とある大学生の遅過ぎた初恋

ムーン

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身体はもう手遅れだろうに

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仰向けになった雪大の足を曲げて開き、丸見えになった後孔に挿入し、劣情に任せて腰を振る。

「はぁっ……ゆきひろ、ゆきひろっ、可愛い、可愛いぞ、好きだ、大好きだからな」

自分は男であると主張している雪大の性器は情けなくぶるぶると揺れ、触れられてもいないのに精液を撒き散らしている。

「あっ、ぁぐ、あふっ……ぁ、あーっ……!」

「出すぞ、雪大、愛してるっ……!」

口をぱくぱくと開け閉めさせて、言葉どころか声もハッキリと出せなくなってきている雪大の中に精液を流し込む。

「あっ……!? ぁ、あ……」

雪大の中が粘着質な液体でいっぱいになっていると萎えた陰茎の感覚で分かる。俺はそっと陰茎を抜き、雪大の腹を撫でた。彼の腹は彼自身の精液でどろどろに汚れている。

「しゅ、ぅ……や、くん」

半ば意識なく俺のを呼ぶ雪大が可愛らしくて俺はすぐに隣に横たわり、自分の頭を自分の腕で支えて雪大を見つめた。

「しゅう、や……くん、嬉しい……嬉しいよ、しゅうやぁ……僕のこと、好きって、愛してるって、しゅうやくんが……言ってくれた、僕なんかを、好きって……」

弱々しく擦り寄ってきて射精前に口走った言葉に喜ぶ雪大は可哀想で可愛い。口から勝手に出ていった言葉だと知ったら悲しむだろう。

「すき、すきだよ、しゅうやくん……僕のこと、どうしたっていいよ、しゅうやくん」

「ゆきひろ……」

「僕のことを好きなら、僕を好きなようにして」

これは──堕ちた、と見ていいのだろうか。少し違う気もする。

「雪大、やっと俺に抱かれる気持ちよさが分かったんだな?」

「え……違うけど。君に抱かれるのは嫌いだよ、とても気分が悪い……でも君が好きだから我慢しているんだ」

まだ堕ちてくれないのか。気持ちいいから抱かれるのも好きだと言ってくれるようになる日を待つしかない。あれだけ乱れているのだから快感ではないなんてありえない、そのうち素直になってくれるはずだ。

「雪大……何度も気をやっておいて、自分の体を自分の精液でこれだけ汚しておいて、嫌いだとか気分が悪いだとかよく言えるな」

こんな言い方は雪大は嫌いだろう、怒るだろうか。

「…………だって、気持ちいい……から」

「……っ、な、ならっ!」

「違うよ! そのっ……身体が勝手に、その……気持ちよくなってしまうだけで、自分の体の反応も含めて、君との行為そのものは大嫌いだ」

肉体と精神を切り離して答えられてはどうしようもない。いや、完全に切り離せる人間なんているものか。精神までぐずぐずに蕩けさせてやろうじゃないか。

「気持ちいいのは気持ちいいんだな、よかった。本当に苦痛なだけなんじゃないかと心配だったんだ」

白濁液で汚れた白い腹を撫で、にちゃっ……と音を立てる精液で遊んでみせて雪大に羞恥心を覚えさせる。

「若神子の子種をこーんなふうに無駄遣いしちゃいけないんじゃないのか?」

何気ない冗談のつもりだった。精子なんて九割九分九厘が無駄になるもの、いつものように「気持ち悪い」だとか罵るのだと思っていた。
タチの悪い、ただの冗談だったんだ。

「ぇ……? 子……だ……ぁ、あっ……」

「……ゆ、雪大? 顔色悪いぞ、どうした」

今の今まで真っ赤だった雪大の顔が突然青ざめた。

「い、や……嫌だっ、許して……違う、知らなかった、だって父様が作れって……嫌だ、やだっ、ごめんなさい……許して、許してっ……」

「雪大? 雪大、どうしたんだ! 雪大!」

「嫌、嫌っ……嫌ぁぁあぁああっ!」

突然暴れだした雪大の足が俺の腹部を思い切り蹴った。俺が怯んだ隙に雪大は裸のまま部屋の外へ飛び出していく。

「ゆ、雪大っ!? 待て!」

雪大は扉の僅かな段差に躓いて盛大に転び、人気のない廊下にびたんっと音を立てて倒れた。

「……ゆ、雪大」

起こそうと近付くと突然咳き込み、嘔吐した。

「ゆ、雪大っ! とりあえず中に……どうしたんだよ!」

部屋の中に引きずり込んで手拭いで口元を拭き、水を飲ませる。幸い嘔吐は透明の液体が手のひらに掬う程度零れただけ、さっと拭いて鍵をかけた。

「………………ごめん」

振り返れば雪大は色無地を羽織っており、暗い顔で俯いていた。

「い、いや……どうしたんだ? 急に……俺、何か嫌なこと言ったか?」

雪大は一音も発さずに頷いた。

「そ、そうか……えっと、何が嫌だったんだ?」

「………………子作りを連想させるようなこと言わないで欲しい」

子作り……? 子種がどうとか言った冗談のせいで雪大は半狂乱になっていたのか?

「分かった、二度と言わない。けど、なぜだ?」

雪大は何も言わない。

「…………何かあるんだな。ごめんな、俺が辛いことを思い出させたんだ。それを掘り返すようなこと、もう言わない……理由なんていい、構わないよ、言わなくていい、大丈夫」

俺に背を向けた彼の肩が震えているのに気付き、背後から覆い被さるように抱きしめた。

「しゅ、ぅ、やっ……しゅうやぁっ、しゅうやくんっ、しゅうやくぅんっ……!」

雪大はすぐに振り返って俺の背に腕を回し、俺を押し倒した。

「痛た……雪大? よしよし、大丈夫……もう言わない、連想させない、詮索しない、大丈夫だ」

俺の体の上で泣き続ける雪大はまるで幼い子供のようだ。

「ごめんっ、ごめんね、秋夜君……僕は君に優しくしてもらえるような人間じゃない、独りで当然の最低の人間なんだ、僕は殺人犯なんだよ、人を殺した、ごめんね秋夜君、黙っててごめんね」

「え……?」

殺人という突拍子もない言葉に俺の思考は完全に停止した。

「…………でも、捨てないでいてくれるよね? 僕は確かに生きていちゃいけない人間だけど……今まで君に身体を好きにさせてやったんだから、僕が死ぬまで一緒にいてくれるよね?」

殺人について詳しく聞きたい。けれど俺は「どうせ教えてくれないのだろう」と諦めていて、今すぐに頷かないと刺されてしまうような気がして、雪大を強く抱きしめた。

「……当たり前だろ。ずっと一緒だ、愛してる」

「嬉しい……! ごめんね、ありがとう…………もう一ヶ月もないから、もう少しだけ我慢してね」

何が一ヶ月なんだと聞いても雪大は答えず、俺の上で泣き疲れて眠ってしまった。俺はため息をつきつつも雪大を布団に寝かせ、涙に濡れた頬を撫で、俺はぼうっと考える。雪大が言った「殺人」はきっと公の場で詳しく説明しても裁かれるようなものではない、彼の的外れな罪悪感でしかないのだろうと。
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