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11月

195.ハゲイトウ

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11月21日 日曜日
雪ちゃんのお家で朝御飯を作って衛に食べさせてから、私は雪ちゃんの事を起こしに行った。お部屋の中に入っても相変わらずの寝坊助雪ちゃんは、ベットの中でピクリともしてない。そんな雪ちゃんの寝顔を眺めながら、私は少し考え込んでいた。
智美君はカメラアイには良いことばかりじゃないって話してくれたんだけど、それをもし雪ちゃんが持ってたら、衛が持っていたら。自分の経験した嫌なことを何時までも、永遠に繰り返して思い出しているのかもしれない。雪ちゃんが一番嫌なことは多分両親の事だろうし、私が約束を覚えてないって嘘をついたこともある。衛だってお母さんが亡くなったことで、何か嫌なことがあったかもしれない。

「ごめんね、雪ちゃん。」

ポツリと呟いた途端、雪ちゃんの手がベットから伸びて私の腕をとる。また寝ぼけてる?って思ったら目の前の雪ちゃんの紅茶色の瞳はしっかりと私の事を見つめていた。

「何で…謝るの?何かあった?また、あの女?」

雪ちゃんの不安そうな瞳に私は首を横に振って、躊躇いがちに口を開く。

「雪ちゃんに嘘ついて、約束覚えてないって言ったこと。」

その言葉に雪ちゃんは少し緊張を解いて、柔らかな笑顔を浮かべて見せる。

「その事はもういいよ。だって今は麻希子から好きって言ってくれた事の方が鮮明過ぎて、昔の事は忘れた。」
「雪ちゃんはどれくらい昔の事を覚えてるの?」

私の問いかけに雪ちゃんは少し目を細めて、横になっていた体を起こす。そうして私の事をまた当然みたいに自分の膝の上に座らせた。あれ、質問の答えはって雪ちゃんの顔を覗きこむと、雪ちゃんは溜め息混じりに私の顔を見上げる。

「麻希子、同級生の香坂君とやらはカメラアイかな?」

私が驚いたように目を丸くすると、やっぱりって言うような視線で雪ちゃんは私の顔を見つめた。雪ちゃんがやっぱりその言葉を知ってるってことは、雪ちゃんもそうなの?そしたら私が嘘をついたことも、永遠に記憶されてるってこと?

「俺の父親の名前は香坂智春と言うんだ。彼はね、小さい頃交通事故に巻き込まれて、自分がカメラアイだって気がついたらしい。」

雪ちゃんの本当のお父さんは香坂智春さんって言って、小さい時に交通事故にあったらしい。その時犯人は逃げてしまったらしいんだけど、智春さんのカメラアイのお陰で犯人を捕まえることができたんだって。智春さんはその経験からか、大人になって警察官になって刑事になるのを目指していたんだ。でも、記憶される警察の仕事の記憶が嫌なことが多すぎて、駄目になりそうになっていたんだって。駄目にって、どういう事か聞いたら、精神的におかしくなりそうだったってことらしい。そんな時に雪ちゃんのお母さんアリシアさんとであって、一目で恋に落ちたんだって。

「嫌な記憶は確かに残るけど。幸せな大事な記憶を増やせるようになって、嫌な記憶だらけではなくなったんだって。」

二人はあと少しで結婚するところまで行っていたけど、初雪の振り出した寒い日に智春さんは仕事中に背後から襲われたんだって。倒れた智春さんが見つかった時、彼は犯人を告げて最後にアリシアさんの顔を見て穏やかに息を引き取ったという。犯人はハッキリしていたが、結局捕まらなかった。警察が行った時には既に犯人も命をたっていたからで、犯人はなんと智春さんの幼い時の交通事故の犯人だった。交通事故で捕まった事を逆恨みしての犯行だったんだって。不老不死でもないのにそんなことを逆恨みし続けて何十年も生きてるなんて、少し竜胆さんの事が頭に浮かぶ。

「香坂智春は母親は既に亡くなってたけど、父親はまだ生きてた。でも、母は葬儀で会っただけで、その後は二度と会わないまま亡くなったらしいよ。その人もカメラアイかは俺も知らない。」
「そっか、……雪ちゃんは?どうなの?」
「記憶力はいい方だけど、カメラアイとは言えないよ。」

あれ?遺伝するって智美君はいってたけど、雪ちゃんは違うの?って私の顔にでたみたい。雪ちゃんは少しおかしそうに、私の頬に触れる。

「そりゃ、記憶できるならこの間の麻希子の可愛い彼シャツ姿を記憶しておきたいけど。俺は子供の頃から訓練もしてないし、ちょっと記憶力がいい程度だよ。」

訓練?訓練すると出来るものなの?っていうか、ゆ、雪ちゃん、今なんて言った?

「か、彼シャツ??」
「あれは悩殺モノだったなぁ、麻希子。今度お泊まりの時は一緒に寝ようか?」
「は、話を反らそうとしてる?」
「いいや、記憶力がどれだけ良くって悪いことを覚えてても、麻希子が彼女になって彼シャツでオズオズ上目遣いで見たら最高の記憶の方が勝つって話だよ?」

え?そういうこと?いやいや、彼シャツって、あ、パジャマ借りたこと?彼シャツってダボッとした彼氏のシャツを着るってことだよね。い、言われればあれはそうなの?って言うか今度のお泊まりなんてサラッと言ってたけど、何か今までと違う話をされたような。

「い、一緒にねるの?!」
「うん、抱っこで。」
「えええええ?!」
「そこから先は自己責任ね、うん。」

ニコニコしながらそう言う雪ちゃんは、凄く幸せそうで私は呆気にとられる。自己責任ってこういう時も使うの?っていうか今更だけど、雪ちゃんは何で私の事を膝に座らせるんだろうか?!
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