Vanishing Twins 

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50.鳥飼信哉

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少しだけ気まずい気持ちになりながら、カナタは自分の手を握り歩く直人の横顔を見つめる。大人びたその横顔に疼くような胸の中を感じながら、これからずっとこうしているのは自分なのだと心の中で呟く。

遥にもかおるにも、渡さないって決めたのよ。

自分の心にそう呟くのに、カナタの不安は消える気配もない。脳裏で、かおるのように話し笑う遥の存在を思うと気が重い。それが手から直人に伝わってしまいそうな気がして、カナタは視線を繋がれた手に落とした。不意に手を繋ぐ直人が何かに気がついたように足を止め、カナタもつられて歩くのを止める。

「……鳥飼先生?」
「菊池さん!?良かった、やっぱり一緒だったのか。」

カナタはその姿に自分が、微かな不快感を感じたのが分かる。実際には彼自身の人柄が不快なわけではなく、彼が無意識なのか相手の持つ心の内を見透かすような視線で自分を見るのが苦手なのだ。後ろ暗いことがあるのだろうと見透かされるようで、カナタは不安にさせるから彼に出会いたくなかった。しかし、予想と違い2人の姿に心底の安堵した息を漏らした青年の姿に、カナタは直人を見上げ不思議そうに彼の様子を見つめる。

「どうしたんですか?鳥飼先生。」

不審げに眉を潜める直人とカナタに、手近なコートを羽織って咄嗟に出たという風な信哉が歩み寄り忠志から聞いた状況を説明する。最初唖然とした風で話を聞いていた2人の顔が、次第に青ざめ強ばっていく。

「犯人もいたんですか?家の中に。忠志君に怪我は?」
「あいつはそう簡単に怪我するたまじゃないからいいが、部屋は酷そうだ。犯人らしき奴はいなかったらしいけど、瀬戸さん、心当たり……。」

あるのかと聞こうとした信哉が困惑に黙りこむのを見て、カナタは直人の手を強く握りしめながら上目使いに信哉を見上げた。

「私には心当たりは無いです。でも、遥にはあるって言いたいんでしょう?」

ここまできて上手く聞き出そうとしても無駄なことは理解できた。相手は自分が遥とは違うことに気がついていることくらい見ていれば分かることだとカナタは心の中で呟く。信じるかどうかは別としても、少なくとも遥とカナタの名前の差の程度の違いは理解していると想うしかなかった。

「カナタ……。」
「いいのよ、直人。この人もう気がついてるんでしょ?以前に遥と話してて、私と話して矛盾してるの気がつかれたら仕方がないわ。遥の心当たりって何なんですか?」

カナタはぶっきらぼうに見える口調で信哉に詰め寄るが、信哉は直ぐには口を開くきがないのか神妙な顔でカナタを見下ろした。

「遥さんはどうしてるんだ?」

予想外の問いかけにカナタは不満げに彼を睨む。相手がカナタには直接話す気がないのが、今の質問でハッキリしたのが分かったからだ。その視線に気がついた信哉は初めて困惑に瞳を曇らせ、カナタは訝しげにそれを見つめた。思っていたのと違う反応に、彼がカナタに話さないのはカナタをどうこう思っての事ではないことに気がついた。

「今、遥は眠ってるわ。傷ついて深く眠ってるの。」

本当の理由全てではないが、そう告げると信哉は納得したように溜め息をつく。その納得した仕草が逆にカナタに、遥が深く眠りにつくほど傷つけられる出来事にあることを目の前の青年に知られているのだと気づかされた。

何があったって言うの?遥に

微かに心の奥がざわめくのを感じて、カナタは一瞬遥に何があったのか問いかけたい思いにかられる。しかし、思い直したカナタは、その胸のざわめきを押さえ込む。

「一先ず、家に戻ろう。忠志君が警察は呼んでくれたみたいだけど、君が無事なことは伝えないと。」

手を硬く握った直人の言葉にカナタは視線を向け、硬い表情で頷く。横で忠志にカナタが見つかったことを連絡する信哉を見上げながら、カナタは不安がにじり寄るのを感じていた。先程まで直人と楽しく食事をしていたのが夢だったかのような気がして、カナタは目を伏せ唇を噛んだ。

「大丈夫?カナタ。」
「遥が心当たりがあるなら、かおるも関係してるわよね?直人の事刺した奴の可能性もあるかしら?」

その言葉に直人の顔色が、サッと青ざめるのが分かった。しかし、態々家に忍び込んで荒らす必要性がカナタは想像もつかないと告げると、直人も困惑したようにカナタの顔を見つめる。

「忠志が不動産にも連絡とってマンションの下で待ってる。部屋は残念だけど現場検証で今夜は入れなさそうだって言ってる。」

その言葉に3人で連れだって歩き始め、電話越しに部屋の状況を聞くほどカナタの顔色が青ざめていく。

「大丈夫か?この話しは止めておくか?」
「いいえ、大丈夫。鍵ごとドアは壊されたっていうことですね。」

信哉の心配にカナタは首をふり答えながら、直人の手を震える手で強く握る。外気の寒さよりも自分の背筋が凍りつき、思うより自分が怯えているのが感じられる。それが伝わるのか体内はシンと静まり、息を呑んでこちらを伺っているような気がした。
マンションに近づくにつれ喧騒が感じられて、カナタの怯えが更に深くなる。遠くから自分と直人が昼まで2人で過ごした部屋が何人もの動き回る人で埋まっているのが見えた。何台かのパトカーと見慣れた不動産の名前の貼り付けられた車。その間に見慣れた金色の頭が見え、横の信哉が名前を呼ぶのを聞く。名前を呼ばれ振り返った忠志が、明らかにカナタの顔をみてホッと安堵するのが分かった。

「2人とも無事で良かった。流石信哉、やっぱし臭い嗅いだの?」
「お前なぁ。」

怒気に満ちた声に冗談と笑いながら、忠志がカナタに歩みより全身を眺めもう一度安堵する。それに先程まで忠志と話していた警察官と不動産の社員が足を向けた。いくつも矢継ぎ早に質問をされるが、カナタとしてはなにも知らないとしか答えられなかった。
忠志は一度暴漢に襲われそうになった遥を助けた事があると3人が来る前に警察に話していた。それについて問いかけられたが、カナタは怯えた表情で怖くて何も覚えていないとだけ話した。

あなたが隠そうとしてたのは、その事なのね。

そう目で信哉に問いかけると、仕方がないと言う風に彼は目を伏せ同意を示した。どこまで真実なのかは判断できないが、カナタはその話に黙ったまま耳を傾ける。直人は初めて聞く暴漢の話しに暫し呆然としたが、忠志が三浦和希の人相を説明するにつれ表情を硬くしていた。話が進むにつれ近い期間で襲われた直人の存在が、違う意味で取り上げられ始めていた。直人を襲ったのも恐らく和希だと言うことがハッキリすると、遥が知らぬ場で誰かに狙われていたのではと警察でも考え始めた様子だと分かる。

「一先ず、一人にはならないようにしてください。後今夜は部屋に入るのは…足跡が中にありましたから後…。」

説明を呆然としながら頷くカナタを心配そうに忠志と信哉は見つめる。

「俺、和希の事話さない方が良かった?」

不安げに聞こえる小さい声で信哉に尋ねる忠志の声に、横にいた信哉は普段とは違い困惑して泣き出しそうにも見える顔を見下ろしポンと頭を撫でる。こちらが話さないでいられれば良かったのだろうが、こう事が大きくなりすぎて隠していれば逆に後で当人達が面倒なことになっただろう。そう伝えてやろうかとも考えたが、忠志の同級生らしい存在の事に思いが至り口をつぐむ。自分もそうだが、忠志も自分自身と関わりを持つ者が極端に少ないのを知っている。それを自分で告発するのは、やはり気が滅入ることだ。信哉はそう考えながら直人とカナタの姿を眺める。

瀬戸遥があの中でどうしてるか分からないが、あの子がこれから生活していくには問題を解決しないと。

全て鵜呑みに信じきるわけではないが、信哉が初めに出会った瀬戸遥と今見ている彼女は顔は同じでも確かに別人の印象しかない。おっとりした天然風の印象を受けた瀬戸遥が、予期せぬ事件で傷つけられ打ちのめされたのは確かだろう。でも忠志の見た限りでは、触られ滅茶苦茶にされはしていたが、犯される寸前だったのではとも言っていた。

それと、部屋を荒らしたのも何か関係があるのかも知れないしな。

ふうと溜め息をつきながら信哉は、今夜この2人を自宅に泊めるしかないかと算段している自分に苦笑を浮かべる。結果として警察の話を聞いた2人が、信哉達に足を向けて状況を説明し、遥の実家ではなく直人の家に行くと話したのに我にかえった。

「どうしたんですか?鳥飼先生。」
「いや、何でもないです。気にしないで。」

当然の方向性を聞いて思わず信哉が顔を片手で覆ったのに、2人が眉を潜め訝しげに顔を見合わせる。その反面、忠志は気がついたようにニヤニヤと信哉の顔を覗きこんだ。

「信哉、今晩2人を家に泊める気だったんだ?でしょ?やーさしいなぁ。すっごい心配したんだもんね?ね?」
「うるさいっ!」
「すみません、心配していただいて。」
「いや、こっちが勝手に勘違いしただけですから。一先ず菊池さんの家だと駅ですか?少しでも多い人数で移動した方がいいですよね。」

4人で連れだって歩き始めるが、カナタの顔色の悪さに忠志が心配そうに覗きこむ。

「大丈夫か?流石に怖いもんな、他人に家に入られたら。」

心細げな笑顔を浮かべるカナタに、気遣うようにそれぞれが見つめる。街を彩っていたネオンが微かに減り始め、夜の帳が深くなる気配を感じて不安が更に深まるのをカナタは感じた。

「やっぱり信哉のとこ泊まったら?人数多い方が今は安心だろ?信哉のマンション広いし、なんかで呼び出されても近いしさ。」

勝手なことを言うなと怒るかと思いきや、同じくらい心配もしているらしい信哉が珍しくそうしたらどうかと勧める。電車に乗って知らない夜道を歩く不安に思わず視線を上げたカナタの様子に、直人が理解はしても少し躊躇うのが分かった。

「明日には部屋の片付けとかで忙しいと思うから、良かったらそうしたらどうですか?今晩は人が多い方が安心でしょう?」
「そうしよ!よし、コンビによって夜食買おう!」

朗らかな忠志の言葉に、思わず直人とカナタは顔を見合わせ苦笑する。お願いしますと直人が信哉に頭を下げ、和やかな空気で歩き始めた瞬間、不意にその時背後から体当たりされた様にカナタの体が突き飛ばされ、直人の腕の中に背後の人影と一緒に押し付けられる。

一瞬、何が起こったのかカナタにも直人にも、忠志と信哉も状況が把握できなかった。しかし、不意に右の脇腹に弾けた爆発の様な感覚がカナタの意識を包み彼女は驚愕に目を見開く。それは今まで一度も感じた事のない不気味な感覚だった。

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