魔法使いの国で無能だった少年は、魔物使いとして世界を救う旅に出る

ムーン

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第二十七章 壊されかけた者共と契りを結べ

女子会

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夕食の跡が片付けられ、代わりに市販品の菓子が乱雑に盛られた机。それを囲む達。
ベルゼブブ称する女子会がここに開幕。

『よーしじゃあ女子会始めまーす!  いやー夢だったんですよ。響きが楽しそうでしょ、駄弁ほど楽しいものはあんまりありませんよ!  で、何話せば女子会っぽくなると思います?』

「そこからかよ……よく女子会やるとか言えたな」

クッキーの箱を開けながら、夕食を終えてグロルと交代したアザゼルが呟く。

『女子と呼べる者も居りませんし……もうお開きにしては?』

ヘルが自分を呼ばないかと耳をそばだてるアル。

『ふふっ……せやねぇ。女の子らしい女の子居らんもんなぁ』

ベルゼブブが女だけだと言った空間で堂々とチョコを齧る茨木。

『黙りなさい!  というか鬼、貴方は身も心も男でしょう!』

『嫌やわぁ。どう見ても女の子やろ?』

『見た目はね!』

『せやったら身は女やん』

『立派なもんぶら下げてんなら身は男だろうがよっ!  っと失礼……とにかく、女子心がなければ女子会への参加は認めませんよ!』

ベルゼブブは何度も机を叩く。机に顎を置いていたアルはその振動を嫌って椅子の肘掛けに顎を移した。

「別にどうでもいいじゃん。四人しか居ないのに追い出したら会にならねぇぞ」

『……仕方ありませんね。では話しましょう、えーまずは……女子っぽいの女子っぽいの…………コスメ!  アクセ!  はい話を引き出しなさい!  思考時間は三分、一人ずつ聞きますよ』

「大喜利かよ」

それから三分間、ダイニングには菓子の袋を開ける音と菓子を齧る音だけが響いていた。
きっかり三分後、ベルゼブブは時計回りに話せと言い、最初にアザゼルを指差した。

「俺幼女だから化粧しない、アクセも同様。はい次」

『……別に使ってる話でなくても、こういうの欲しいなって話でもいいですよ?』

「高く売れる物ならなんでもいいぜ」

ベルゼブブはやれやれと両の手のひらを上に向け、茨木に視線をやった。

『白粉と、口紅。睫毛は自前、眉毛は描いとる。爪紅は手も足もやっとるよ。簪や櫛はたまに買って貰ったわぁ』

『女子から最も遠い筋骨隆々系男子が女子っぽいことを……!』

「お前無性のくせになんで女子とか男子とか気にしてんの?」

悪魔や天使は通常性別が存在しない、生殖の必要が無いからだ。アザゼルのように人の身体を持てば肉体的な雌雄は付くが、ベルゼブブの身体は周囲の物質の寄せ集めであって人と同じものではない、つまり彼女だけは完全な無性別なのだ。

『誰に買って貰ったんです?  あの酒飲み鬼とか?』

『まさか!  人間よ人間。飯になってもらう前、屋敷連れて帰る前、適当に店よって着物やら櫛やら買わせてたんよ』

アザゼルは「まさに鬼の所業」と言おうとして、誰も笑わない未来を察知し、クッキーを口に放り込んだ。

『じゃあ次私ですね。化粧はしてません、素で美少女なので。アクセは……そうですね、この髪飾りくらいですか』

ベルゼブブは王冠を模した髪飾りを指差す。

『贈りもんやったりするん?』

『ええ、少し昔の話です──』

髪飾りを外し、その表面に歪んで映る自分を眺め、ベルゼブブはぽつりぽつりと話し出した。
 
『数百世紀前、魔物使いに仕えていた時……人界と魔界の境に結界はなく、天使や創造神の信徒の人間共の奴隷になってた魔物を解放して暫く、ちょっと平和になった時です』

人界の一角に今のように拠点を作り、平和ボケした悪魔達に、日向ぼっこしかやる事がない魔獣共と過ごしていた。

『住んでた街でちょっとしたバザーが開催されたんです。暇を持て余した私は悪魔何人かと連れたって遊びに行ったんです』

予想通り人間の祭りなどつまらなくて、適当に食べ物でも買って帰ろうかとした時、腕を引かれた。
──ブブ、やる。
短く言って、買ったばかりの髪飾りを渡し、帰って行った。
特に意味は無かったのだろう。長い前髪が見ていて鬱陶しかったとか、せいぜいそんな理由だろう。

『でも、王冠っぽいコレを渡したって事は、私が王だって認めたって事ですよね。だから気に入って付けてるんです』

「……おもちゃやるから黙れ的なのじゃねぇの」

『刀欲しい言う子に紙丸めて渡したみたいな……』

美しい思い出を語るようなベルゼブブに容赦なく現実を投げつける。

『……何か腹立ってきました』

『ベルゼブブ様に似合うと思ったのかも知れませんよ。何でも曲解して悪く捉える輩の言う事を信じてはなりません』

『いえ、そもそもあのクソトカゲが嫁以外に贈り物するなんてありえないんですよ。悪意以外ではね!  どうして気が付かなかったのか……今度あったら顔にめり込ませて返してやりますよ!』

数万年前の髪飾りは未だ新品のように輝きを放っている。それは魔力で修復しているからだ、当時の物質など残っていないだろう。それだけ気に入っているという事だ、返すと言いながら髪を留めたのがその証拠。

『さ、次、先輩ですよ』

『……私が化粧や装飾具を着けられると?』

『そうですよねぇ。でも、アクセ欲しいって思ったことはあるでしょ。正直に言ってみなさい!』

アルはしばらく考え込んだ後、ヘルには言わないでと前置きをした。

『首に巻くものなら着けられると科学の国で首輪を義務付けられた時に思いました。そして……ヘルに、首輪ではなく……美しい宝石でも贈られたら──と、烏滸がましくも思っておりました』

『ふむふむ、ネックレス系統のが欲しいんですね』

『欲しいという訳では……ただ、贈られたら嬉しいと。私は何も要りません。ヘルには何も言わないでください』

最後に念押しし、アルは話を終えた。
ベルゼブブはヘルが首飾りを贈ろうとしているのは正解なのだとほくそ笑む。その笑みを隠し、アザゼルに話を振る。

『次は恋バナです!  過去でも現在でも未来でも、何か面白い恋愛話ください!』

「俺ー?  まぁ今は王様の嫁だな、玉の輿玉の輿~。昔は……天使知識を教えてやるっつって人間集めて、報酬は身体でってやってたぜ」

『わぉ、クズ』

王様の嫁──つまり、ヘルの伴侶の座を狙っている。アルは喉笛に噛み付きたくなる衝動を抑え、冷静に尋ねた。

『嫁だ何だと言わなくても、今のような仲間のままで良いのではないか?  ヘルが王となったとして、貴様がその伴侶になったとして、扱いが変わるとも思えんな』

「ま、王様優しいからなー。部下大切にしてくれそうだけど、やっぱ食っちゃ寝したい」

『……妻に仕事が無いとでも?』

「夜だけは完璧にこなしてやんよ」

アザゼルのだらしない欲望と下品さを受け、アルは深いため息を吐く。今のうちに排除しておこうかとも思ったが、ヘルが選ぶとも思えないし、何よりも馬鹿らしくなった。

『下品な堕天使は置いておいて、次、鬼!  貴方には期待してますよ』

『恋、言うてもなぁ……』

『あるでしょ?  私は男との話を希望します』

ベルゼブブは自分の趣味をさらりと言った。あまりに自然な言葉の流れに誰もそれを頭に留めなかった。

『獲物と寝たことはあるけど……』

『男ですか!?』

『……女やよ?  でもあかんな、人間脆いわ。純潔の方が肉美味いしなぁ。やりたなったらやるけど、そうそうやる気にもならへんな』

『女にしか興味ねぇのかよちっきしょう!  じゃなくて、なんでその見た目で女抱けるんです?』

悔しそうに机を叩き、一瞬で持ち直す。アルとアザゼルはその切り替えの速さにそこはかとない恐怖を覚えた。

『溢れ出る男の色気……言うもんやろか』

『女の色気も出てますし、むしろそっちの方が多いですよ』

『あら、嬉し……王さんは食い気たっぷりで可愛らしぃよ』

『……なんで私は褒めて差し上げたのに罵りで返されたんでしょう』

アザゼルは下品にも大口を開けて笑い、アルは「罵り?」と首を傾げる。ベルゼブブは期待していた話が聞けず、不機嫌に「次」と言ってどっかりと椅子に座り直した。

『次、私ですねー。ま、何も無いんですけど』

「振っといて無いってどうなんだよ」

『私、無性別ですし』

「俺もそもそもはそうだよ。天使も悪魔もほとんどがそうだろ。でも性欲はあるし恋愛感情もあるだろ」

アルは興味が無いのとヘルが自分を呼ばないのとで耳を伏せた。茨木は暇つぶしにとナッツの詰め合わせを仕分けている。

『食欲以外ないんですよね、私。人の話聞いたり人がしてるとこ見るのは割と面白いんですけど、自分ではやる気起きないんですよ』

「んー……歌聴くのは好きだけど歌うのは嫌みたいな?」

『みたいな』

「まぁ分からなくもねぇな」

ベルゼブブは話が着いたと手を叩き、イスの上に立ち上がり、アルを指差した。

『次は先輩です!  さぁ、ヘルシャフト様との馴れ初めから初夜までの流れをさらっと話してしまいなさい!』

「しょっ……うっそだろ!?  おーさま熟女好きどころじゃなかったのかよ!」

ベルゼブブの指名とアザゼルの少しズレた驚きに挟まれ、アルは深い深いため息を吐いた。
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