで立っているのに気づかない。
「わぁ、すげぇ……」
リアムは珍しく口元を引き攣らせている。
無理もない。
机の両端にはどうやって積まれたのかわからないが、天井まで紙が積まれていて、たまに闇の術を出したかと思うと紙に書くを繰り返している。
「おい! アラン!」
リアムが声を張って呼ぶがまるで聞こえてないかのように作業を続けている。
こいつはこいつで化け物並の集中力があって一度入り込むと呼ぶだけじゃ集中力は切れない。
「アラン!」
「気づいてヨ!」
ソフィアとピンインがアランの両腕にしがみついてアランは我に返ったかのように止まった。
「なんでここにいるんだ? どうやって入ってこれた?」
「おまっ! 女だと無視しねぇのか!? 差別だ!」
「違うっすよ。区別っす」
「ぐぅ……」
腑に落ちないでいるリアムを放っといて、オレはアランに近づいた。
机の上の紙に目をやると、白紙の紙にぎっしり書かれた細かい字。
机の上に置かれてる紙は全て読めなくなるくらい大量の字で埋め尽くされていた。
まだ寮に戻ってきてからそれほど時間は経っていないだろうに。これはもう、集中力だけでどうにか出来る問題じゃない気がする。
「なんだ? お前らもいたのか」
アランは特にリアムを見ても態度を変えることなく普段と変わらない様子で話しかけてくる。
「こりゃぁ、また。アランは努力家だなぁ」
リアムがヒューっと口笛を吹き言うとアランの眉間が微かシワが寄った。
「努力なんてしてない。これはただの“復習”だ!」
「はぁ?」
困ったような薄笑いを浮かべるリアムだが、オレもたぶんリアムと同じ気持ちだ。
これは復習なのか? 何年分の復習だよ?
「努力なんてくだらない事は俺はしない。俺は復習でじゅうぶんだ」
「この量の復習なら努力みたいなもんだけどなぁ」
「うるさい! 黙れ!」
珍しく声を荒らげ怒鳴ると顔を真っ赤にして俯いた。
アランはプライドが高いっすからね。何もしないで完璧っていうので常にいたかったんすよね。
「あのな、アラン。オレはずーっとお前を見てたからわかるんだけど、お前は天才じゃない」
「……っ!」
衝撃的な言葉にアランは顔を上げた。
「確かにお前は一般人よりは強い。でも、それでも、ランクで言うとSランクくらいだろ。それをお前は努力でずば抜けた力を手にいれてるんだ」
「お前に、たかが数日前に会ったお前に何がわかる……」
恐ろしく低い声で言い、アランがゆらりと立ち上がった。
その全身から滲み出る怒りのオーラにアランの近くにいたソフィアとピンインはオレの後ろに隠れた。
だが、リアムは何も動揺せずアランの間合いに入り手を取った。
「わかんだよ。お前の手を見りゃどれだけ努力したのかとか、頑張ったのかとか、全部わかんだよ」
リアムがアランに見せるようにアランの手のひらを目の位置に上げる。
オレにはよく見えなかったがそれでも少しだけ見えたアランの手は皮がめくれ、赤く血が滲んでいた。
いつもはこんな手じゃないのだが、治癒術で治していたのだろう。治癒術は誰にでも使える基本的な術のだから、もちろんアランも出来るし、オレも出来る。
オレの場合は弱いから擦り傷程度しか無理だが、アランなら骨折くらいは秒で治せるらしい。
「ちが……う。これは……さっき転んだだけだ」
苦し紛れの言葉を吐くと手が黒い霧で包まれ、傷跡が綺麗に消えた。
そして、一度小さく息を吸うと乱暴にリアムの手を払い除けて椅子に腰をかけ、ふてぶてしく足を組んだ。
「もういいだろ。どっか行ってくれ」
流れをどうにか変えようとしてるのかいつもの様な態度で面倒くさそうに言った。
オレはチラッとリアムに目を向けるとリアムは首の後ろを摩りながらイラついたかのように眉間にシワを寄せている。
「……いくぞ」
「あ、え!?」
意外にもあっさりリアムが引いてしまい、オレとソフィアとピンインは驚きを隠せないままついて行った。
部屋から出て扉を閉めるとリアムは手前の壁に額をつけて肩を震わせている。
顔は見えないが泣いてるのだろうか。
……しょうがないか。幼い頃のアランはもう少し素直だったしな……そう。素直……素直……だっけ?
「くくくっ。ふははははっ!」
途端にリアムが大声で笑い飛ばし、ピンインが反射的に「気持ち悪いネ!」といって左頬をぶん殴った。
「ピンインちゃん。今のは痛かったよ?」
「ごめんネ。なにかに取り憑かれたかと思って……」
リアムは頬を擦りながら笑いだか、痛さだかで頬に伝った涙を軽く拭った。
「でも、どうしたの? 壁に面白いものでもあった?」
「このなんにもない壁見て面白いってなったら本格的に頭いかれた奴っすよ」
「そうだぞ! 俺は正常だから壁を見て笑ったわけではない!」
……そうじゃなくても、やっぱりいかれちゃったっすかね? まだ若いのに可哀想に。
「おいおい。レオンさんや。その憐れむような目はなんだね?」
「なんでもないっすよ。んで、なんかいい事でもあったんすか?」
オレが聞くと、待ってましたと言わんばかりにわざとらしくひとつ咳をした。と思ったらむせ返ったらしく連続した咳をしている。
ダメだこりゃ。
「ゴホン! ゲホゲホ! カハっ! う……ゴホン! その問にお答えしよう」
やっと落ち着いたのか仕切り直したかのように厳かな雰囲気で告げた。
あんだけ咳き込まれたから厳かの“お”の字もないっすけど。
「結論から言うと、いいことがあったのか、悪いことがあったのかはわからん! ただ、期待は出来そうだ」
「なにがなんだかさっぱりヨ?」
「んー、なんて言うか、取り敢えずアランが努力してくれてよかった」
「あれを見てよかったって言えるなんて、お前、相当Sネ」
ジトーっと見ているピンインにリアムは「まぁまぁ」と軽く宥めるとオレの方を向き直った。
「あいつはあのままでいい。さっきの奴でどう転がっても俺がちゃんと強くさせるし、体調も管理するから」
「オレはあいつの親父っすか? 結婚前の挨拶っすか?」
冗談半分で言うと、ピンインとソフィアは石化したかのように固まった。
そうだ。この二人アランのことが好きなんだっけ。
リアムはもうわかっているのかピンインとソフィアの頭に手を乗せて性格の悪そうな薄笑いを浮かべた。
「そうだなぁ……もらえるもんなら欲しいなぁ……」
こいつは、また……アランに怒られるっすよ……
ピンインとソフィアは素早くリアムの腕を掴んだ。
リアムですら反応できないくらいの速さと殺気のなさに一瞬だけリアムがたじろぐ。
そして、そのまま廊下の通路に投げられ、顔面から床に突っ込んだ。
おぉ。30メートルはいったっすね。
さすが、S1ランクとSランク。か弱そうに見えてとてもお強い。
「2人ともあいつの事は気にしちゃダメっすよ。どうせ、悪ふざけっすから」
「でも! なんとなく、あと1発顔面にぶち込んでやりたいネ!」
「そうね! とてつもなく不愉快だわ!」
二人の意見をしっかり聞き入れたところで、よろよろと立ち上がったリアムに向かって言った。
「だってよ。どうするっすか?」
「あ? なに? 俺とキスしたい?」
直後、リアムの頭上に雷が落ちた。
「あだだだだだ!!」
ちゃんと技を受けて上げてるあたりこいつは優しいっすよね。
これくらいなら避けれるのに。
「あー。だいぶスッキリしたネ!」
ピンインが手を数回払い、「もう帰るネ」と言って寮にある自分の部屋に帰って行き、ソフィアも続いて帰っていった。
オレはうつ伏せに倒れてるリアムに近づいて足で突っついた。
「リアム、上手く空気変えてくれてありがとっす」
「別に。俺はなにもやってねぇよ。お前らのおかげで勝手に空気が変わっちまっただけだ」
「……そうっすね」
リアムはおもむろに立ち上がると、身体が淡い光に包み込まれピンインによる雷で傷ついた身体や投げられた時の怪我が綺麗さっぱりに消えてなくなった。
「さて、と。俺もそろそろ戻って練習すっかなぁ」
「お前はやんなくていいでしょ。千年に一人の逸材じゃないっすか」
ふざけた嫌味を言ったつもりだった。
こいつの事だから、ドヤ顔して胸を反らせて誇らしそうにすると思ってた。
だけど、顔を伏せて首の後ろを何度かさすったまま沈黙が流れる。
あれ……地雷だったっすか?
「……それは、アランだ」
たっぷり間を空けるとポツリと呟き、勢いよく顔を上げた。
変わらない笑顔のリアムだが、どこか辛そうでそれはもう、目を逸らしたくなるほど。
「リアム、ごめんっす……なんか」
「なんで謝んだよ? 別にお前は悪ぃ事してねぇだろ?」
「でも……」
言葉が上手く出てこない。
謝りたいけど、今のオレだとまた下手に言ってしまいそうだ。
「なぁ、知ってたか? お前は才能の塊って呼ばれてて、それより強いアランは千年に一人の逸材って呼ばれて、更にそれより強い俺はなんて呼ばれたか」
オレ、そんな風に呼ばれてたんすか。初めて知った。
オレ達は幼い頃、ここの系列の小等部の学園には行かず、個人塾のような場所で三人だけで修行していた。
それで、たまに小等部と試合をするのだが、まぁ、小等部の弱いこと弱いこと。そのため、そんな風に呼ばれるのは仕方ないのかもしれない。
「リアムは、天才っすかね? それか、神?」
「んー、違うんだなぁ」
眉を下げ、困ったように笑うリアムはそう言い、重たい口をこじ開けるかのようにスローモーションと呼べるくらいのスピードで開く。
そして、喉を締め付けられたように絞り出すようにただ一言こう言った。
「俺は…………“化け物”だ」
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