八代学園の変わり者たち

夏風邪

文字の大きさ
2 / 22
第一章

第2話 食堂にて、現在集団発狂中

しおりを挟む




 八代学園にはいくつかのルールがある。

 例えば、『髪色髪型着崩しは自由だが必ず校章の入ったものを身に付けなければならない』とか。
 例えば、『数度にわたり校則違反を犯した者は一ヶ月担任と交換日記の刑に処する』とか。

 他にも色々あるが、その中でも特に生徒が気にしていることといえば。

 『特進科棟、芸能科棟への無用な立ち入り禁止』、である。


 八代学園には普通科、国際科、特進科、工業科、芸能科、美容科などなど、多種多様な学科が存在する。
 その中でも特進科と芸能科はそれぞれに棟が分けられ、部活動を除けば他の学科生徒との交流が特に少ないことが特徴である。

 理由としては、芸能科には現役で活躍している人気生徒が多く、特進科には各業界に影響力を持つ家の令息令嬢が在籍しているため、追っかけや授業妨害、盗難、そのほかプライベートや安全性も考慮し、他学科の生徒の立ち入りは制限されていた。
 もちろんまったく禁止というわけではないためそれぞれの棟は渡り廊下で繋がっており、各棟の警備員の許可を取れば入ることが可能だ。

 そんな多様な学生が在籍する八代学園だからこそのルールがある中で、全学科生徒共通の施設も複数存在していた。

 本館一階の食堂もそのうちのひとつだった。
 


 生徒総数に合わせて広々とした食堂は吹き抜け二階建て構造となっている。
 レストランばりの高級感漂う内装はさすが金持ち私立としか言いようがない。

 十分な席数が用意されており、すべての学生が食堂を利用するというわけでもないので、席の確保はそれほど困難ではない。
 それでも昼時ともなれば大半の席は埋まる。
 芸能科、特進科生徒との交流を持てる数少ない場であるというのも賑わいを見せる理由のひとつなのだろう。

「それでさぁ、特進科にも顔のいいやつは結構いるわけじゃん? ていうかまず男女問わずこの学園の顔面偏差値の高さにあたしはビビったね。そりゃまー普通科とかには普通の高校生がいっぱいいるわけだけど、特進科と芸能科ってやっぱ贔屓目なしにも異常じゃん? ここは二次元の世界かー!!って今でも叫びたくなるしね」

 メニューとしては、一般人も多く通っているため庶民的でお手頃価格なものから、横文字でセレブなものまで幅広い。

 味に関してはもう何も言うまい。
 これまで幾度となく食堂を利用してきたが、不味いものなど食べたことがなかった。

「たしかにイケメン×平凡もウマいよ。あ、平凡×イケメンでも可。でもさぁ、あたし的にはイケメン×イケメンが至高だと思うわけよ。萌の供給と目の保養で一石二鳥! ついでに空気も華やかでコスパ最強!! グヘヘへへ……」

 今日は和食の気分だったので本日の和定食にした。
 メインはサクサクの天ぷらだ。そこにほかほかの白米とわかめと揚げの味噌汁、青菜のおひたし、ゆず大根の漬物。
 これぞ日本食。文句なしに美味い。

「だからやっぱもうちょい他学科との関わりが欲しいわけよ。特に芸能科とか芸能科とか芸能科とか………ってちょっと都ー、聞いてるー?」

「聞いてる聞いてる」

 BGMと化していた声を聞き流していれば、向かいに座る少女がぷくぅ、と頬を膨らませた。
 そんなことしてもただのイタイぶりっ子だぞと言ってやりたいところだが、残念ながら彼女は俗にいう美少女。そんな仕草も様になってしまっていた。

「それでさ、都はどう思う?」

「どう思うって…」

 サンドイッチを食べながら意見を求めてくる彼女は特進科二年、あさひ汐恩しおんだ。
 都のクラスメイト兼友人で、その逞しい想像力を日々せっせと漫画に起こす漫研部の精鋭だ。
 ついでにご飯よりパン派だと言っていたのをたった今思い出した。

「私は顔とかどうでもいいわ。ただ、強いていうならプライド高くて高飛車で男に抱かれることを心底嫌う受けがぐっちゃぐちゃに掘られてる作品が読みたい」

「ははっ、いいねぇ!! さっすが都。今度そういうどぎついの描くからもらってよ!!」

「是非!!」

 ガシッと二人は熱い握手を交わした。
 そしてこの場が食堂だということも忘れ、己の欲望に忠実な掛け算をひたすら議論し合うのだった。

 そう、すでにお分かりかもしれないが、彼女たちは腐っていた。
 旭は真性として、都は一種の文芸ジャンルとして、それぞれ腐っていた。



 食堂の空気が騒がしくなったのは、それから間もなくのことだった。

 うおー!、だか、きゃー!、だかわからない黄色い悲鳴が食堂を包む。
 一気に色めき立った食堂に無意識に眉を寄せた都だが、向かいに座る旭が一番興奮しているのを見て、今度はくっきりと眉間に皺を寄せた。

「ちょっ、ちょちょ、ちょちょちょちょっと!!?」

 バグった旭に激しく肩を揺さぶられ、反射的に手を払い除けた。

「うるさい」

「そんなこと言ってる場合じゃないよ!! ちょっとあれ!! レイとあおいじゃんっ!!」

「……………」

「え、まさか都知らないの? 二人とも御尊顔が国宝級って超人気のメンズモデルだよ?! 何度雑誌の表紙を飾る姿を目にしたことかっ!! この学校の芸能科に通ってることは知ってたけど、二人とも多忙だしあんまり共通スペースに来ないから生で見れるのは超レアなんだよっ!!!」

 鼻息荒くそう解説する旭に都は完全に引いていた。
 このはしゃぎっぷり、妄想の糧以前に旭は彼らの相当なファンなのかもしれない。
 
 よく見れば、ぽっと頬を染めて旭と同じような現象に陥っている生徒たちがなんと多いことか。集団発狂を起こしかけている。軽く恐怖だ。


 心臓あたりを抑えて遠目にいるであろう彼らの一挙手一投足を目に焼き付けていた旭だったが、彼らが二階部分に上がったことでようやく落ち着きを取り戻していた。

「はぁ、はぁ……突然の襲来……ほんっと心臓に悪い……あー御尊顔ッ、……ぅう、尊っ……!!!」

 否、たいして落ち着いてはいなかった。

「ほんっとうるさい。少しは落ち着けよ」

「そういう都こそなんでそんな落ち着いてられんの?!」

「逆になんで人の顔ひとつでそんな興奮できんの? 意味がわからない」 

「薄々思ってたけどあんたは聖人かなんかですか?」

 こっちの方が意味わからんわ……とでもいいたげな顔でぶつくさ文句を言っていたが、至って冷静な都を前に少しは落ち着きを取り戻したらしい。
 残りのサンドイッチを口に放り込み、食後のプリンまで楽しんでいた。

「そういえば遠目からだったけど碧はカツ定でレイは和定だったような……都、それ美味しかった?」

「そこまで確認してるお前が怖いわ。味は言わずもがな」

「ふむふむ、なるほど……ありがとうございます」

 どんな小さなネタでも逃さず拾っていくその精神、本当に逞しいと思った都であった。 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢だったので、身の振り方を考えたい。

しぎ
恋愛
カーティア・メラーニはある日、自分が悪役令嬢であることに気づいた。 断罪イベントまではあと数ヶ月、ヒロインへのざまぁ返しを計画…せずに、カーティアは大好きな読書を楽しみながら、修道院のパンフレットを取り寄せるのだった。悪役令嬢としての日々をカーティアがのんびり過ごしていると、不仲だったはずの婚約者との距離がだんだんおかしくなってきて…。

俺が宝くじで10億円当選してから、幼馴染の様子がおかしい

沢尻夏芽
恋愛
 自他共に認める陰キャ・真城健康(まき・けんこう)は、高校入学前に宝くじで10億円を当てた。  それを知る、陽キャ幼馴染の白駒綾菜(しらこま・あやな)はどうも最近……。 『様子がおかしい』 ※誤字脱字、設定上のミス等があれば、ぜひ教えてください。  現時点で1話に繋がる話は全て書き切っています。  他サイトでも掲載中。

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

俺をフッた幼馴染が、トップアイドルになって「もう一度やり直したい」と言ってきた

夏見ナイ
恋愛
平凡な大学生・藤堂蓮には忘れられない過去がある。高校時代、告白した幼馴染の星宮瑠奈に「アイドルになるから」とこっ酷くフラれたことだ。 数年後、瑠奈は国民的アイドル『LUNA』として輝いていた。遠い世界の住人になった彼女との再会なんて、あるはずもなかった――そう、変装した彼女が俺の前に現れ、「もう一度やり直したい」と泣きつくまでは。 トップアイドルの立場を使い強引に迫る元幼馴染と、過去の傷。揺れ動く俺の日常を照らしてくれたのは、俺の才能を信じてくれる後輩・朝霧陽葵の存在だった。 俺をフッた幼馴染か、俺を支える後輩か。過去の清算と未来の選択を描く、ほろ苦くも甘い、逆転ラブコメディ、開幕。

家から出ない女優の幼馴染を連れ出したら、いつの間にか伝説になっていた件。

Memu(メム)
恋愛
学校に行かない引きこもりの国民的女優――水宮小鞠。 女の子に間違われる地味男子――白雲凪。 俺に与えられた役目はひとつ。 彼女を、学校へ連れて行くこと。 騒動になれば退学。 体育祭までに通わせられなくても退学。 成功率ほぼゼロの無理ゲーだ。 距離は近い。 でも、心は遠い。 甘えてくるくせに、本音は隠す幼馴染。 それでも―― 俺は彼女の手を引く。 退学リミット付き登校ミッションから始まる、 国民的スター幼馴染とのドタバタ青春ラブコメ、ここに開幕。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

拝啓~私に婚約破棄を宣告した公爵様へ~

岡暁舟
恋愛
公爵様に宣言された婚約破棄……。あなたは正気ですか?そうですか。ならば、私も全力で行きましょう。全力で!!!

ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように

柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」 笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。 夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。 幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。 王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。

処理中です...