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91.外崎宏太
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進藤隆平は捕まってからというもの、異様な程に淡々と事情聴取に応じていると言う。自分自身でゲームオーバーと口にしたあいつは、それこそ本気でやる気を失ったのだろうと俺は感じた。
供述の内容は喜一から聞いたが、大体は想定通りの内容だ。進藤は恐らくガキの頃は要領のいい頭のいいガキだったと思う。何でもそつなくこなして、自分を一人で育てる母親には心配なんてかけたこともない。そんな傍目には優等生の典型みたいな、何でかって俺がそんなタイプだからだ。自分自身の情緒的な問題に自分ですら気がつかない、順風満帆に一見見える完璧な優等生。ところが、一歩足を踏み外すとそんな奴に限って、とんでもない方向にアッサリと落ちる。それこそ金融関係の大手の会社で社長の娘婿になって末は時期社長なんて言われてた人間が、その後フリーターから調教師になって投資家やらバー店長をやって。今ではこうして裏社会に浸かりながら、経営コンサルタントなんかやってるみたいなもんだ。
呆れるしかないのは俺が進藤と同じ立場なら、進藤と同じことをしたかもしれないなんてことを考えたからでもある。
自分を殺す相手を育てる……か。
三浦和希は血が繋がっていたかもしれないが、善良な両親に真っ当に二十歳過ぎまで育てられていた。本来は同じ年代の人間と比べて別段悪意を操るとかもなく、そこらの兄ちゃんと大差がなかったと俺は思う。真名かおると出会わなければ、あいつはそのまま只の不動産屋の息子で今もノホホンと今時の青年で暮らしていただろう。三浦和希が俺の店に通うのを進藤が黙認したのは、俺の店に通うことで三浦が自分の中の進藤の血に気がつくかもしれないと考えたんじゃないだろうか。確かにマトモな店ではなかったから可能性は高いし、実際に最初の暴君っぷりは中々だった。
真名かおるがイレギュラーだった訳けどな。
結果として病院で隔離された三浦和希を見た進藤は、期待してない結果に愕然としたに違いない。それでも結果としては三浦を助けるような行動をした理由は、正直俺には想像もできない範疇だ。でも喜一や杏奈のことを考えると、僅かにだが親としての感情がそこにあったんじゃないかと思ったりもする。
ただ予想外だったのは上原杏奈のことは、進藤は全く気にもとめてもいなかった。真名かおるのふりをされた時は焦ったが、上原杏奈が真名かおるのわけがないと確信していたしと進藤はいう。あの女が真名かおるなら、初めて和希と顔を会わせた時に怯えるはずがないと進藤は答えたが、それは恐らく住宅街でサラリーマンが殺された時のことだ。兎も角廃ビルの地下二階の大量の血痕は上原杏奈だと、進藤は証言した。あの時和希がナイフで刺した傷はかなり深く、見ていて出血も酷かったから廃ビルに置き去りにして、何も関与していないというのだ。
「へぇ、あのまま死ななかったか?中々やるな、あのねぇちゃん。」
そう言ったものの進藤は、ただ三浦和希がその後に何もしないとは言えないという。何しろ逮捕のずっと前に進藤は十分な資金と技能を与えて、三浦には自由にしろと街に放置してきたと言うのだ。既に進藤は一ヶ月以上連絡もとっていないということは、既にカラオケボックスの事件の時には三浦は自分自身で自分の行動を決定していることになる。それで全く足取りが掴めないと言うことは、進藤隆平並みの技術は確かに身につけたと言うことだ。
三浦を捕まえたら俺も自分の事にけりをつける…。
そう喜一は言った。自分がした過ちにけりをつける。実際には喜一より俺の方が遥かに悪事を働いているし、それを償えといわれれば確かに償うべきなのかもしれない。だけど俺自身正直にいうと、調教師やなんやには全く罪悪感を持ってはいないんだ。どれもこれも社会の中にあって、密かに眼を瞑って見ないふりをしているやつらばかり。『耳』に関してだって、今も利用している人間が大勢いる。悪用すれば幾らでも悪用できるが、
………了がいなきゃ……今からでも、しててもおかしくねぇか。
今でこそだが、傍にいる人間が大切だからそんなことは出来ないと言った宇野智雪の気持ちが痛いほどわかる。自分のためにその相手を傷つけるのもごめんだし、自分のために泣かせるのですらごめんだという気持ち。
「麻希子を泣かせるくらいなら、恨みなんか捨て去っても構わない。」
だからさっさと進藤を誘き寄せて自白させて、逮捕してもらいたいんですと雪は言ったのだ。逮捕されれば自分には進藤の側に落ちる気なんて更々ないって伝わるでしょうと。進藤は俺と同じ能力を、全て悪意を実現するために利用していた。俺もやってることは同じだから、使い方一つで進藤となにも変わらない。ただ今では捕まって刑務所は駄目だからな?死ぬまで俺の傍にいて、忌の際に俺に愛してると言えなんて約束させられてしまった。
惚れたもんが敗けだってのが、よく分かるよな。
久保田惣一が志賀松理に惚れて、裏社会から一応足を洗った理由。宇野智雪が真犯人を知っても裏社会に行かない理由。
進藤にとっては、雪が最後の期待だったんだろうとも思う。自分を殺せる能力を持っている上に、自分の側に来ても遜色のない技能。全て植え付けた証明として、金子寛二をアッサリと警察にたれ込み突き出した。それを全て悪意に使えば、恐らく数年でもう一人の進藤が産まれたに違いない。ただ誤算は進藤には、宇野の傍にハムスター……もとい愛くるしいお姫様がいるのを計算に入れなかったってことだ。
ちなみに宮井麻希子という女子高生も、雪と長く付き合えるだけあって一風変わっていて、どうしてかアンダーグラウンド側の人間に好かれやすいという特技がある。何でか惣一はじめ、惣一の店の鈴徳良二や志賀松理にも大人気らしく、雰囲気からハムスターのハムちゃん等と愛称をつけられているのだ。
「宏太?」
隣を歩いていた了が俺の手を握りながら、不思議そうに顔を向けてくる。考え事をしていて気がつかなかったが、もしかして足取りが早かったか?と問いかけるとそんなことないけどどうかしたのか?と気遣う。
ん?杖はどうしたって?ちゃんと持ってるが?ああ、手を繋いでるからか。これはただ単に俺がそうしたいだけで、『茶樹』までの道のりでは杖だってたいして使わなくても大丈夫だ。そんなことを考えた瞬間、何処かで聞き覚えのある足音に気がついた。勿論隣の了の足音ではない、喜一でもなきゃ風間でも、俺が自分の友人と考えている範疇の人間の足音ではない。音を殺すように慎重に水平に歩を進める癖に、蹴りだしは軸足がハッキリしていて足技を身に付けている人間の足取り。思わず俺は眉を潜めて、了の手を握る指に力を込めて引き寄せる。
「どした?」
足取りは真っ直ぐにこちらに向かって歩いていてアスファルトを蹴るヒールの音から女物の靴だとは分かるが、足音自体で結び付いたのは全くの別な人間だ。
進藤隆平?
そう、足をへし折って今は歩けもしない筈の進藤の足音。それに気がついた瞬間、スッと背筋が凍るのを感じてしまった。まるで歩き方を完全にコピーしたような足音。
つい最近顔をあわせた人間でもう一人、こんな風に全く別な人間と同じ歩き方をする人間がいた。その人間は俺が足音から想像した人間の実の息子で、幼馴染みの鳥飼澪の一人息子・鳥飼信哉だ。しかも偶然雪の同級生で、都立第三高校の教師・土志田悌順とも幼馴染みだというから世間は狭い。鳥飼澪は合気道と古武術を身に付け独特の足音のしない歩き方をする女だったが、息子も全く同じ歩き方をする。靴を履いていてすらほぼ足音がしないので耳頼りの俺には天敵とも言えるんだが、大体にして俺は幼馴染みの鳥飼澪には合気道でも古武術でも、なんとまあ学力ですら一度も勝ったことがない。あの女は俺に言わせれば、化け物の部類なんだ。それと全く同じ歩き方ということは、息子も合気道と古武術の手練れで俺ですら叶わないだろう。だが鳥飼澪が既に死んでいたと、息子から聞かされた時は流石に言葉がでなかった。あの女は行方をくらましていても絶対に長生きすると、俺は心のどこかで信じていたんだ。ババアになった澪に再会してババアだなと笑ってやると決めていたのに、十一年も前に交通事故で死んでいたと今更知ってしまった。
儚い花のようにアッサリと散っていたなんて、勝ち逃げだろ?澪。
そんなことを思うほどだ。それは兎も角、今俺が聞き取っている足音は、それとは違う人間。ちゃんと耳で聞き取れる足音だが進藤隆平と同じ歩き方ということは、進藤と同じものを同じように身に付けている。だけど同じ武術や格闘技でも個人の癖は必ず出るんだ、それがコピーしたみたいに同じということは進藤から教えられ、進藤を目で見てコピーのように身につけた。
三浦和希………。
隣の了は勘がいいから直ぐに俺の顔色に気がついたが、理由までは分からないでいる。距離はあっという間に縮まっていき、恐らくほんの数メートルしか三浦と離れていないのに俺は冷や汗が滲むのを感じた。
どうする?……何とかするにも、了がいる。向こうに了の事を気づかれるのはまずい。
どんなに勘が鋭くて頭がよくても、了自身は産まれてこのかた何も格闘技の類いは身に付けていない。しかも合気道をやっている友人に酔って投げられて、肋を折ったことがあるくらいだ。
「希和さん!」
何だと?!俺の顔が更に強張ったのは、全く別な方向から懐かしい名前を若い声が呼んだからだ。しかも俺の自殺した妻・希和の名前に、近づいていた三浦和希が賑やかに女の声であらと声をあげる。青ざめ冷や汗をかいている俺と心配して俺を見上げる了の真横を、カツカツとヒールの音をさせて女の姿をしているらしい三浦が通りすぎていく。
「今日はどうしたの?早いのね。」
「いやぁ、希和さんに会いたくて。」
三浦に声をかけた声は、かなり若い男だ。大学生か?どう聞いても既に何度か、顔を会わせているような会話で二人は並んで歩き出したようだ。了は何気なく二人を見た風だが、改めて俺に心配そうに大丈夫か?と問いかける。
「了、今横を通りすぎた女、見たか?」
「あ?大学生位の黒髪の?」
俺には見えないが、何気なくだが了は一応見ていた風だ。大人し目のフェミニンな格好と答えたが、しかもあの声では以前カラオケボックスでヘッドホン越しの喘ぎ声と同一人物とは了にも思えないだろう。男の方はと聞くと高校生じゃないかななんてことをいう。
「何でだ?」
「ここいらで良く見かける制服着てたし。この時間にフラフラってことはサボりかな?」
四月半ば過ぎの午前中の駅前、確かに制服姿で彷徨くには早すぎる。既に足音の判別どころか、歩み去った二人は連れだって遠くの角を曲がったという。即座に喜一に情報は提供したが、流石に情報が俺の聞き分けた足音だけでは一課までは動かしようがない。一応明日にでも都立第三の土志田にも連絡をとろうと考えていたが、結局それは一歩遅かった。
※※※
その日の夜中に喜一から都立第三高校の三年の男子生徒が、路地裏で陰茎を切り落とされて首を切りつけられて発見されたという連絡が入った。残念ながら現場を撮すような位置の監視カメラはない、薄暗がりの裏路地の奥がいち早く発見できたのは母親が息子が変な事になっていると通報したからだ。
その息子はここ暫く素行が悪く、一昨日から制服のまま家出していたらしい。何度も母親は電話していたが、ヘラヘラと笑ってマトモに返事もしなかったのだという。そんな息子に母親は、我が子は本気で薬でもやってるんじゃないかと心配していた。そうして夜になってもやはり家に戻らない息子に、苛立ちながら電話をしていた最中の事だったらしい。
「変な電話で、途中に溺れるみたいな音がして!」
息子のスマホの電源は落とされていたが、最後の通話のお陰で男子生徒のいた場所の大体の範囲を絞れた。だけど警察が現場に辿り着いた時には、既に血溜まりに意識のない制服姿の高校生が壁に凭れて座り込んでいただけ。溺れたように聞こえたのは喉から血が溢れた音で、その傷はかなり深く虫の息だったが、足や腕を切り落として腹を切り裂かれなかったのは幸運だった。どうやら三浦にも路地裏では時間が足りなかったのだろう。
直ぐに救急車で運ばれたというが、何とか命は助かっても残る傷はかなり大きい。かなり上手くすれば俺と同じような体だろうが、恐らくはそこまでの幸運とは言えないだろうというのが喜一の見立てだ。
その話を聞いて思わずベットの上で溜め息をつき頭を抱えた俺に、隣にいた了が寝ぼけ眼を擦って見上げたのが分かる。
土志田にも連絡をしておけばよかった……。
少なくとも自分のとこの生徒の事だから、少なくとも生徒が彷徨く場所は算段がついたに違いない。数日前から家出をしていたという情報が学校に入っていたら違ったろうが、親の方ではここ数ヵ月素行が急に悪くなって家出を何度も繰り返していたから学校には報告もしなかったという。
全部が裏目に出て、また被害者か……。
いい加減なんとかして三浦を捕まえ犯行を止めないと、三浦はたかが都市伝説どころじゃなくブギーマンかジャック・ザ・リッパーになりつつある。頭を抱えたままの俺を了が心配そうに見上げて手を伸ばしてくるのに、俺は苦い後悔の味を感じながら了の体を抱き締めていた。
※※※
「ここの店、どうなったんですか?」
低いハスキーな声に振り返った結城晴は、その青年に首を傾げる。花街から路地を一本入って人通りのないここに、自分と同じくらいの年頃の黒髪の青年が晴を見て立っている。背は晴と同じ百七十ちょっと、体型は自分よりはかなり華奢だ。短髪にカットされた黒髪は適度に流している風で、顔立ちは中性的というのが丁度いいかもしれない。眼鏡をかけているが、度入りのようではないからお洒落ということこか。服自体はそれほど際立っているわけではないが、自己流に安価なものもお洒落に着こなしている。ほとんど同じ歳くらいに見えるけど、実は大学生くらいかもしれないと思うのは少し頼りなさそうに見えるからか。
晴が今手をかけようとしている扉には、一応《t.corporation》という銀のプレートがドアに嵌めこまれていた。
「ここが前なんだったか知らないけど、今はうちの機械倉庫だよ?」
もしここで聞かれた時にはそう答えるようにと、社長の外崎からはきつく言われている。答えにくかったら社長に聞きますを通せとも。
何しろこの中の機械ってやつは『耳』って便宜上呼んでいるが、盗聴の端末の中継機器の山なのだ。
晴が唐突に雇えと外崎宅に乗り込み直談判した後、仕事は何をやってるのかを聞いて晴は正直ムクムクと好奇心が沸き上がるのを感じた。何しろ自分が生きてきた世界は、普通一辺倒で当然のように大学を出て就職して、他のやつらと同じくこのまま結婚して枯れていくのだと思ってきたのだ。ところが職場の先輩だった成田了……今では外崎了だが、彼に出会ってから晴の人生は悉く変わった。
要はスリルとサスペンスだよな、うん。
非日常の世界に突然投げ込まれて、晴が感じたのは恐怖ではなく強くて揺るがない好奇心。漫画やドラマのように社会の裏側を覗いて、探偵とかスパイとか?そんな活躍が晴の日常になるんだ。それを聞いて了は晴を危なっかしい性格だと言う。でも社長だって似たようなものだし、何だかんだと社長も了も面倒見がいい。お陰で前の会社員時代より余裕の高給取りで、しかも仕事は楽しいし了が手料理をちょくちょく振る舞ってくれもする。おまけに書類関係は在宅ワークも可なんて、世の中の会社員に申し訳なくなる厚待遇だ。そんなわけで今日は端末の調子が悪くて設定がどうなってるか見てくると社長に言ってここにいるわけだが、唐突に見たこともない青年に背後から声をかけられ不思議に思いながら返答したのである。
「そうなんですか……倉庫になってどれくらい?」
「悪い、俺最近勤め始めたから、全然そういうの知らないんだよね。あ、社長に聞いてやろうか?電話で。」
そういうと青年は人懐っこい笑顔で出来ればと小さく呟く。それにしてもこんな裏路地で店舗なんて、なんだったんだろうか。もしかしたらラーメン屋とか飲食店とか?倉庫の中には一応休憩スペースもあって、簡易キッチンがある。客も来ない倉庫なのに、キッチンなんて不要だろ?つまりは倉庫に改装前に、水回りスペースは設置出来ていたんだと思う。換気扇なんかも結構しっかりしてるし。
若そうだけど昔食べた味が忘れられないとか?晴自身はここいら近辺の産まれでもなければ、育ちも違うからここいらの事にはそれほど詳しくない。大学卒業と同時に就職のために、ここに住み始めた人間だから何年も前の事は何一つ知らないのだ。暢気に笑いながら電話をかける晴に、青年はすみませんと丁寧に頭を下げる。
「いいよ、気にしないでよ。俺もここいらの事そんなに詳しくないからさー。」
『……なんだ?』
「あ、しゃちょー?」
そういう間延びした呼び方すんなと呆れ声で言われてハイハイと適当に返事をしながら、その青年の問いかけをそのまま口にする。この倉庫の前ってなんの店だったの?いつから倉庫になったの?と。そんな問いかけに電話口は、何故か急に訝しげに声を潜めた。
『何で、そんなこと知りたい?』
「えーっとー、倉庫の前で声かけられてさ、ここの店どうなったか知ってるって聞かれてさー。社長なら知ってるかな~って。」
『倉庫の前で?どんな奴だ?』
「えっとね、俺とおんなじくらいかな。」
ねっと言いながら晴が振り返ると、今までそこにいた筈の青年の姿は何処にもない。あれ?と思いながら辺りを見渡すが、視界には裏路地の何処にも先程までの青年の姿は煙のように忽然と消え去ってしまっている。そこには晴だけしかいない、人気のない路地が広がっているだけだ。
「あれ?おっかしぃなぁ。」
電話の向こうで訝しげな気配を強める宏太をよそに、そう晴は辺りを眺めながら呟いていた。
供述の内容は喜一から聞いたが、大体は想定通りの内容だ。進藤は恐らくガキの頃は要領のいい頭のいいガキだったと思う。何でもそつなくこなして、自分を一人で育てる母親には心配なんてかけたこともない。そんな傍目には優等生の典型みたいな、何でかって俺がそんなタイプだからだ。自分自身の情緒的な問題に自分ですら気がつかない、順風満帆に一見見える完璧な優等生。ところが、一歩足を踏み外すとそんな奴に限って、とんでもない方向にアッサリと落ちる。それこそ金融関係の大手の会社で社長の娘婿になって末は時期社長なんて言われてた人間が、その後フリーターから調教師になって投資家やらバー店長をやって。今ではこうして裏社会に浸かりながら、経営コンサルタントなんかやってるみたいなもんだ。
呆れるしかないのは俺が進藤と同じ立場なら、進藤と同じことをしたかもしれないなんてことを考えたからでもある。
自分を殺す相手を育てる……か。
三浦和希は血が繋がっていたかもしれないが、善良な両親に真っ当に二十歳過ぎまで育てられていた。本来は同じ年代の人間と比べて別段悪意を操るとかもなく、そこらの兄ちゃんと大差がなかったと俺は思う。真名かおると出会わなければ、あいつはそのまま只の不動産屋の息子で今もノホホンと今時の青年で暮らしていただろう。三浦和希が俺の店に通うのを進藤が黙認したのは、俺の店に通うことで三浦が自分の中の進藤の血に気がつくかもしれないと考えたんじゃないだろうか。確かにマトモな店ではなかったから可能性は高いし、実際に最初の暴君っぷりは中々だった。
真名かおるがイレギュラーだった訳けどな。
結果として病院で隔離された三浦和希を見た進藤は、期待してない結果に愕然としたに違いない。それでも結果としては三浦を助けるような行動をした理由は、正直俺には想像もできない範疇だ。でも喜一や杏奈のことを考えると、僅かにだが親としての感情がそこにあったんじゃないかと思ったりもする。
ただ予想外だったのは上原杏奈のことは、進藤は全く気にもとめてもいなかった。真名かおるのふりをされた時は焦ったが、上原杏奈が真名かおるのわけがないと確信していたしと進藤はいう。あの女が真名かおるなら、初めて和希と顔を会わせた時に怯えるはずがないと進藤は答えたが、それは恐らく住宅街でサラリーマンが殺された時のことだ。兎も角廃ビルの地下二階の大量の血痕は上原杏奈だと、進藤は証言した。あの時和希がナイフで刺した傷はかなり深く、見ていて出血も酷かったから廃ビルに置き去りにして、何も関与していないというのだ。
「へぇ、あのまま死ななかったか?中々やるな、あのねぇちゃん。」
そう言ったものの進藤は、ただ三浦和希がその後に何もしないとは言えないという。何しろ逮捕のずっと前に進藤は十分な資金と技能を与えて、三浦には自由にしろと街に放置してきたと言うのだ。既に進藤は一ヶ月以上連絡もとっていないということは、既にカラオケボックスの事件の時には三浦は自分自身で自分の行動を決定していることになる。それで全く足取りが掴めないと言うことは、進藤隆平並みの技術は確かに身につけたと言うことだ。
三浦を捕まえたら俺も自分の事にけりをつける…。
そう喜一は言った。自分がした過ちにけりをつける。実際には喜一より俺の方が遥かに悪事を働いているし、それを償えといわれれば確かに償うべきなのかもしれない。だけど俺自身正直にいうと、調教師やなんやには全く罪悪感を持ってはいないんだ。どれもこれも社会の中にあって、密かに眼を瞑って見ないふりをしているやつらばかり。『耳』に関してだって、今も利用している人間が大勢いる。悪用すれば幾らでも悪用できるが、
………了がいなきゃ……今からでも、しててもおかしくねぇか。
今でこそだが、傍にいる人間が大切だからそんなことは出来ないと言った宇野智雪の気持ちが痛いほどわかる。自分のためにその相手を傷つけるのもごめんだし、自分のために泣かせるのですらごめんだという気持ち。
「麻希子を泣かせるくらいなら、恨みなんか捨て去っても構わない。」
だからさっさと進藤を誘き寄せて自白させて、逮捕してもらいたいんですと雪は言ったのだ。逮捕されれば自分には進藤の側に落ちる気なんて更々ないって伝わるでしょうと。進藤は俺と同じ能力を、全て悪意を実現するために利用していた。俺もやってることは同じだから、使い方一つで進藤となにも変わらない。ただ今では捕まって刑務所は駄目だからな?死ぬまで俺の傍にいて、忌の際に俺に愛してると言えなんて約束させられてしまった。
惚れたもんが敗けだってのが、よく分かるよな。
久保田惣一が志賀松理に惚れて、裏社会から一応足を洗った理由。宇野智雪が真犯人を知っても裏社会に行かない理由。
進藤にとっては、雪が最後の期待だったんだろうとも思う。自分を殺せる能力を持っている上に、自分の側に来ても遜色のない技能。全て植え付けた証明として、金子寛二をアッサリと警察にたれ込み突き出した。それを全て悪意に使えば、恐らく数年でもう一人の進藤が産まれたに違いない。ただ誤算は進藤には、宇野の傍にハムスター……もとい愛くるしいお姫様がいるのを計算に入れなかったってことだ。
ちなみに宮井麻希子という女子高生も、雪と長く付き合えるだけあって一風変わっていて、どうしてかアンダーグラウンド側の人間に好かれやすいという特技がある。何でか惣一はじめ、惣一の店の鈴徳良二や志賀松理にも大人気らしく、雰囲気からハムスターのハムちゃん等と愛称をつけられているのだ。
「宏太?」
隣を歩いていた了が俺の手を握りながら、不思議そうに顔を向けてくる。考え事をしていて気がつかなかったが、もしかして足取りが早かったか?と問いかけるとそんなことないけどどうかしたのか?と気遣う。
ん?杖はどうしたって?ちゃんと持ってるが?ああ、手を繋いでるからか。これはただ単に俺がそうしたいだけで、『茶樹』までの道のりでは杖だってたいして使わなくても大丈夫だ。そんなことを考えた瞬間、何処かで聞き覚えのある足音に気がついた。勿論隣の了の足音ではない、喜一でもなきゃ風間でも、俺が自分の友人と考えている範疇の人間の足音ではない。音を殺すように慎重に水平に歩を進める癖に、蹴りだしは軸足がハッキリしていて足技を身に付けている人間の足取り。思わず俺は眉を潜めて、了の手を握る指に力を込めて引き寄せる。
「どした?」
足取りは真っ直ぐにこちらに向かって歩いていてアスファルトを蹴るヒールの音から女物の靴だとは分かるが、足音自体で結び付いたのは全くの別な人間だ。
進藤隆平?
そう、足をへし折って今は歩けもしない筈の進藤の足音。それに気がついた瞬間、スッと背筋が凍るのを感じてしまった。まるで歩き方を完全にコピーしたような足音。
つい最近顔をあわせた人間でもう一人、こんな風に全く別な人間と同じ歩き方をする人間がいた。その人間は俺が足音から想像した人間の実の息子で、幼馴染みの鳥飼澪の一人息子・鳥飼信哉だ。しかも偶然雪の同級生で、都立第三高校の教師・土志田悌順とも幼馴染みだというから世間は狭い。鳥飼澪は合気道と古武術を身に付け独特の足音のしない歩き方をする女だったが、息子も全く同じ歩き方をする。靴を履いていてすらほぼ足音がしないので耳頼りの俺には天敵とも言えるんだが、大体にして俺は幼馴染みの鳥飼澪には合気道でも古武術でも、なんとまあ学力ですら一度も勝ったことがない。あの女は俺に言わせれば、化け物の部類なんだ。それと全く同じ歩き方ということは、息子も合気道と古武術の手練れで俺ですら叶わないだろう。だが鳥飼澪が既に死んでいたと、息子から聞かされた時は流石に言葉がでなかった。あの女は行方をくらましていても絶対に長生きすると、俺は心のどこかで信じていたんだ。ババアになった澪に再会してババアだなと笑ってやると決めていたのに、十一年も前に交通事故で死んでいたと今更知ってしまった。
儚い花のようにアッサリと散っていたなんて、勝ち逃げだろ?澪。
そんなことを思うほどだ。それは兎も角、今俺が聞き取っている足音は、それとは違う人間。ちゃんと耳で聞き取れる足音だが進藤隆平と同じ歩き方ということは、進藤と同じものを同じように身に付けている。だけど同じ武術や格闘技でも個人の癖は必ず出るんだ、それがコピーしたみたいに同じということは進藤から教えられ、進藤を目で見てコピーのように身につけた。
三浦和希………。
隣の了は勘がいいから直ぐに俺の顔色に気がついたが、理由までは分からないでいる。距離はあっという間に縮まっていき、恐らくほんの数メートルしか三浦と離れていないのに俺は冷や汗が滲むのを感じた。
どうする?……何とかするにも、了がいる。向こうに了の事を気づかれるのはまずい。
どんなに勘が鋭くて頭がよくても、了自身は産まれてこのかた何も格闘技の類いは身に付けていない。しかも合気道をやっている友人に酔って投げられて、肋を折ったことがあるくらいだ。
「希和さん!」
何だと?!俺の顔が更に強張ったのは、全く別な方向から懐かしい名前を若い声が呼んだからだ。しかも俺の自殺した妻・希和の名前に、近づいていた三浦和希が賑やかに女の声であらと声をあげる。青ざめ冷や汗をかいている俺と心配して俺を見上げる了の真横を、カツカツとヒールの音をさせて女の姿をしているらしい三浦が通りすぎていく。
「今日はどうしたの?早いのね。」
「いやぁ、希和さんに会いたくて。」
三浦に声をかけた声は、かなり若い男だ。大学生か?どう聞いても既に何度か、顔を会わせているような会話で二人は並んで歩き出したようだ。了は何気なく二人を見た風だが、改めて俺に心配そうに大丈夫か?と問いかける。
「了、今横を通りすぎた女、見たか?」
「あ?大学生位の黒髪の?」
俺には見えないが、何気なくだが了は一応見ていた風だ。大人し目のフェミニンな格好と答えたが、しかもあの声では以前カラオケボックスでヘッドホン越しの喘ぎ声と同一人物とは了にも思えないだろう。男の方はと聞くと高校生じゃないかななんてことをいう。
「何でだ?」
「ここいらで良く見かける制服着てたし。この時間にフラフラってことはサボりかな?」
四月半ば過ぎの午前中の駅前、確かに制服姿で彷徨くには早すぎる。既に足音の判別どころか、歩み去った二人は連れだって遠くの角を曲がったという。即座に喜一に情報は提供したが、流石に情報が俺の聞き分けた足音だけでは一課までは動かしようがない。一応明日にでも都立第三の土志田にも連絡をとろうと考えていたが、結局それは一歩遅かった。
※※※
その日の夜中に喜一から都立第三高校の三年の男子生徒が、路地裏で陰茎を切り落とされて首を切りつけられて発見されたという連絡が入った。残念ながら現場を撮すような位置の監視カメラはない、薄暗がりの裏路地の奥がいち早く発見できたのは母親が息子が変な事になっていると通報したからだ。
その息子はここ暫く素行が悪く、一昨日から制服のまま家出していたらしい。何度も母親は電話していたが、ヘラヘラと笑ってマトモに返事もしなかったのだという。そんな息子に母親は、我が子は本気で薬でもやってるんじゃないかと心配していた。そうして夜になってもやはり家に戻らない息子に、苛立ちながら電話をしていた最中の事だったらしい。
「変な電話で、途中に溺れるみたいな音がして!」
息子のスマホの電源は落とされていたが、最後の通話のお陰で男子生徒のいた場所の大体の範囲を絞れた。だけど警察が現場に辿り着いた時には、既に血溜まりに意識のない制服姿の高校生が壁に凭れて座り込んでいただけ。溺れたように聞こえたのは喉から血が溢れた音で、その傷はかなり深く虫の息だったが、足や腕を切り落として腹を切り裂かれなかったのは幸運だった。どうやら三浦にも路地裏では時間が足りなかったのだろう。
直ぐに救急車で運ばれたというが、何とか命は助かっても残る傷はかなり大きい。かなり上手くすれば俺と同じような体だろうが、恐らくはそこまでの幸運とは言えないだろうというのが喜一の見立てだ。
その話を聞いて思わずベットの上で溜め息をつき頭を抱えた俺に、隣にいた了が寝ぼけ眼を擦って見上げたのが分かる。
土志田にも連絡をしておけばよかった……。
少なくとも自分のとこの生徒の事だから、少なくとも生徒が彷徨く場所は算段がついたに違いない。数日前から家出をしていたという情報が学校に入っていたら違ったろうが、親の方ではここ数ヵ月素行が急に悪くなって家出を何度も繰り返していたから学校には報告もしなかったという。
全部が裏目に出て、また被害者か……。
いい加減なんとかして三浦を捕まえ犯行を止めないと、三浦はたかが都市伝説どころじゃなくブギーマンかジャック・ザ・リッパーになりつつある。頭を抱えたままの俺を了が心配そうに見上げて手を伸ばしてくるのに、俺は苦い後悔の味を感じながら了の体を抱き締めていた。
※※※
「ここの店、どうなったんですか?」
低いハスキーな声に振り返った結城晴は、その青年に首を傾げる。花街から路地を一本入って人通りのないここに、自分と同じくらいの年頃の黒髪の青年が晴を見て立っている。背は晴と同じ百七十ちょっと、体型は自分よりはかなり華奢だ。短髪にカットされた黒髪は適度に流している風で、顔立ちは中性的というのが丁度いいかもしれない。眼鏡をかけているが、度入りのようではないからお洒落ということこか。服自体はそれほど際立っているわけではないが、自己流に安価なものもお洒落に着こなしている。ほとんど同じ歳くらいに見えるけど、実は大学生くらいかもしれないと思うのは少し頼りなさそうに見えるからか。
晴が今手をかけようとしている扉には、一応《t.corporation》という銀のプレートがドアに嵌めこまれていた。
「ここが前なんだったか知らないけど、今はうちの機械倉庫だよ?」
もしここで聞かれた時にはそう答えるようにと、社長の外崎からはきつく言われている。答えにくかったら社長に聞きますを通せとも。
何しろこの中の機械ってやつは『耳』って便宜上呼んでいるが、盗聴の端末の中継機器の山なのだ。
晴が唐突に雇えと外崎宅に乗り込み直談判した後、仕事は何をやってるのかを聞いて晴は正直ムクムクと好奇心が沸き上がるのを感じた。何しろ自分が生きてきた世界は、普通一辺倒で当然のように大学を出て就職して、他のやつらと同じくこのまま結婚して枯れていくのだと思ってきたのだ。ところが職場の先輩だった成田了……今では外崎了だが、彼に出会ってから晴の人生は悉く変わった。
要はスリルとサスペンスだよな、うん。
非日常の世界に突然投げ込まれて、晴が感じたのは恐怖ではなく強くて揺るがない好奇心。漫画やドラマのように社会の裏側を覗いて、探偵とかスパイとか?そんな活躍が晴の日常になるんだ。それを聞いて了は晴を危なっかしい性格だと言う。でも社長だって似たようなものだし、何だかんだと社長も了も面倒見がいい。お陰で前の会社員時代より余裕の高給取りで、しかも仕事は楽しいし了が手料理をちょくちょく振る舞ってくれもする。おまけに書類関係は在宅ワークも可なんて、世の中の会社員に申し訳なくなる厚待遇だ。そんなわけで今日は端末の調子が悪くて設定がどうなってるか見てくると社長に言ってここにいるわけだが、唐突に見たこともない青年に背後から声をかけられ不思議に思いながら返答したのである。
「そうなんですか……倉庫になってどれくらい?」
「悪い、俺最近勤め始めたから、全然そういうの知らないんだよね。あ、社長に聞いてやろうか?電話で。」
そういうと青年は人懐っこい笑顔で出来ればと小さく呟く。それにしてもこんな裏路地で店舗なんて、なんだったんだろうか。もしかしたらラーメン屋とか飲食店とか?倉庫の中には一応休憩スペースもあって、簡易キッチンがある。客も来ない倉庫なのに、キッチンなんて不要だろ?つまりは倉庫に改装前に、水回りスペースは設置出来ていたんだと思う。換気扇なんかも結構しっかりしてるし。
若そうだけど昔食べた味が忘れられないとか?晴自身はここいら近辺の産まれでもなければ、育ちも違うからここいらの事にはそれほど詳しくない。大学卒業と同時に就職のために、ここに住み始めた人間だから何年も前の事は何一つ知らないのだ。暢気に笑いながら電話をかける晴に、青年はすみませんと丁寧に頭を下げる。
「いいよ、気にしないでよ。俺もここいらの事そんなに詳しくないからさー。」
『……なんだ?』
「あ、しゃちょー?」
そういう間延びした呼び方すんなと呆れ声で言われてハイハイと適当に返事をしながら、その青年の問いかけをそのまま口にする。この倉庫の前ってなんの店だったの?いつから倉庫になったの?と。そんな問いかけに電話口は、何故か急に訝しげに声を潜めた。
『何で、そんなこと知りたい?』
「えーっとー、倉庫の前で声かけられてさ、ここの店どうなったか知ってるって聞かれてさー。社長なら知ってるかな~って。」
『倉庫の前で?どんな奴だ?』
「えっとね、俺とおんなじくらいかな。」
ねっと言いながら晴が振り返ると、今までそこにいた筈の青年の姿は何処にもない。あれ?と思いながら辺りを見渡すが、視界には裏路地の何処にも先程までの青年の姿は煙のように忽然と消え去ってしまっている。そこには晴だけしかいない、人気のない路地が広がっているだけだ。
「あれ?おっかしぃなぁ。」
電話の向こうで訝しげな気配を強める宏太をよそに、そう晴は辺りを眺めながら呟いていた。
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