過労死で異世界転生したのですがサキュバス好きを神様に勘違いされ総受けインキュバスにされてしまいました

ムーン

文字の大きさ
471 / 604

それぞれの甘いもの

しおりを挟む
インキュバス棟の一室、よく出入りしているシャルの宿泊部屋。鍵を開けて中に入り、ベッドに寝転がったシャルが何か呟いているのに気付いて息を殺す。

「……さ……に……」

クマのぬいぐるみを抱いて眠っているようだ、背後に回り、寝言を聞く。

「兄さん……兄さん、兄さん……兄さん」

クマのぬいぐるみには羽や尻尾が増やされており、服も俺のものに似せている。シャル手作りの服は俺の寝ている間にズボンの中などに突っ込まれているから、俺の匂いでもついているのだろう。

「にぃさん……」

服に鼻を擦り付けて匂いを嗅いでいる。可愛らしい。ベッドに忍び込んで抱き締めてから起こしてやろう、驚くし喜ぶだろう。

「…………っ! 兄さん!」

ベッドに乗ろうとした瞬間、飛び起きたシャルに抱きつかれてベッドに引き倒される。

「兄さん、兄さん……」

「お、起きてたのか、シャル……シャル?」

クマのぬいぐるみを放り出して俺に抱きついたシャルは目を閉じ、寝息を立てている。まさか、より濃い俺の匂いだとかに反応して俺を捕まえただけなのか?

「シャル、おいシャル」

肩を揺さぶるとシャルは簡単に目を覚ました。

「兄さん、おはようございます。いつの間に僕の部屋に? こっそり一緒に寝ているなんて……」

「今起こしに来たんだ、近寄ったらお前に抱きつかれたんだよ」

「え、ぁ……そ、それは、申し訳ありません……」

本当に眠っていたのか。俺を見てパタパタと揺れていた頭羽が垂れ下がった、頭を撫でて「可愛かったから気にするな」と言ってやると頭羽はバタバタと激しく揺れる。

「お菓子買ってきたからみんなで食べようってなったんだけど、来るか? もちろん……俺とお前の分はないけど。前の宴会の時の樹液スイーツ、全然見つからねーんだもん」

「行きます。僕はいりませんよ、僕にとって一番甘いものは兄さんですから」

頬をべろんと舐められ、抱きついたり体の一部をバタバタ振ったりという仕草を思い出し、シャルは大型犬っぽいななんて考える。この思考はすっかり定期化した気もする。

「よし、じゃあ行くか」

「はい」

部屋を出た俺達は腕を絡めて別棟のネメスィの部屋に向かった。彼らは既に集まっており、背の低い机を中心に床に胡座をかいていた。

「お待たせー」

言いながら座る場所を探すとアルマが手招きをする。査定士も遅れて手招きをした。

「サク、おいで」

「シャル、こっちに」

隣同士に座っている彼ら二人とも自分の足を指している。俺達は好意に甘えて胡座をかいた彼らの足を椅子として座った。

「ありがとな、アルマ」

「ありがとうございますおじさん」

アルマと査定士では足の厚みが違うから目線の高さが変わってしまったが、シャルとは隣同士だ。指を絡めて手を繋ぎ、微笑み合う。

「それで、どうして集めたんだい?」

机に乗ったスイーツ店の紙袋を見れば分かるだろうに、査定士は笑みを浮かべて俺に尋ねた。俺は紙袋の中身を出しながら説明する。

「お菓子買ってきたからみんなで食べようと思ったんだ」

「美味しいパイのある店を聞いてきたものね、紹介した店とは違うようだけど」

「あぁ、あの店は……」

「あの店の店員はサクに嫌なことを言ったらしい、俺は聞いてはいなかったが……よくもそんな店を紹介してくれたな」

俺の腹に巻いた腕の力を強め、査定士を睨む。なだめるために頬や腕を撫でたが、静かに怒っている彼に効果はなかった。

「そうなのかい? それはすまなかった……味はよかったし、店員の態度もよかったから紹介したんだが」

「……そりゃおじさんは上品な人間だもん」

「そう、か……インキュバスは軽く見られることも多いか……ごめんね、サク」

「おじさんは気にしなくていいよ」

「兄さん、その店の場所とその方の身体的特徴をお願い出来ますか?」

惨殺死体が見つかる予感しかしない。

「いや、ダメだ」

しつこくねだるシャルの額をつつき、質問を取り下げさせるとカタラがようやく声を発した。

「なぁっ、サク……パイの美味いとこ探してたって、それって……」

「あぁ、うん、昨日ここ来たら不味いパイ食ってお前倒れてたから、可哀想だなーって」

「それで買ってきたのか」

ネメスィは今ようやく気付いたらしい。彼は比較的普段通りだが、昨日ここで話せていないカタラは気まずそうにしている。このままではせっかくのお菓子が不味い、俺はアルマの膝から降りてカタラの隣へと移った。

「カータラっ、昨日はごめんな? 拗ねすぎちゃった」

「サク……いや、俺が悪いんだ。ごめん。俺の方から先に謝らなきゃなのに、サクの方から謝らせて……それも、ごめん」

「気にすんなよ、でも一週間禁止は撤回しないからな」

「…………割と拗ねてるんだな」

もう拗ねてはいない、言ってしまった手前俺から撤回するのは癪だし、一週間放置した彼らは非常に精力的に俺を求めてくれるだろうという淫らな思考もある。

「まぁ、ほら、もういいから、お菓子食おうぜ」

アルマの足の上に戻り、袋から出したスイーツを一つずつ開封していく。カットケーキは査定士の前に、クッキーはアルマの前に、パイはネメスィとカタラの前に、それぞれ置いていく。

「あ、フォークとかいるよな……」

「僕がホテルに頼んできます」

「飲み物も頼む」

インキュバスになって食事に関することが頭から抜けていっている。食器も飲み物もなしなんて酷い失態だ。

「シャル、俺も行く。一人じゃ運べねぇだろ」

「それなら俺も行く」

シャルとアルマと三人でロビーに向かい、食器と飲み物を人数分注文する。渡されたフォークやナイフ、ジュースなどはワゴンに乗せられた。

「これなら一人でも運べましたよ」

「まぁまぁ……話しながらの方が楽しいじゃん」

三人で楽しく話しながらワゴンを押して部屋に戻った。

「おかえり、悪いな三人とも」

フォークとナイフを配る俺の横で、シャルがジュースを注いでいく。再び胡座をかいたアルマの足に座り、食事開始の合図をする。

「ん……美味ぇ! お前の叔父さんと親父さんの合作とは全然違うな」

「…………あぁ、比べ物にならないほど美味い」

薬だか毒だかを練り込んだパイと隠れた名店のパイだ、当然味は比べ物にならないだろう。

「私にもこんないいものを買ってきてくれるなんてね、やはりサクは素晴らしい、いい子だね」

「このクッキーも買ってくれた、サクが最高なのは当然だが……体験する度に感動するな」

二人に褒められて照れてしまい、食事開始の合図の際にシャルと繋いだ手に力を込めてしまう。

「……兄さん?」

照れ隠しに笑うとシャルは微笑み返してくれた。
しおりを挟む
感想 156

あなたにおすすめの小説

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。   ※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました! えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。   ※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです! ※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

メインキャラ達の様子がおかしい件について

白鳩 唯斗
BL
 前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。  サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。  どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。  ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。  世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。  どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!  主人公が老若男女問わず好かれる話です。  登場キャラは全員闇を抱えています。  精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。  BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。  恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。

有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います

緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。 知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。 花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。 十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。 寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。 見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。 宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。 やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。 次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。 アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。 ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

処理中です...