Flower

二度目の５月

364.キリ

５月９日　火曜日
既に何処か初夏の気配すらする爽やかな晴天。颯爽と木立を揺らす風を感じるし、澄んで雲一つないとってもお天気のいい火曜日。去年の今ごろもこんないい天気だったような記憶だけど、こんなにいい天気だと正直ピクニックとかお出掛けとかしたくなるよねー。去年の今ごろもそんなこと考えていたんだっけ？うーん、記憶にないけど。それにしても今年は何時もとちょっと違うゴールデンウィークを過ごしたせいなのか、カレンダーの上ではとうに終わった筈のゴールデンウィークなんだけど、休みボケっていうやつなのか、はたまた世にいう五月病？世の中散々にリフレッシュが終わってーなんて高尚な事をニュースやワイドショーで言うけれど、やっぱりお休みボケはきついもの。
そうそう五十嵐君は今日は朝から学校に来てたけど、お休み中が全部お仕事だったらしく何となく他の人とは違う意味でグッタリしている様子に見える。

「今ドラマの撮影なんでしょ？」
「まあ。」
「何時から放送されるの？ドラマ。」
「知らない。」
「ふぅん。」

ああ、たったそれだけで会話終了かぁ。芸能通の瑠璃ちゃんから問いかけられて、何を聞かれてもそんな風に素っ気なく答える五十嵐君。瑠璃ちゃんはきっと何に出るかとか知ってて、話題提供の気分で聞いてる気がする。だって、あの瑠璃ちゃんだよ？！私昨日こっそりとググってみたけど、先輩の従兄弟(仮)ウィルさんの情報なんて何処にもひとっつもなかったもん！瑠璃ちゃんてばあの情報、もしかして直に事務所に調べにいってるんじゃないかと、実は私は思ってる。五十嵐君は少しは皆ともコミュニケーションはとれるようになったけど、相変わらず素っ気ないというかなんと言うか。確かにこれから難カ月後かに放送になるドラマの話をネタバレしたら危ないから話しちゃいけないんだろうけど、もう少し笑ってくれてももいいんじゃないかなー。なんか五十嵐君ってやっぱり野生の動物って言うか、ネコちゃんが知らない人にシャーッ！！ってやってる感じなんだよね。しかもネコってイメージじゃないんだよなぁ、五十嵐君って。かといって源川先輩みたいにワンコのイメージもないし。それにしてもこれって人見知りっていうことなのかな？本当のところ、確かに野生のどう

「だから、言ったろ？野生アライグマ。」
「だからって……。智美君ってば、そこまで的確に口にしてない私の心を読まないでよー。」
「麻希子がいい加減分かりやすいんだよ。」

えー？そんなに私って分かりやすいのかなぁ？って首をかしげたら、智美君ってば分かりやすすぎて困るなんて言う始末だ。分かりやすすぎて困るってどういう意味？例えば？って私が聞いても教えないって。いや、智美君てば教えないって、読んでるのは私の心なんじゃなかったっけ？なんで人から自分の心のうちを秘密にされてるの？私ってば。でもさ、智美君に隠してるようなことって何かあったかなぁ。うーん、強いていうなら体重が元に戻った事くらいしか思い浮かばない。あ、太ってないよ？！三月の肺炎前の体重ってことだからね？！
しかし野生のアライグマなんて言われてる五十嵐君。アライグマって野生の見たことないんだけど、そんなにいるものなのって智美君に聞いたら日本にも結構いるんだって。昔のアニメーションで人気が出てペットで飼った人達が、アライグマが大きくなって手におえなくなって逃がしたのが野生化したそうで。アライグマってあんな可愛い顔だし可愛い姿なんだけど、結構気性が荒くて人に慣れなくて飼い主にも噛みついたりするらしい。しかも結構噛まれると大ケガになっちゃうんだって。えー！！アライグマって本当にそんなに気性が荒いの？って私が聞いたら、智美君は平然とアライグマって言うしなって。

「えええ！アライグマのアライってそのアライ？！」

驚きって私が言った途端、智美君が目を丸くしてから顔を真っ赤にしてブハッて吹き出した。あの、目の前で盛大に智美君が爆笑してるけど、これってもしかしなくても私、騙されたんだよね？っていうか智美君、騙した？騙したよね？いまの絶対。

「何したの？麻希子。智美が笑い死にしかけてるけど。」
「香苗ーっ！智美君が私のこと虐めるんだよー。」
「じょ、冗談で、言ったら真顔でっ、真顔で信じたっ！」

ちょっとなにそれ、しかもそれどうみたって笑いすぎでしょーっ！って不貞腐れた私に、皆が一斉に何したのどうしたのって集まってくる。しかも智美君が私をひっかけたのに、そこはさておきで皆して私の勘違いに爆笑し始めるんだけど。何でーっ？！酷くない？！
そんな様子を五十嵐君は遠巻きに眺めているけど、こういうときに何気なく一緒に話してくれればいいんだけどなぁ。このタイミングで！っとかって難しいのかなぁ。去年は何でかいつの間にか皆打ち解けちゃってたし、んー何かいい切っ掛けができるといいんだろうけどな。私として月末の修学旅行が、その切っ掛けにならないかなーって正直考えてるんだ。