シンデレラになりたい私の話

毬谷 朝一

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序章

第13話

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「わあ……」


私は紺色のローブで顔を隠すようにしながら、隙間から街を覗いた。


大きな噴水のある広場を囲むようにたくさんの店が立ち並び、たくさんの人で賑わっている。


明るい色で溢れる街は私の目にとても眩しく映り、その喧騒すらも心地良い。


私はきょろきょろと道中の店の品物を見ながら、冒険者ギルドへ向かった。




その冒険者ギルドは、国で1番の歴史を誇る総本部である。実際に見てみると、何というか……威厳がある。


私は古めかしい建物を見て深呼吸をすると、ドアを開けて中へ入った。


中を見渡すと、冒険者らしい人は皆一様に首から大きめのドッグタグのようなものを下げている。


私はそれを横目に、受付の方へ向かった。


受付カウンターは、私には高くて背が届かない。
私は背伸びをして、カウンターにつかまると、受付に座る薄い青色の髪をしたキレイな女性に声をかけた。


「あの……冒険者になりたいのですが。」


お姉さんはニコリと笑うと、私に一枚の紙と手のひらサイズの水晶玉のようなものを差し出した。


「はーい、ではこの質問事項と案内を読んで、チェックとサインをお願いします!……できましたか?じゃあここに指を置いて、そうですそうです、ちょっとチクッとしますからね!……はい、出来上がり!今日からあなたも冒険者です、よろしくお願いしますね!私はマリンと言います。分からないことがあったらなんでも聞いてくださいね!」


水晶玉に指を置くと、針で刺されたのか指から血が滲む。その血は水晶玉に吸い込まれ、表面が一瞬キラリと光った。


マリンは私に銀色に光る冒険者カードを首からかけた。触れると冷たい金属のような感触が指に伝わる。


「あっちに依頼書が貼られているでしょう?基本的にどの仕事も受けていい決まりですが、失敗が続くと信用が下がりギルドから何らかのペナルティが下されますので気をつけてください。高い難易度にチャレンジしても結構ですよ!街の外にはうようよ魔物がいますからね!ただ、どんな仕事も自己責任でお願いします!決まったら剥がして受付に持ってきてください、では!」


私は依頼書が貼られている壁に向かうと、ひとつずつ見ていった。


薬草つみ、兎狩り、アンデッドの駆除……
あ、街のお店の手伝いなんかもあるのか


めぼしい依頼書は既に剥ぎ取られていて、残ったのは地味な依頼しかないらしい。次はもっと早く来なくては。


私は薬屋からの薬草依頼と森の魔物狩りの依頼を壁から取ると、受付へ向かった。


薬草は手元にあったので、私は受付で紙と一緒に薬草も渡した。


マリンは少し驚いたような顔をしたが、笑ってOKです!と言ってドッグタグに水晶玉と依頼書をかざした。


水晶玉とドッグタグは一瞬光を放ったが、すぐに何事も無かったかのように消えてしまった。


「はい、OKです!薬草はこちらで渡しておきますね!では、魔物狩りにいってらっしゃい!……あ、ギルドでは買い取りも行っているので、魔物以外も狩ってきてOKですよ!もちろん魔物も買い取ります!」


マリンにお礼を言ってドッグタグを首から下げる。さあ、ここから始まるんだ。


私はうきうきとしながら森へ向かった。





私はうーんと伸びをしながら辺りを見回すと、近くの魔物を全て狩りとったことを確認して奥へ進んだ。


奥といっても麓からそう離れていない、のんびりした風景の場所だ。


私は森に着いてから、手頃な魔物をどんどん狩っていった。情報は全て冒険者カードに記録されるので、気にせず冒険を進めていいらしい。


私はついでに森に生息している薬草をつんで、ポケットに詰め込んだ。


ここはたくさんの植物が生えている。王宮の庭にもたくさんの植物が植えられていたが、やはり野生のものは心が踊る。

たくさんの植物を見ながら、私はくすりと笑みをこぼした。
いい気分になってふんふんと鼻歌を歌いながら、私は魔物を狩って奥へと進んでいった。



だいぶ奥まで来てしまったな……調子に乗って狩りすぎたかもしれない。


私は周りに誰もいないことを確認すると、すっかり血に塗れたローブを脱いだ。


ローブを木にかけると、手のひらに魔力を集めて呪文を唱える。



〔 望むは清き水 清廉なる水 星神の涙を ひと時借り給う 〕



私はローブに水をかけて、シャボン玉のような泡の出る草を擦り付けて血を綺麗に落とした。


心地良い風を肌に感じて、私はもう一度呪文を唱える。



〔 風よ 木々を揺らすその腕を瞬きのあいだお貸しください 〕



ひらり、とすっかり乾いたローブが風に揺らめくと、辺りに石けんのような香りが漂う。


「綺麗になった。今日の戦果は上々だね。」


私はご機嫌で麓へ戻ろうとする。



「……ッ!!」


私は、後ろから音もせず近寄ってきたらしい熊の鋭い爪を間一髪で避けた。いや、避けきれなくて髪が数本居場所を失い、宙に舞った。


私は後ろを振り向き、大きな熊を正面から見すえた。


馬鹿だ馬鹿だ、すぐに逃げればいいものを。
それに今日の私は体調が優れないのを忘れたか?


私は心の中で1人自嘲すると、熊の方へ剣を向けた。


私の4倍はあるであろう大熊だ。せっかく綺麗にしたローブがまた汚れてしまう。


祝福を使って熊の体を絡め取ることも考えたが、やはり腕試しには真っ向勝負が一番だろう!


私と熊は同時に走り出し、お互いの首をめがけて剣と爪を放った。




「……ふう」


ちょっと汚れてしまったけど、まあいいだろう。私は頬にかかった血を手の甲で拭うと、熊の死体へ冒険者カードを近づける。死体はすっと消え、辺りには飛び散った血だけが残った。


熊には相当の傷をつけられたが、命さえあればいい。


私はすっかり悪化した具合の悪さを笑いながら、冒険者ギルドへ帰っていった。




冒険者ギルドに戻ると、マリンに冒険者カードを渡す。


マリンは私の倒した魔物の数と大熊の記録を見ると、驚いたように私の顔を見た。


「私の受け付けたあなたは6歳だったはずなのですが……すごいですね!感動しちゃいました!ええ、将来が楽しみです!あぁ、全部買取りますから少し待っていてくださいね!」


マリンはそう言うとるんるんと職員がいるバックヤードへ入っていった。


私はそれを見送ると、カウンターの端に体をもたれさせた。


いやに気分が悪い。吐き気と目眩、心臓をしばりつけるような感覚、それにまとわりつくような倦怠感。
私は得体の知れない恐怖と不安に体を苛まれながら、マリンが戻ってくるのを待った。


ああ、こんな気持ちになるのは久しぶりだ。


ついに息をするのも難しくなり、壁の隅に縮こまるようにしてもたれていると、私の体を誰かの影が覆う。


「……おい、大丈夫か」


霞んでよく見えない視界が声をかけた男の顔を捉える前に、私の体は横にぐらりと傾いていった。


「っおい、しっかりしろ!おい!」


床に倒れそうになった私の体を支えた男性は、私に声をかけながら体を揺する。


暗く霞んだ視界は赤い色を捉えると、私の意識はそこで途切れた。



────────────────────


「……くそっ、意識飛ばしやがった。おい、レディ!病人だ!」


赤髪の男は顔を歪ませると、大声で誰かを呼ぶ。ピンク色のカチューシャをした白髪の幼い少女はその声に体を飛びあがらせると、奥のテーブルからとてとてと走ってきた。少女の隣には、緑の髪に金と銀のメッシュを散りばめたピエロのような青年が寄り添っている。


少女は赤髪の男性が支える子供の様子を見ると、驚いたようにその薄桃色の目を開いた。


「…この人、すごく危ない。身体中が毒でいっぱい。……植物毒、かな……傷も綺麗じゃない……」


赤髪の男は顔を歪ませると、少女の耳に顔を寄せて小声で話しかけた。


「祝福でどうにかなるか?」


少女は一瞬顔を曇らせたが、すぐにきりと顔を引きしめ、うん、と頷いた。


その様子を見ていたピエロのような男は、赤色の口紅を塗った口をにこやかに緩ませ、2人にいった。


「その前に、場所を移動しようか。ここじゃどうにも目立ってしまう。おい、マリン!入るぞ!」


ピエロのような男はバックヤードのドアをバタンと開けると、赤髪の男に入るよう促した。赤髪の男は腕の中の少年を見て琥珀色の瞳を心配そうにゆらめかせると、騒ぎに目を向けはじめた冒険者から隠すように中へ入った。


バックヤードに入ってきた男達を見てぎょっとしたマリンは、慌てて注意しようと椅子から立ち上がったが、その腕の中にいる少年の様子を見て、奥のベッドへ案内した。


男はそこに少年を寝かせると、紺色のローブを脱がせた。ローブを脱いであらわにになったその美しい顔に一同は目を見張ると、この子は少女だったかと思い始めた。


「レディちゃん、治る?」


マリンは少女にむかって心配そうに尋ねる。


レディと呼ばれた白髪の少女は、深呼吸をひとつ着くと慎重に口を開く。


すると、その重々しい雰囲気を壊すようにバックヤードのドアが開けられ、金髪で片目を隠した男女と、長身と濃い青の長髪が目を引く男が賑やかに入ってきた。


艶やかな金髪で左目を隠した男は、その青い目を楽しそうに光らせながら言う。


「やっぱり心配だから来ちゃった!」


艶やかな金髪で右目を隠した女は、隣の男とよく似た顔を心配そうに歪ませて言った。


「その子、すごく苦しそうね。ごめんなさい、祝福の邪魔しちゃったかな。」


長身の男は、その濃い青色の髪を後ろにかき上げると松葉色の瞳を閉じて黙っていた。


彼らの登場に呪文を邪魔された少女は、気を取り直すように深呼吸をして、苦しそうに顔を歪める黒髪の子供に向かった。



『 白き翼に光は灯り 雫は夜の月に零れる
うたえ うたえ 囁きの守歌 』



苦しそうに呻くベッドに横たわる黒髪の子供は、少女が祝福を唱えると体が白い光に包まれた。


その光は体を覆うように徐々に光を増し、そして染み込むように薄くなっていった。


少女はほっとしたように息を吐くと、黒髪の子供を見つめた。いつのまにか、苦しそうな呻き声は穏やかな寝息に変わっていた。


「……終わったか」


長身の男は松葉色の目を開くと、詰めていた息をそっと吐き出した。


部屋の中の人々は一様にほっとした表情で、ベッドの周りを囲んだ。


「……これで多分大丈夫だと思うけど……根本的な解決にはなってないと思うの。」


少女はそう不安げに言うと、赤髪の男を見上げた。


赤髪の男は、ふう、とため息をついて黒髪の少年を見た。


「とにもかくにも、こいつが目を覚ましてからだな。」


金髪の双子は、ベッドの両端に手をかけて少年の顔をじっと見つめる。


「……女の子だと思う?ヘヴン。」


「いやいや、男じゃない?ヘル。……まあどっちでもいいなぁ、こんなに綺麗だと」


わいわいと言い合う双子を窘めると、ピエロのような男はマリンへ話しかけた。


「この子、どこの子だい?昨日までいなかったろ。」


マリンはああ、と答える。


「そういえば皆さんいらっしゃらなかったですね。今日の朝、登録に来たんですよ。さっきまで森にいて、ほら!こんなにたくさん!すごいでしょう、そんなに時間経ってないのに。」


はい、ジャックさんとマリンが差し出した記録に目を通すと、ジャックと呼ばれたピエロのような男と赤髪の男は目を見張る。


「こいつ、こんな出来るのか。そこらの冒険者より使えるじゃねえか。……見た目に寄らねえな」


赤髪の男は少年の小さな体を見る。


「……で、アル。この子どうすんだ?」


ジャックは赤髪の男にそう問いかける。


アルと呼ばれた赤髪の男は、うーんと難しい顔をして長髪の男を見る。


「話を聞いてからだな、どっからどう見ても訳アリだろ。ギャリー、お前はどう思う。」


ギャリーと呼ばれた長髪の男は、その長い青色の髪を一本の三つ編みにすると肩に放り投げた。


「俺も賛成だ。掘り出し物な訳だが、今は無理させらんねえだろ。」



「早く目、覚まさないかなぁ。」


「ねー。」



すうすうと寝息を立てる少年の顔を、アル達はじっと見つめていた。


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