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決戦
しおりを挟むそれぞれ分かれて闘技場を目指し、私はクラリスとガイアと行動を共にする事になった。
研究室の外で待っていたガイアにクラリスは今回の作戦を手短に伝え、いざ出発となった所でガイアが私に近付いてくる。
「貴女がクローネ様ですね。我が主を救っていただき、心から感謝しております」
「いえ。クラリス、様に助けてもらったのは私の方ですから!」
丁寧にお礼を言われ、慌てて否定する私にクラリスは困ったように笑って言った。
「様付けなんてしなくていいから。距離を置かれたようで寂しいよ」
「ごめん、まだ慣れなくて」
声は馴染みがあるのに、目の前にいる人はまだ見慣れなくて何だか不思議な気分だ。
それでも不思議と緊張感はなくて素直に話せた。
「クローネ様。どうかこれからも、末永く我が主の事をお願いします」
「それは重荷でしかないから・・・」
邪心のないキラキラした瞳で私を見つめるガイア。
困惑しているのか、掌で顔を押さえるクラリスの表情は見えなかった。
研究室から歩いて闘技場に向かい、森エリアの横を抜けて予定通り裏口に辿り着いた。
そこには、門番のように仁王立ちした生徒達が待ち構える。
「やはりただでは通してくれないようですね。主、どうしますか?」
「僕とガイアで強行突破できそうだけど・・・」
木々に紛れて闘技場裏口の様子を確認し、力押しでいこうかと相談する話を聞きながら私は考えていた。
他の二チームも既に到着したのだろうか。
ここで強行突破を選択して騒ぎを起こせば、増援が来るかもしれない。
魔黒石戦が控えてるから、できるだけ体力は温存するべきだ。
私はポケットに手を入れ、煙玉を取り出して言った。
「ここは私に任せて」
「何か策があるみたいだね。それは?」
私の手の中にある煙玉を見て、クラリスが小首を傾げて問いかけた。
「まぁ、見てて。これを──こうして!」
千本ノックで鍛えた腕の力を活かし、煙玉を思いきり生徒達に向かって投げつけた。
「な、なんだ?」
「煙が出たぞ!?」
煙玉は生徒達の足元に落ち、その瞬間破裂して周囲は煙に包まれた。
これは薬草を擦って詰め込んだ煙玉。
手を加えなければただの雑草と言われている薬草だが、細かく擦って破裂させると催眠効果を引き起こすのだ。
「素晴らしいです、クローネ様。戦わずしてこんな事が!なんと賢い方なのでしょう!」
煙が消えて、巻かれていた生徒達は地面に横たわり眠り込んでいる。
そんな様子を見たガイアは、両手を叩いて私を大絶賛してくれた。
隣にいるクラリスは、何だか頭が痛そうだ。
「じゃあ、このまま進みましょう!」
倒れている生徒を避けて闘技場に入ろうとすると
──ドーン、バン、ドドンッ。
派手な爆発音のような音が何度も響いた。
「あ、あれは・・・?」
「魔法の力ですね」
「うーん、方角的にカイン達の方だけど」
どうやらカインが派手に暴れているようだ。
裏口から入り、人気のない屋内を抜けると闘技ステージに出た。
「お待ちしていました」
そこには、文化祭で着た真っ黒なドレスを纏ったアイビーが微笑んでいる。
仮面を取った素顔はグラシア同様、綺麗な顔立ちをしていた。
「手荒な事はしたくない。魔黒石はどこ?」
クラリスが腰に下げた剣を見せて言った。
「まぁ、恐ろしい。やはりこんな野蛮な方達の元に、お姉様を置くわけにはいきませんわ」
アイビーは眉を下げ、切なそうに瞳を伏せて
「お姉様はどこですの?」
と、先程とは違う低い声で言った。
「私がここにいると知っているのでしょう?それなのに、どうしてお姉様は私に会いに来てくださいませんの?」
「君が魔黒石を持ってる以上、グラシアには会わせられない。それは危険な魔石なんだ!」
クラリスの説得は、まるで聞こえていないようで俯いたままだ。
「素直に渡すつもりはないみたいだね。ガイア!」
「はい、我が主」
クラリスが剣を抜き光る刃にガイアが手をかざすと、忽ち鋭い氷を纏う。
風を切って駆け出したクラリスは、勢いよくアイビーに斬りかかった。
キーン──
すると、アイビーの手の中で黒い光を放った魔黒石がクラリスを押し返したのだ。
受け身を取りすぐに起き上がったが、剣を包んでいた氷の刃は消えていた。
「どうやら、操る他にも能力があるようですね」
「ちょっと厄介だね。クローネ、ガイアの後ろから離れないようにして」
「は、はい!」
アイビーに会えば、ちゃんと話せると思ってた。
ふと、ジャスミーナとアイビーと一緒にランチをしていた光景が浮かんだ。
「魔黒石は百人の魔力を吸い込んだ魔石ですの。ですから、私のように魔力がなくてもこんな風に──」
再び魔黒石は輝き、暗黒の球体が飛び出して空に浮かんだかと思えば、私達に向かって雨のように降り注いだ。
「危ない!」
そう叫ぶと、クラリスは私を抱えてアイビーの攻撃を避けた。
ハッとして隣を見ると、ガイアも軽やかなジャンプで次々と落ちてくる黒い雨を避けている。
私がホッと胸を撫で下ろした次の瞬間──
「どんな時でも油断はいけませんわ。貴方はもう、私のものです」
「しまった・・・!」
上手く誘導された私達の目の前には、ほくそ笑むアイビーがいて魔黒石が怪しく発光していた。
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