八代学園の変わり者たち

夏風邪

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第一章

第8話 やはり元凶はこの二人だった①

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 机に広げてあったものを片付け、窓の戸締りをし、キャビネット類の鍵を閉め、忘れ物がないかをざっと確認。
 慣れた手順で帰り支度を済ませた都と橘は最後に明かりを落として部室を出る。

「帰るぞ」

「んー」

 外はまだ明るさが残るが校舎内だとやはり薄暗い。
 肝試し感覚を味わうにはまだ早いが、心臓の小さい人だと怖がるにはこれで十分だろう。
 生憎都も橘も心霊だのお化けだので怖がる質ではないのでこの程度の薄暗さではなんの恐怖心も煽られはしないけれど。


 外からは運動部の声が聞こえてくる。
 グラウンドの照明が点けられているということは今日はもう少し運動部が粘るようだ。

「それにしても今日もゴリラは煩かったわね。そろそろ出禁にすべきだろうか…」

「それで素直に自制してくれんならゴリラとか呼ばれてないだろ。あれは本物の脳筋だぞ」

「下手に知恵とか回されても面倒だけど、逆に超直情型脳筋も厄介ね」

「今度袈裟固めでも極めとくか」

「発言だけ見ればお前も脳筋だよ王子サマ?」

 一瞬でも早乙女と同じ括りにされたことに橘は眉根を寄せた。

 橘は王子顔のアンニュイ系イケメンとして、特進科でありながら芸能科の美形たちにも引けを取らない人気を誇っている。
 だから顔を顰めたところでその顔立ちの良さが半減することはない。むしろアンニュイな雰囲気をさらに際立たせているだけだ。

 顔のいい男に目がない旭をはじめとして女子生徒たちからは『無気力王子』などと言われているらしいが、常日頃の橘を知っていれば王子要素はまるでない。
 強いて言えば髪とか肌とか全体的に色素薄めで白馬が似合いそうということくらいなものか。あくまでもそう見えるというだけだが。

 そんな他称王子が柔道、空手をはじめとした各種武道の有段者であることを知っている者は少ない。
 そのスキルだけを見れば脳筋と言われて仕方なしのこの男。
 だが、その顔の良さだったり頭の良さだったりそもそも暑苦しいのが大嫌いな性格だったり、諸々の要素からこの男に脳筋という言葉は似合わなかった。

 だがもし今度ゴリラが襲来してきたときには上段回し蹴りくらいはしてもらうことにしよう。

「そういえば早乙女の言ってたあれ、覚えてたか?」

「ああ、きっかけのやつ? ゴリラは冬休み前だと言っていたけどあれは冬休み中の出来事ね。特進科の冬季講習で学校に来ていたときに部活中の彼らと遭遇したときのことだから。あれが初対面だったはずなのにほんとクソほどうるさかったわね」

「はっきり覚えてんのに知らないふりしてたのかよ」

「それをお前が言う? あのとき私がなんて言ったか当ててみなさいな」

「『冒険部って人生の冒険とかしてるんですか? 人生ゲームじゃダメなんですか? ああ、それとも校内の秘密通路とか隠されたお宝とかを探しているとか……それなら是非とも活動成果を聞いてみたいものですね。ふふ、総じてよく意味は分かりませんが頑張ってください』だったか? 早乙女も正確には覚えていないようだったな。根に持っている割には記憶力に乏しい気もするが脳筋だから仕方ないか」

「あは、やっぱり橘も覚えてるじゃん。しかも一言一句正確に」

「あれしきの煽りでまさかここまで長引くとは思わなかったけどな」

「私だってべつにそのつもりはなかったっての。ていうかあの時の橘の表情も相当煽ってたと思うけどね」

「知るか」

 早乙女に訊かれた際は二人揃って知らん顔を貫いていたが、その実当時のことはどちらもよく覚えていた。それこそ何かと気にしていた早乙女よりも正確に。
 この辺りに二人と早乙女の記憶力の差がよく顕れている。

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