シンデレラになりたい私の話

毬谷 朝一

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序章

第16話

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私が昨日入った森はアヴリオ森林と言う中規模の森だったが、今日討伐に行く森はそこから少し行ったところにあるへオース大森林というところらしい。


アル達は私をへオース大森林の入口に連れていくと、簡単に森の内部構造と依頼の説明をする。


「じゃあ、ここからは1人で行ってこい。
もちろん俺らもついて行く。ただし、姿を隠してな。」


性格わるーい、と嫌そうに言うヘルの頭を笑って小突いたアルは、私に森へはいるよう促した。


まあ、危ないときは助けると言っていたし大丈夫だろう。


私は後ろで騒ぐ彼らに手を振ると、森の中へ足を踏み入れた。


へオース大森林のなかは薄く霧が漂っていて、少し薄気味悪く感じる。背の高い木々が日光を遮り、さくさくと歩く私達の足音と木を揺らす風の音のみが私の耳へ入ってくる。まるでこの森だけ世界から切り離されたようで、私は漠然とした不安を覚えながら森を歩いていた。


奥へ、奥へと進むうちに身体に違和感を覚える。身体にまとわりつくような重苦しい霧、獣のような何かに見られているようなねっとりとした視線、そして時折聞こえる唸り声。


いつのまにか、小鳥や小さな動物もいなくなっている。
私はちりちりとした殺気を感じながら、足をとめずに奥へと向かった。足がすくみそうになる自分を叱咤しながら前を向く。この程度、何の障害にもならない。
鬼がいる場所へはもうすぐだ。



────────────────────


「…あの殺気でも足をとめないか。」


木の上に潜んでいるアルは、前方を進むライラを見て嬉しそうに呟いた。


「いやはや、すごいねえ。まだ小さいのに、どれだけ修羅場をくぐってきたんだか。レディと同じような年頃だろ?やれやれ、最近の若者は末恐ろしいね。」


同じく木に潜んでいるジャックは、アルの言葉にやれやれと苦笑いをして返す。


ヘヴンとヘルは前方数m先の木に、ギャリーとレディは左横数mの先の木の下に位置している。


「……そうこう言っているうちに間に魔物が近くなってきたね。気を引き締めていこうか。」


「気持ち悪い空気が濃くなってきてやがる。
……お、あれだな。」


────────────────────




私は、気づくと開けた場所に来ていた。


薄気味悪い空気や視線が周りを取り囲んでいるのがわかる。私は神経を集中させて、剣を構えた。普通の短剣より少し長い忍刀のような剣を握りしめると、じっとりと手汗で湿っているようだった。


その時、空気が動いた。

右から出てきた赤い鬼が私に向かって突撃してくる。大きな体で、全長2.5mはありそうだ。私は赤い鬼の間合いに思い切って入ると、懐に飛び込んで短剣で腹を切りつけ、その反動を利用してその隣にいる青い鬼を切り付けた。


そのまま鬼達から飛び退いて、距離をとって様子を観察する。
彼らはあれを『鬼』と呼んだが、私には怪物のように見える。よく見ると薄く黒い瘴気のようなもやを纏っていて、その禍々しい様子に思わず眉をひそめた。


周りはすでにうじゃうじゃと魔物に囲まれている。私はゆっくりと魔物を見渡すと、深呼吸をひとつついて魔物の中へ飛び込んでいった。


一体、二体……何体目だ?もう切り捨てた数も覚えていない。足元には魔物の死骸が積み重なっていくものの、後から後から湧き出るように魔物が出てくる。数は確実に減っているが一体一体恐ろしく強く、私の体にもだんだんと傷が増えていく。少しずつ減っていく体力を心配しながら、私は背後をとった魔物の首をごきんと折った。




────────────────────




「ほお…体術と短剣を使うか…なかなか上手いじゃないか。」


ギャリーは面白そうに笑いながらライラの戦闘を見ている。ギャリーの三つ編みをくるくるといじっているレディはその様子を見ると呆れたように言った。


「…皆、戦うことしか考えてないよね……」


ギャリーは心底嫌そうな顔をするとレディを振り返って反論した。


「俺をあんな戦闘馬鹿どもと一緒にするな。元傭兵だからって戦い大好きなわけじゃないぞ。ほら、見てみろ。」


そう言うと、ギャリーは数m先の木の上にいるヘヴンとヘルを指さした。
レディはそれを見るとまたも呆れた顔をした。


「……すっごい楽しそう。戦いたくて…仕方ないって顔してる……怪我をすると痛いのに……」


ギャリーは声を抑えて笑うと、レディの頭をぽんと撫でた。

「あいつらはそうそう怪我をしないから大丈夫だ。してもかすり傷程度だろ?それに、お前は俺がちゃんと守ってやるから安心しろ。」


レディはぷくぅと膨らませた頬をギャリーにつつかれると、その手を払ってライラの方を心配そうにみた。


「……ギャリーが私を守ってくれるのは信じてるよ……ジャックは私の戦い方と合わないから…ペアがギャリーになったのも…わかる……ただ、ライラは怪我が多すぎる…まるで、自分から傷つきに行ってるみたい……」


ギャリーはそれを聞くと、数の少なくなった鬼達を蹴散らすライラの方を眺めた。薄く笑いながら鬼を殴るライラの顔をじっと見つめるとはあ、とため息をついた。


「スタミナはないけど気合いでなんとかしてるタイプだな。剣術、体術、スピード、テクニック、全て素晴らしい。臨機応変に戦えるセンスもある。そこらの騎士や冒険者なんか相手にならないな。強いとは思っていたがここまでとは…それに加えて祝福だろ?末恐ろしい。この鬼退治だって、何体か倒したら出るつもりだったらしぞ、アルは。ただ……なーんか気になるよなぁ。」


レディはそれを黙って聞いていたが、不意にあ、と声を発する。


「あ……終わった、ね……顔に…出ないタイプなのかな…ニコニコしてる…」


ギャリーはよいしょ、と持っていた槍を抱え直すとレディとともにライラの方へ歩いていった。


────────────────────


私はあたりに魔物の気配がないことを確認すると、はあ、と疲れたためいきをついた。


多かった。しかしそれ以上に、自分の実力も上がった気がしている。


私は血の海となった周りを見渡すと、一体ずつギルドカードをかざしていった。


マリンが言うには、この鬼のツノや牙を加工して防具ができるので高く買取って貰えるらしい。


私はまだ防具を買っていないので、この素材を使ってどこかに発注しようと考えていた。


どこからかピピ……と鳥の鳴き声がする。
薄気味悪い霧は晴れ、日光の遮られていた森の中は少し明るさを取り戻している。静かな雰囲気はそのままだが、優しい爽やかな森になっていた。

私はそれに目を細めると、また鬼の死骸を片付け始めた。



ある程度の数が終わると、アル達が近づいてくる気配がした。


私は血で汚れた顔を手の甲でふくと、彼らの方へ駆けていった。
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