シンデレラになりたい私の話

毬谷 朝一

文字の大きさ
8 / 35
序章

第8話

しおりを挟む

 

 マリアは本当に真実だけを話しているようだった。


 2人の話は荒唐無稽だったが、理路整然としてとても分かりやすかった。
 要するに、仕事のできない王の代わりに毎日必死で働いていて、私の様子がおかしいことに気づかず、私の報告はどこかで握りつぶされていた可能性があると……、


「……仕方ないことです。私はあなたがたを恨んでなんかいません。謝ることはなにひとつありません。」


  マリアの薄紅色の目をしっかりと見つめながらそう言うと、マリアとソレイユは感極まったように目を潤ませた。


「ッ……ごめんなさい、まだ小さいあなたに気を使わせてしまって……これからは王宮に移って私達と共に暮らすことになります。」


 ソレイユは私の手をぎゅっと握りしめて言った。


「王宮も絶対に安全とは言えない。心無いことを言ってくる輩も、……体を傷つけようとしてくる輩もたくさんいるだろう。絶対とは約束できない。ただ、私達は全力で君を守ります。それだけは約束します。」



 絶対に守る と言わず、全力で守る と言うソレイユは、とても誠実で優しい人だと感じた。



 この人達なら、信じてもいいのかもしれない。



 私は、ふと疑問に思ったことをマリアに尋ねた。

「…一つ、聞きたいのですが…現王はそんなに仕事が出来ないのですか?」


 恐らく目の前に座るソレイユは12歳ごろだろう。5年前は7歳ということになる。
 そんな年頃の子をいくら天才といえど、フル稼働させて働かせないといけない程に現場は混乱していたのだろうか。


 マリアはため息をつくと、額に手を当て苦々しい顔でいった。


「…歴史に残るほどの愚図です。やる気は人一倍無い怠け者のくせに、人を貶めたり甚振ることには全力を尽くす。自分の欲望のまま動くような奴です、あれは。」


 ひくひくと口の端を引き攣らせながらマリアは怒りを抑えきれないようで言葉を続ける。


「あれは学生時代、幼い頃からの婚約者がいたにも関わらず、当時伯爵令嬢だった私を正妃にしようとしてきた程の外道です。力の弱い伯爵家が王家に逆らえるはずもありませんでした、ええ。ソフィア様には随分と可愛がっていただいたのに、恩を仇で返す様なことをしてしまって……」


「当時は大混乱でした。許可されるはずがな いと思っていましたが、……先王陛下は現王ナルシサスに大変甘く…そんな荒唐無稽な話が通ってしまったのです。しかし、ソフィア様はすでに王家が無視できないほどの才覚をお持ちでした。ですから、ソフィア様とも継続して婚約を続けておられ……。本当に阿呆かと…」


 あれから休む暇なんてありませんでした、特にソフィア様がお亡くなりになられてからは、と遠い目をして言ったマリアからは、ひどく哀愁が漂っていた。


「……さて、他になにか聞きたいことはありますか?ないのなら私からも質問があります。」


 ない、と首を振るとマリアは私の目をじっと見て言った。


「……あなたは、祝福のことについてどのくらい知っていますか」


「…あまり、よく知りません。人から聞いた話では、たまに持って産まれる人がいて、呪文によって発動するとか。あと、使うと副作用があらわれるとか。」


 私が知っている数少ない祝福についての情報を答えると、マリアとソレイユは出来の悪い子を見つけたように顔を見合わせた。


 ソレイユは私の前に手を差し出すと、無言で手のひらを上に向けて集中し始めた。
 何だか周りが少し冷たくなった気がして辺りを見回すと、ソレイユが「こっち」とうっすら笑って言った。


 ソレイユの手のひらをよく見ると、その数センチほど上に水の渦が出来ている。
 驚いて顔を上げると、いたずらっぽく笑うソレイユと目が合った。


 ソレイユがパッと手を振ると、そこにあったはずの水は跡形もなく消え去った。


「祝福が呪文で発動するのは知ってるかな。ただね、本当は呪文がなくても発動はできる。こんなふうに少しだけならね。だから祝福に慣れていない子供は無詠唱で発動することがあるんだ。ただ、呪文があって初めて祝福は本来の力を発揮する。私の〝水簾〟だと、洪水のような水を起こしたりできる。君の〝緑の癒し〟なら、植物を急激に成長させるだけでなく、枯れさせたり力を強めたりもできる。」


 あれ、今なんて。



「……どうして私の祝福を……」



 つぶやくようにそう言うと、ソレイユはきまり悪そうに頭をかいた。


「君が寝てる間、無意識なのか知らないけど、力を使ったところを見てしまったんだ。ほら、そこに。」


 ソレイユが指をさす方には、立派に花を咲かせる木の枝があった。


「そう、だから力の使い方を誤らないように教えておこうと思って。」


 そう言うと、ソレイユは優しく微笑んで自分の胸に手を当てた。


「〈声〉を聞くんだ。耳を澄ませると、それは祝福を教えてくれる。」


 私は目を瞑って、静かに心を落ち着かせた。



 静かに……耳を澄ませて……



 そうすると、どこからか何かの〈声〉が聞こえてくる。それは音の洪水のような、唄のような不思議なもので、たくさんの音が混じりあっているような気もしたが、それがとても心地よかった。



 《 大地は唄い 空は叫び 風は奏で 海は嘆く その光は血潮なり 生命は共鳴せり 我と共にあり 》



 ぼんやりした音の波がだんだんと輪郭を作っていくがわかる。不思議と私の口は勝手に開いていて、その唇は呪文を紡いでいる。



『大地は唄い 空は叫び 風は奏で 海は嘆く その光は血潮なり 生命は共鳴せり 我と共にあり』



 呪文を声に乗せると、窓の外の木々はざわざわと揺らめき、そばにあった木の枝はぱあっと光り輝いた。

 木の枝は成長しなかったが、その枝についた実や花、葉はみずみずしく色づいていた。
 不思議と酩酊しているようになり、心地よい倦怠感に包まれた私は、光る木の枝をぼんやりと眺めた。



「祝福は魂に刻まれている。自分がわからなくなったら、祝福に尋ねるといい。……今日はもう疲れたろう、ゆっくりおやすみ。」


 そう言うと、ソレイユとマリアは立ち上がり、部屋から出て行こうと足を踏み出した。
 私は咄嗟にソレイユの服の裾を掴んでしまった。


 何をしているんだ……これではまるで引き止めているみたいではないか……!!


 恥ずかしくなって俯いてしまった私に苦笑すると、ソレイユとマリアは私の頭をゆっくりと撫でた。


「……できれば僕のことは、兄上と呼んで欲しいが、いかがかな」


「あら、ずるいわ。なら、私のこともお母様と呼んで欲しいわ。ソフィア様の代わりにはならないけれど、私だってあなたと仲良くなりたいのよ。」


 砕けた口調で私に笑いかける2人はとても優しい声をしていて、とてもこそばゆかった。
 2人はそのまま仕事へ行ってしまったが、私は幸せな気持ちのまま眠りについた。


 夢も見ないほどぐっすりと眠る私のそばには、未だキラキラと光る木の枝が飾られていた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

転生後はゆっくりと

衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。 日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。 そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。 でも、リリは悲観しない。 前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。 目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。 全25話(予定)

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

処理中です...