八代学園の変わり者たち

夏風邪

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第一章

第6話 怒れるゴリラ

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 筋肉で武装された太い腕を掴んで男を止めた橘は、そのまま腕を捻り上げて関節を極めようとする。
 しかしその前に腕を取り返した男はすかさず橘から距離を取った。

「テメッ、橘! お前はすっこんでろ!」

「うちの部長にあんま手荒なことしないでくださいよ」

 両者の身長にあまり大差はないがまるで違う体格をものともしない橘は、その気怠げな見た目と雰囲気のわりに実はかなり腕っ節が強い。
 それを昨年の経験から知っていた男は警戒を顕にする。
 都からすればウホウホと胸を叩いて威嚇するゴリラにしか見えないが。

「早乙女部長、そろそろ落ち着いてください」

 今にも飛びかかろうとしていた男を、今度はその後ろから現れた男が止めた。
 素早く腹に一発入れて体勢を崩し、腕を後ろに引いて立ち位置を入れ替えた。
 筋肉に阻まれることも織り込み済みで力を加減したであろう一連の動きにさすがの一言だ。なんとも手慣れている。

「毎度悪いな雨宮。どうしても乗り込まないと気が済まないって言うから」 
 
「いいや助かった。それにしてもお前も大変だねぇ」

「そろそろうちも『天文部に喧嘩売る部』とかに改名した方がいいかもな」

「ネーミングセンスゼロだな」

「…おいコラ桐野ォ! テメェはどっち側の人間だゴラァァ!!」

 恫喝のような怒声を向けられてもなおへらりと笑う桐野は、共に乗り込んできた仲間たちにテキパキと指示を出し、瞬く間に室内には天文部員とゴリラと桐野だけになった。


 そこら辺から椅子を引っ張ってきた二人は机を挟んで都の前に座る。
 居座るつもりの彼らに都は隠しもせずに深い溜め息を吐いた。

「それで、今回はどのようなご用件で? 冒険部さん」

 普通科三年、早乙女さおとめ剛士つよし
 普通科二年、桐野きりの颯斗はやと

 彼らは八代学園きっての謎部活・冒険部の部長と副部長である。


 都の態度が気に障ったらしい早乙女は顔を顰めてチッ、と舌を打った。
 ちなみに顔を顰めたいのも舌打ちしたいのもこちらのほうだ。

「……ったく、しゃーねぇな。今日は話し合いで勘弁してやるぜ」

 ゴリラよ、お前に話し合いができるのか。

 そう思ったのはなにも都だけではなかった。

「話し合いって……いったいどんな話し合いをご所望ですか。毎週のようにあなたがうちの部室に乗り込んできて荒らしに荒らして帰っていくだけの無駄な行為についてですか? それならぜひとも有意義なディスカッションにしたいものですね」

「オイなんだその言い方は。俺たちが一方的に害を与えてるだけのように聞こえんじゃねえか」

「それ以外に何があると?」

「そんな俺らを毎度毎度高笑いで返り討ちにしてんのはどこのどいつだよ!」

「はて、そんな粗暴な人間、天文部にいましたっけ?」

「テメッ、」

「部長やめましょう。あんたが雨宮に口で勝てる未来がまるで見えないんで」 

 勝手に熱くなり始めた早乙女が再び都に手を伸ばそうとしたのを桐野が止める。
 なんと頼りになる男か。だが桐野が止めなかったとしても都の隣に座る橘が制していたことだろう。机の下でピクリと右手が動いていたのを見逃さなかった。


 こうして天文部に害を為す外敵が現れた時、それに対応するのは決まって都と橘だ。

 都は部長だからだとして、橘を隣に置く理由としては様々あるが、やはり顔、力、頭脳、どれをとっても高性能だからというのがいちばんの理由だろう。

 あとはただ単に他の部員に対応させるには悪影響が過ぎるからだ。
 武藤は頭の中は凶暴だが基本はもやしだし、夏目は多少のサディズム傾向があるところにさえ目を瞑れば基本は聖母だし、花染にいたってはそもそも争うことを望んでいない。
 だから必然的に野蛮な外敵の相手はこの二人になる。

 ただ、都もれっきとした女なのだが、今更そこにツッコミを入れる者など敵にも味方にもいなかった。
 
「だいたい、あなた方が乗り込んで来なければ私たちだって手を出すことはないんですよ。正当防衛です」

「過剰防衛の間違いだろうがッ!」

「あれのどこが過剰防衛なんですか。薄力粉まみれにしたことですか? 水風船をぶつけたことですか? まさか祭りでゲットした吹き矢を放ったことを仰っているわけではないですよね? あれ吸盤ですよ。あなたの筋肉を前にすればただのかわいい防衛じゃないですか」

 武藤特製の水鉄砲を使用していない時点で十分な容赦だろう。
 あれはまた別の外敵対策のために用意しているものだ。多少手の早い冒険部だが、まだモラルなんて知るか精神で突っかかってくる野郎どもではないので、比較的攻撃力が低い手段を選んでいる。

「それに関しては先に手を出しているのは俺たちだから気にしなくていい。部長含め血の気の多い奴らが多くて悪いな」

「だからテメェはどっちの味方だコラ!」

 何かと脳筋が多い冒険部の中でも唯一まともな桐野。
 なぜこんな部にいるのかといつも疑問に思うし腹の中がまるで読めない狐男だが話が通じるから楽でいい。

「では根本的な話をしましょう。早乙女先輩」

「あ? んだよ」

「なぜそんなに天文部を目の敵にするんですか? 私たち、冒険部の皆さんに何かしました?」

 冒険部からの攻撃が始まったのは半年ほど前からだ。

 何かきっかけがあったわけでもない。
 まともに絡んだ覚えもない。
 にも関わらず、気づけば今のような状況になっていた。

 都からしてみればなぜそんなに突っかかってくるのか不思議でならなかった。


「…………あ゛? マジで言ってんのかテメェ」


 だが、そんなふうに思っていたのは都だけだったようだ。
 至極当然の疑問を浮かべる都に、早乙女の眉間には深々とした皺が刻み込まれた。

(うわ、すっごい顰めっ面。さすがゴリラなだけあって迫力が段違いだな……)

 まるで他人事のように早乙女にゴリラ判定を下す都だが、そういう顔にさせたのは紛れもない都自身だ。

「あんたは何か知ってる?」

「いや」

 橘にも反応を求めてみたが、案の定返ってきたのは否だった。
 
 示し合わせたように二人揃ってハテナマークを浮かべるその姿は、早乙女の怒りを煽るには十分過ぎるものだった。


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