魔法使いの国で無能だった少年は、魔物使いとして世界を救う旅に出る

ムーン

文字の大きさ
633 / 909
第三十六章 怠惰の悪魔と鬼喰らいの神虫

地下帝国

しおりを挟む
アルの匂いと毛並みを堪能していると誰かに肩を叩かれる。

「……魔物使い君。悪魔様は無事だったようだし……虫とやらの話をしたいんだが」

『もう……ちょっと…………すぅー……はぁー……あぁっ、イイっ……もふもふぅ……』

「いや、こちらも暇ではなくてだね。後でいくらでもやっていいから」

『あぁアルもう食べていーい? ちょっと口に含んでいーい? いいよね? いいよねぇ!』

「……いい加減にしてもらえないかな」

僅かに声が低くなるも、それに反応出来る興奮状態ではなかった。構わずアルを堪能していると両脇に腕が通され、軽々と持ち上げられる。

『魔物使い君、みんな困ってるよ。ドン引きだよ。そろそろ正気に戻りなよ』

『……セネカさん。ぁ、あぁ……その、すいません。ちょっと……え? 何してたの僕……』

しっかりと自分の足で立ち、硬い表情のアルの額を撫で、ウェナトリアに向かい合う。

『すいませんでした……』

「いやいや、そんな……この島の問題だし、そう頭を下げないで欲しい。ひとまずカルディナールの所へ向かいたいんだが……」

『それならボクが。場所分かるよね?』

頭を上げると同時に光に包まれ、次の瞬間には洞穴の入口の前に立っていた。先程交戦しかけたばかりのアーマイゼ族の二人の少女が警備している。

「ごきげんよう、アルメーのお嬢さん達。カルディナールに会いたいんだが……」

『ウェナトリアさん、その子も連れてくんですか?』

「ん? あぁ、ロウ君は重要だよ」

「じゅーよーなんだぜ!」

意味も分からず復唱するロウには笑みを誘われる。軽いボディチェックを受け、全員が入場を許可されると細く曲がりくねった道を一列になって歩いていく。

『……ねぇアル、耳口に含んでいい?』

『…………駄目だ。状況を考えろ』

『じゃあ口元のたぷたぷ』

『……駄目だ』

『鼻先』

『駄目』

『どこならいいの!』

『どこも駄目だ! 少しは弁えろ!』

土を掘って作られた枝分かれする道は声が良く響く。まるで木霊が居るかのように反響してかなり恥ずかしい。

『……なぁ悪魔はん、十秒ほど揉ませて』

『あんたかぁいくないからダメー』

『俺は?』

『鏡見たことある?』

兵隊の少女達と違って私語の多い僕の仲間達の話ばかりが彼女達の家に響き渡っていく。

『……そういえばウェナトリアさん結婚するとか言ってましたけど、どうなったんですか?』

「…………逃げてる」

らしくない。そのせいでホルニッセ族が殺気立っていたのではないだろうか、だとしたらウェナトリアにも責任の一端が──冗談だ、無遠慮だった僕が全て悪いのだ。

『じゃあ僕の方が先なんですね』

「そうなのか? 誰と──あぁ、そうか…………おめでとう」

大きな手に優しく頭を撫でられ、次に小さな手に頭を叩かれる。彼に肩車されているロウが真似ているのだ。力は弱いが横に寝かせた鎌が当たってそこそこの痛みだ。

「式は……っと、着いたな」

一際大きな扉の前に立つとやはり萎縮してしまう。息を整え、胸を撫で、ぐっと前を見据えた。

「……カルディナール、ごきげんよう。早速だが聞きたいことがある」

「あら、ルフトヴァッフェのお尋ね者……いえ、国王様が一介の族長に聞きたいことがあるの?」

アルメーの少女達の母にしてアーマイゼの族長……黒髪の女王。モナルヒほど苛烈ではないものの、女王らしさと言うべきか、人を威圧する何かがある。

「ああ、この子を見てくれ」

ウェナトリアは肩車していたロウをカルディナールの前に降ろす。すると彼女はニッコリと笑い、ロウの下の手を握った。

「あらあら、双子の予定だったのかしら。仕方がないけど切るしかないわね、あまぁいお菓子はあるかしら?」

「違う。真面目に答えてくれカルディナール、この君の家で見た本にはこの姿の亜種人類の絵が載っていた。君はその時もはぐらかしたな。なぁカルディナール、私達亜種人類は……本来はもっと人から離れた姿をしていた、違うか?」

「…………着いてきて」

カルディナールは深いため息をつき、玉座の後ろの布を剥がして扉を現した。隠し部屋だろうか。

「……獣は来ないでもらえる? 子供もダメ。あと悪魔と……何かは分からないけど、あなたもダメ」

ドアノブに手をかけたまま振り向き、指を差して入る者を選別していく。入室を許可されたのは僕とウェナトリアと鬼達だけになった。

『どうしてアルはダメなんですか?』

「……犬猫の毛や涎をつけて欲しくないのよ」

扉を抜け、短い廊下を歩き、また扉を抜ける。その途端に「ほにゃぁ……」と大勢の赤子の泣き声が鼓膜を揺さぶった。

「これは……!」

「タマゴ部屋よ、先週孵ったばかりなの。あまり大声を出したり暴れたりしないでね」

鎧兜を脱いだアーマイゼ族の少女達が赤子をあやしているが、キリがないといったふうだ。

「……この子達も腕が四本あるの」

「やはり、結合性双生児や奇形ではないのか」

「そうね、先祖返りとでも言えばいいのかしら。この子達のための食事を用意してくれたら詳しい話をしてあげる」

「しょ、食事? 赤ちゃんのか? それは……難しいな」

壁一面に三段ベッドがあり、少女達は梯子を昇り降りしてあやしたり食事を与えたりしている。三十……いや四十は居るか。カルディナールが母親のような口振りだが、一度に四十人なんて……いや、卵だとか言っていたか? まさかそこまで人間と差があるのか?

「柔らかくて毒がなければなんでもいいわ。希望は花の蜜と肉ね」

「そうは言ってもな」

「……花や果物はシュメッターリング族が自分達のかよわさを武器に奪っていくし、近頃の騒ぎで狩りに出す人員は減ってるし、備蓄はこれ以上減らせないわ」

「うぅむ……」

「飢餓を救うのは国王の役目ではなくて?」

「うぅ……」

目隠しのせいで表情が分かりにくいが、かなり悩んでいることは唸り声で明白だ。

『乳やるもんとちゃうん』

「足りると思う? 私一人なのよ?」

『ほな今までどないしてたんな』

「今まではちゃんと採集と狩猟が出来てたの。それなのに近頃は生贄廃止だとか賊だとか化け物だとかっ……こんなので子供を育てられると思う!?」

今の今まで温和だったこともあり、その剣幕に酒呑はそろそろと僕の背後に戻った。

『ベルゼブブが居ればなー……いや、待って…………あの、花でいいんですよね? 果物とかは?』

「柔らかく出来て毒がなければそれでいいわ」

ベルゼブブが居ない今、以前カルディナールに菓子を要求された時のようにはいかない。だが、僕はあの時よりも成長している。部屋を出て狭い廊下の壁に手を当て、じっと念じる。頭が重くなっていくのを感じながら、足首を擽る草に成功を確信した。

「……すごい、木が生えたわ……実もある。すごく邪魔だけれど、これは助かるわね、すごく邪魔だけれど」

子供を育てる部屋に木を生やすのはよくないという考えばかりで狭い廊下を塞いでしまった。

「…………ま、いいわ。後で切り倒せば。国王様、早く実を取って潰してちょうだい」

「あ、ああ! 分かった」

「……何ぼーっとしてるの? あなた達もよ、角男共」

側頭部に生えた鹿の角が狭い廊下に挟まって動けなくなった。切り落とそうにも影に手が届かず刀を取り出せない。移動のためには透過するしかないが、ウェナトリアに見られると説明が面倒だ。どうにかして角を折りたい。

『鬼のっ……ち、かっ…………らでもダメかぁ』

鬼の握力は鹿の角に負け、その鹿の角は刀で楽に切れる。鬼……大したことがないんじゃないだろうか、それとも僕が弱いだけか?
無意味だろうとやらずにはいられず頭を振ると、角は壁に引っかかったまま僕の頭から離れた。
そういえば力を収めて少しすると抜けるんだった、安堵しつつ果物を潰す作業を手伝った。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

【完結】まもの牧場へようこそ!~転移先は魔物牧場でした ~-ドラゴンの子育てから始める異世界田舎暮らし-

いっぺいちゃん
ファンタジー
平凡なサラリーマン、相原正人が目を覚ましたのは、 見知らぬ草原に佇むひとつの牧場だった。 そこは、人に捨てられ、行き場を失った魔物の孤児たちが集う場所。 泣き虫の赤子ドラゴン「リュー」。 やんちゃなフェンリルの仔「ギン」。 臆病なユニコーンの仔「フィーネ」。 ぷるぷる働き者のスライム「モチョ」。 彼らを「処分すべき危険種」と呼ぶ声が、王都や冒険者から届く。 けれど正人は誓う。 ――この子たちは、ただの“危険”なんかじゃない。 ――ここは、家族の居場所だ。 癒やしのスキル【癒やしの手】を頼りに、 命を守り、日々を紡ぎ、 “人と魔物が共に生きる未来”を探していく。 ◇ 🐉 癒やしと涙と、もふもふと。 ――これは、小さな牧場から始まる大きな物語。 ――世界に抗いながら、共に暮らすことを選んだ者たちの、優しい日常譚。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流@3/19書籍発売!
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

処理中です...