魔法使いの国で無能だった少年は、魔物使いとして世界を救う旅に出る

ムーン

文字の大きさ
878 / 909
第四十六章 正義を滅ぼす魔性の王とその下僕

魔女は磔刑に

しおりを挟む
王城の前に人が集っていた理由は至極単純、正義の国名物の公開処刑だ。木の板で作られた十字架の下に積まれた枯れ木などを見るに、火炙りらしい。

『離しなさいよ! あぁもうっ……なんでこんなに警備厳しいの!? どーして大天使なんかいるのよぉ!』

後ろ手に手枷を着けられた女が白い長髪の天使に引き摺られてくる。

『竜を送り込んだろう? 全く……馬鹿な真似を』

『それ私関係ない! 関係ないから離して!』

『王族を殺しておいて何を馬鹿な』

あの赤い髪、ヒステリックな声、間違いない。捕まっているのはリリスだ。捕まえている天使の翼は大きい……大天使とか言っていたか。白い肌と髪、金色の瞳、白百合を思わせる美人──見覚えはないな。

『いったぁっ!? 何すんのよ!』

『大人しくしろ!』

『誰が焼かれるって分かってるのに大人しくすると思う!?』

両手を拘束されてもなお暴れていたリリスは太腿を白い槍で貫かれた。しかしそれでもリリスは変わらずに叫んでいる。

『仕方ないな……にいさま、僕が天使を引き剥がすからリリスを魔界に連れてって。怪我は治さないで、手枷もあのままサタンに見せて』

サタンが怒れば怒るほどに魔力の生成効率が上がる、なら怒らせなければ。

『属性分かんないからな……どれで行こう。うーん……ぁ、にいさま、僕の魔法解いて。じゃなきゃ天使を引き付けられない。よし……決めた、氷塊……撃ち抜け!』

翼を広げ、翼の内側に握り拳大の氷を生成し、天使の頭部を狙う。しかし氷は天使の頭に触れる寸前に砕け散った。

『……流石は大天使か。接近戦やるしか……いや、待てよ』

天使はこちらを睨んではいるがリリスを逃がさないためか向かってはこない。遠距離攻撃は無駄だと今示したから、僕が突っ込んでくると思っているのだろう。そう予想した僕は天使の周りに集っていた人間に魔力を流し込んだ。

『必要悪辣十項、其の十……爆殺』

天使の目の前にいた中年の男の腹が突然膨らみ、周囲の人間が戸惑う。喉と頬が膨らみ、周囲の人間が逃げ始める。爆散して肉片と血液をばら撒くと悲鳴が上がった。しかし逃げ惑う人々も次々に爆発していく。
目の前で人間を虐殺すれば向こうから来るかと思ったが──来ないな、失敗か。

『ちょっ……おとーと、人間を…………今はいいか』

天使とリリスの全身も赤く染まっていく。僕は血の雨で少しでも天使の視界が悪い間にと懐に潜り込み、雨水の剣を振るった。しかし雨水の剣は天使に触れるのを嫌い、ぐにゃりと曲がった。

『あ、魔物使い! 助かった……ぁっ、ち、違うのよ私失敗はしてないの! ちゃんと王族は皆殺しにしたのよ!?』

『分かってる! 必要悪辣十項、其の八、撃殺!』

魔力を実体化させて銃を作り、リリスの手枷に繋がる天使が持った鎖を破壊した。

『にいさま、お願い!』

『へっ……きゃあっ!?』

リリスの胸倉を掴んで後方に投げ、銃を天使に向けて撃った。すると天使は初めて回避行動を取った、弾は首を傾けた彼の髪の隙間を抜けて王城の門に埋まった。

『……魔性の王、ヘルシャフト・ルーラー! ここに宣言する、正義の国並び天界を滅ぼすと!』

銃を消し、間合いを取り、叫ぶ。
ほとんどの場合天使は正々堂々とした戦いを好み、名乗りを上げれば向こうも名乗るはずだと踏んだのだ。何を司っているか言ってくれたなら戦い方を考えられる。
天使が名乗るのをじっと待っていると、足元に広がった血が僕の操る雨水の剣のように僕の腕を切り飛ばした。

『……っ!? く……名乗れ!』

痛いフリをしてそう叫ぶが、天使は黙ったまま指をクイっと動かした。すると体内に潜り込んだ血が僕の心臓を目指す。

『……透過。透過…………解除!』

透過を使って血から逃げ、天使の懐まで進んでから透過を解除し、真っ黒く変わっているだろう目で天使を睨む。

『死与の魔眼……そうか、サリエル……』

しかし視界が突然暗闇に鎖される、目を潰されたようだ。すぐに透過して目の再生を待ち、虹色に戻っただろう目で天使を睨む。

『……名乗ってくれないかな?』

『悪人に名乗る名などない』

天使は手も翼も動かしていなかった、僕の目に攻撃を加えた様子はなかった。仕方ない……できれば隠し玉にしておきたかったが、相手の能力が全く分からないのでは戦いが長引く。

『あっそ、じゃあ死ねよ!』

鎖を巻いた方の足で地面を強く踏みつける。すると王城の門の影によって僕の影と繋がった天使の影からルシフェルが飛び出し、天使の腕を掴む──いや、掴めていない。ルシフェルの手が裂けた。

『不意打ちは失敗か……ルシフェル! こいつ何!』

『はい、神様。このガキはガブリエル、水を司り告知を役目とする大天使で──』

『ガブリエル? 水? やった、欲しかったんだよ……! ルシフェル、前衛頼む!』

透過を解除し、エレクトリック・ギターを掻き鳴らす。翼を広げて雷属性の魔力を溜める。

『ルシフェル……! 厄介なのが……』

『ひっさしぶりだねぇガブリエル! 君には恨みがあるんだ、引き裂いて、踏み潰して、元人間共と見分けがつかないようにしてやるよ!』

『邪悪な……』

禍々しく美しい十二枚の黒翼から光が放たれる。ビーム状のあの攻撃はアルを撃ち抜いた忌々しいものだが、その威力は信頼できる──はずだったが、真っ直ぐに進むはずの光はガブリエルを避けて進み、地面を抉った。威力も下がっている……?

『ルシフェル何してるの! 真面目にやれ!』

『やってるよ神様! 相性が悪いんだ、私は光を使うから……空気中の水分を操られたら曲げられちゃって』

『はぁ……!? 水の攻撃なんか溺れさせるか水圧で切るか……光を曲げるってなんだよ』

『……なんだ、今回の魔物使いは馬鹿か』

確かに僕は馬鹿だが面と向かって言われると腹が立つ。

『神様、水は四大元素の一つだよ? そんな物量攻撃だけな訳がない。ガブリエルに水での攻撃は効かないし、水を多く含む肉体は簡単に壊されるし、空気中にも水分はあるからガブリエルの能力の影響範囲外に出ないと呼吸するだけで死ぬことも──』

『あぁもう分かった分かった僕はどーせ一日で学校辞めさせられた無能だよ! でもそんな僕にも分かる、水には雷だ、もう溜まった!』

翼に溜めた魔力を解放し、無数の雷撃をガブリエルに向けて放つ。しかしガブリエルは無傷だ。彼の前には透明の膜が──水の膜がある。

『……純水は絶縁体だよ神様ぁ!』

『絶縁体って何! 水には雷だってゼルクが……』

『ゼルクといえば有名なバカだよ!』

『…………馬鹿が馬鹿を取り込んで更に馬鹿になったのか……聞いてたより楽そうだな』

二人して僕をバカだバカだと……事実だ、言い訳も怒りもしない。

『それより神様、ラミエルを取り込んでるならアレ撃ってよ、荷電粒子砲。アレは粒子が主体で放射能や高温の爆発も含むから効くと思うよ』

『りゅ、粒子……? 放射能……? あぁうん、とりあえずそれの撃ち方は分かる、原理も何も分かんないけど……』

まず、できるだけ重い金属だとかを弾にして──この鉄片でいいかな、門の一部だろうか。この鉄片に魔力を流し込む……雷撃よりも溜めが必要だ。

『荷電粒子砲……あんなもの街中で撃たせてたまるか!』

『させるか!』

高速で撃ち出された水弾を十二枚の黒翼で防ぎ、地面を蹴ってガブリエルに掴みかかる。しかしその手は先程と同じように裂ける。ルシフェルは骨が丸出しになった腕を王城に叩きつけて手首の骨を砕き、尖った骨をガブリエルの首に突き刺した。

『あはっ、前と同じ手が通じた。君も案外バカだよねぇ?』

『……手応えがないのに気付かないあなた程ではありませんよ』

ガブリエルが一歩引くと首に刺さっているはずのルシフェルの腕の骨は簡単に抜けた。ルシフェルはガブリエルに向けて腕を振るうが、僕が透過している時のようにガブリエルの体をすり抜けてしまう。

『リリスが侵入したと聞きすぐに下りて来たので肉体を用意する暇がなかったんですよね……怪我の功名、ですね』

『君……水を肉体っぽく見せてたって訳?』

『まさかルシフェルともあろうお方が騙されるとは……堕ちたのは知能もですか?』

トントンと頭をつつく仕草に苛立ったルシフェルが蹴りを放つが、彼女の足が濡れるだけでガブリエルには何も起こらない。
僕は荷電粒子砲なら通用すると言ったルシフェルの言葉を信じ、充電完了を待った。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

【薬師向けスキルで世界最強!】追放された闘神の息子は、戦闘能力マイナスのゴミスキル《植物王》を究極進化させて史上最強の英雄に成り上がる!

こはるんるん
ファンタジー
「アッシュ、お前には完全に失望した。もう俺の跡目を継ぐ資格は無い。追放だ!」  主人公アッシュは、世界最強の冒険者ギルド【神喰らう蛇】のギルドマスターの息子として活躍していた。しかし、筋力のステータスが80%も低下する外れスキル【植物王(ドルイドキング)】に覚醒したことから、理不尽にも父親から追放を宣言される。  しかし、アッシュは襲われていたエルフの王女を助けたことから、史上最強の武器【世界樹の剣】を手に入れる。この剣は天界にある世界樹から作られた武器であり、『植物を支配する神スキル』【植物王】を持つアッシュにしか使いこなすことができなかった。 「エルフの王女コレットは、掟により、こ、これよりアッシュ様のつ、つつつ、妻として、お仕えさせていただきます。どうかエルフ王となり、王家にアッシュ様の血を取り入れる栄誉をお与えください!」  さらにエルフの王女から結婚して欲しい、エルフ王になって欲しいと追いかけまわされ、エルフ王国の内乱を治めることになる。さらには神獣フェンリルから忠誠を誓われる。  そんな彼の前には、父親やかつての仲間が敵として立ちはだかる。(だが【神喰らう蛇】はやがてアッシュに敗れて、あえなく没落する)  かくして、後に闘神と呼ばれることになる少年の戦いが幕を開けた……!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

処理中です...