魔法使いの国で無能だった少年は、魔物使いとして世界を救う旅に出る

ムーン

文字の大きさ
628 / 909
第三十六章 怠惰の悪魔と鬼喰らいの神虫

選別不可

しおりを挟む
植物の国にベルフェゴールの助けに向かうという旨を話すと皆は声には出さないものの表情は暗くなった。だが、その雰囲気を壊してくれる者が居た。

『じゃあその悪魔さんささっと助けて一緒に遊ぼうよ、ね! その人川遊びとか好きそう?』

セネカだ。彼女は的外れな発言も多いがその分ムードメーカーとしての能力が高い。集団に一人は欲しいタイプだ。

『ほな行く奴はよ決めてまおか』

『ぁ、そうそう、ベルフェゴールはかなり強い悪魔だからね、そのベルフェゴールが助けを求めるくらいだからかなり危険だと思うんだ。僕は絶対行くから自動的に兄さんも行くことになって……』

『俺も行くで』

『……え? ぁ、ありがと……酒呑も行くって。で……』

『私も行くぞ』

『アル……うん、アルもね。それで……』

『なら我も』

『え、ぁ、うん……ありがとう』

着いてきてくれるのはありがたいけれど、僕が最後まで話してからまとめて言って欲しい。それは僕のワガママなのだろうか。

『グロルちゃん、君はお留守番して欲しいんだ。で、子守りを……メル、フェル、君達に頼みたい』

『……ワタシ、約立たず?』

『全然そんなことないよ。グロルちゃんはメルに懐いてるから』

『…………嫌、嫌よ、ワタシ……ずっと守られて、庇われて、なんて……嫌』

メルは僕に似ているところがある。だから役に立てないのが嫌だというのも分かる、自分の存在を否定されている気になるんだろう? けれども事実、メルは戦闘に向かない。

『……お兄ちゃん、僕も……嫌だ。僕、魔法ある程度使えるから、だから』

『魔法ならボクの方が上手いよ? ねぇ、ヘールー……ボクはあの虐待魔より上手いよねぇ』

メルが言わなければフェルは留守番を受け入れていただろう。グロルが黙っているのがありがたく思えてきた。

「感情で物言わずにちったぁ頭使いやがれ、弱ぇんだよお前らは、俺もな。着いてっても意味ねぇどころか邪魔になる、だよな? 魔物使い」

『……邪魔、なんて』

「ハッキリ言った方がいいぜ? 強い敵より無能な味方が恐い、だろ?」

その通りなのだがヴェーンは言葉が尖りすぎている。まぁ、多少空気が悪くなっても話が進まないよりはマシだから良い働きをしてくれたと言えるけれど。

『…………メル。その、邪魔とか約立たずとかじゃなくてさ、メルは他の人より川遊び楽しんでるみたいだから……』

『……分かってるわよ、ごめんなさい、分かってたの…………ねぇだーりん? ワタシ別に川遊びが好きなわけじゃないのよ。ホント、女心の分からない人ね』

川遊びが好きでもないのに提案したのか? ベルフェゴールの危機さえなければ良い結果になっただろうから別に問題はないけれど、ただ単に不思議だ。

『えっと、フェル……』

『僕はよく留守番してるし、別にいいよ。にいさま帰ってくるかもしれないしね。怖いところなんて行きたくないし。ちょっとお兄ちゃんにワガママ言ってみたかっただけなんだ』

『…………フェル、いい子で待っててね。お兄ちゃんとの約束だよ。いい子にしてたら早く帰ってくるからね』

『……何、もう……そういうのは子供に言ったげなよ』

生まれてからの日数を素直に数えるのなら最年少はフェルだ、一歳にもなっていない。

『帰ってきたらワガママ聞いてあげる。悪い子になっていいよ、なんでも言ってね』

いい子、という言葉が僕は嫌いだった。それはフェルも同じかもしれない。

『まだるっこいなぁ……他残るもん居るかー』

あまりのんびりしていられない。植物の国までの移動は──空間転移でいいのだろうか、この人数を長距離運んで不備は出ないだろうか、魔法の国で聞いた空間転移の事故の話はどれも悲惨だった。

『セネカさんは……』

『行くつもりだけど……も、もしかしてボクも戦力外かな?』

『いえ、セネカさんは一二を争う強さだと思いますよ』

『え? そ、そうかなぁ……えへへー』

魔物使いの力を使って魔力を移す手間をかけずとも手首や首を切って血を与えるだけで即座に供給出来る、出力も補給効率も高い良い味方だ。

『クリューソス、様……は来るの?』

『何だ、まさか俺が弱いとでも言うのか。下等生物にはその程度の知性もないのか?』

『い、いや、面倒臭がりそうだなって』

『……ふんっ』

天使を模していて魔性嫌いなくせに植物の国になんて行って大丈夫だろうか。向こうでの対応が心配だ。

『……そろそろいい? 空間転移の準備は終わってるよ、行かない人は円から出て』

『兄さん、この人数で植物の国なんて遠いところ行って大丈夫なの?』

『余裕だよ、キミの実兄にとっても余裕だろうからね』

ヴェーンがグロルを抱え、輝きを放ち始めた魔法陣の外に出た。不満そうにしながらも手を振るメルに手を振り返し、そうしているうちに僕の視界は光の洪水に侵される。

『……あっ、これ水着っ……着替えーっ!』

そんなセネカの叫びと同時に浮遊感を味わった。



足裏に地面を感じて目を開ければ断崖絶壁に立っていることが分かった。

『……おや、経度がズレてたかな』

そう呟いたライアーは崖の途中から生えた折れ曲がった木の上に立っていた。

『兄さん!? だっ、大丈夫?』

『うーん、体調的にはね。でも小さな失敗に落ち込んでるからほっぺふにふにさせて欲しいな、弟のほっぺたで遊ぶと精神状態が回復する生き物なんだよ、兄というのは』

真面目な顔で長々と説明されては訳も分からず頷くしかない。すると黒く筋張った手が僕の頬を摘み、ふにふにと弄び始めた。

『何遊んどんねん』

パコンッと子気味良い音が鳴る。

『痛いよ』

『で? 頭領、どこ行くんや』

速くてよく分からなかったけれど酒呑がライアーの頭を叩いた音だったらしい。手が早い、そして手が速い。

『真ん中の方に居るはずだけど……』

あの大穴に落ちてはたまらない、ライアーに空間転移を頼みたいがその前に詳細な地図を渡したい。影の中に入っていたりはしないかと屈んで影を漁っていると、ごろんとアルが寝転がった。

『……アル? 邪魔なんだけど』

『…………眠い。撫でてくれ』

『は? ぁ、あのね、アル……今そんな状況じゃないでしょ?』

突然の要求に混乱しているとクリューソスが太腿に頭を擦り付け、座ったまま寝息を立て始めた。

『んー……うちもちょっと寝るわ。おやすみ……』

茨木までその場に座り込み、木に背を預けて眠り始めた。

『ま、魔物使い君? なんか変じゃないかなこれ』

セネカは平気そうだ。

『…………今日まだ飲んでへんねんけどな』

酒呑は眠そうではあるが立ってはいる。カルコスはすっかり眠ってしまったアルの首の皮を噛んで引っ張っている、眠くはなさそうだ。

『……『堕落の呪』だ。眠くなるやつ。まだあるってことはベルフェゴールは一応生きてるってこと……だよね?』

呪いには術者が死んでも解けないものが多い。眠気そのものが存在しなさそうなライアーを見上げると頷いたが、何だか信用出来ない。

『ベルフェゴールに会って対象外にしてもらうのが一番だと思うけど、これじゃベルフェゴールを探せもしないし……』

『見ろ、兄弟が全く起きんぞ!』

『うんうるさい。兄さん、何か魔法ない?』

アルを持ち上げて振り回し楽しそうなカルコスを一蹴し、ライアーの服の裾を引く。

『反対魔法でいいかな。結界じゃ動きにくいし』

彼は人差し指を噛んで皮膚を破るとその傷から流れ出した黒い液体を酒呑の服に擦り付けた。

『……なんや気持ち悪い』

眠いからか反応も薄い。ライアーはそれを全員に施すと指を鳴らした。すると液体は服や毛皮の上で蠢いて魔法陣となり、皆がパッと目を開けた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

【薬師向けスキルで世界最強!】追放された闘神の息子は、戦闘能力マイナスのゴミスキル《植物王》を究極進化させて史上最強の英雄に成り上がる!

こはるんるん
ファンタジー
「アッシュ、お前には完全に失望した。もう俺の跡目を継ぐ資格は無い。追放だ!」  主人公アッシュは、世界最強の冒険者ギルド【神喰らう蛇】のギルドマスターの息子として活躍していた。しかし、筋力のステータスが80%も低下する外れスキル【植物王(ドルイドキング)】に覚醒したことから、理不尽にも父親から追放を宣言される。  しかし、アッシュは襲われていたエルフの王女を助けたことから、史上最強の武器【世界樹の剣】を手に入れる。この剣は天界にある世界樹から作られた武器であり、『植物を支配する神スキル』【植物王】を持つアッシュにしか使いこなすことができなかった。 「エルフの王女コレットは、掟により、こ、これよりアッシュ様のつ、つつつ、妻として、お仕えさせていただきます。どうかエルフ王となり、王家にアッシュ様の血を取り入れる栄誉をお与えください!」  さらにエルフの王女から結婚して欲しい、エルフ王になって欲しいと追いかけまわされ、エルフ王国の内乱を治めることになる。さらには神獣フェンリルから忠誠を誓われる。  そんな彼の前には、父親やかつての仲間が敵として立ちはだかる。(だが【神喰らう蛇】はやがてアッシュに敗れて、あえなく没落する)  かくして、後に闘神と呼ばれることになる少年の戦いが幕を開けた……!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

処理中です...