亡国の悪魔は今日も嗤う

夏風邪

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第一章 魔法学校入学編

第4話 学生の本分

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 入学三日目。
 入学式を終え、自身の魔法属性も知った新入生たちが次に行うことといえば。


「本日は魔法歴史学から始めます。魔導師を名乗る上で、その歴史を知り、私たちがどのような力を扱っているのかについて知ることに意味があります。ではみなさん教科書を開いてください」


 授業である。


 いかにも教師らしい眼鏡をかけた堅物教師が教科書を持ち教壇に立つ。

 魔法学校だからといって授業は実技ばかりではない。
 魔法に関する様々な学問を学ぶ座学も一定数組まれ、知識と技術の両側面から立派な魔導師を育てようという学校側の教育観念がうかがえる。


 本日一発目の授業は魔法歴史学。
 文字通り魔法の歴史について学ぶ授業だ。

「魔法の起源は古く、この世界の創造とともに魔法は存在したと言われています。時代とともに魔法は発展し、今では広く知られる概念となっています。しかしそれに伴い、残念ながら魔法による各国の争いも勃発するようになりました。また、歴史上いまだに原因が解明されていない特異な魔法関連事件も複数存在します。みなさんにはその歴史を学んでいただくとともに…──」

 粛々と授業を進める教師の声に、本当に学校というものに来たんだなと今更ながらに実感したルベルであった。



 続いて二限目、基礎魔法学。

「魔法には『光』、『火』、『水』、『風』、『土』、『闇』の属性があることはすでにあなた方も知っていますね。この授業ではそれぞれの特徴を知るとともに、その美点や弱点、属性の相性を学んでいきましょう。魔具を使用すれば他属性の魔法を扱える魔導師はいますが、それは一握りの魔導師のみです。あなた方は自身の属性への理解を深めることでより良い魔導師へと成長していってください。では…──」

 堅物教師その2。
 ピクリとも表情が動かない女教師は、こうして淡々と授業を進めていった。



 三限目、召喚魔法学。

「魔法が使われるようになった当初から魔法属性は現在と同じく6つ存在したと言われていますぅ。しかし当時はですねぇ、そのほかに、基本属性とは異なる属性の魔法も確認されていたそうでねぇ。それは現在でも特定の魔導師のみが扱うことのできる希少な魔法───《古代魔法アポカリプス》と呼ばれるレア魔法が存在しちゃってるんですねぇこれが。この授業で扱う召喚魔法も《古代魔法アポカリプス》の一種ですが、この魔法だけは魔具による汎用性も高く、なんとラッキーなことに簡単なものだとみなさんでも扱えちゃうんですよぉ。では張り切って授業を進めていきましょー」

 堅物、堅物と続いてここで語尾が変な教師が来た。
 しかし先ほどまでの堅苦しさはまるでなく、終始ゆるい雰囲気の中授業が進められることとなった。


 午前は完全に座学で終わり、午後はそれに少し簡単な実技が混ざった。

 Bクラスは二番手のクラスとはいえさすがは一流魔法学校に在籍する魔導師だ。
 初授業らしくまだ簡単な魔法だったが、誰一人手こずることなく魔法を展開していた。魔法初心者ではないのだから当然といえば当然のことだが。


 授業を終え放課された生徒は思い思いに時間を過ごす。

 学校内に居残る者もいれば、さっさと帰路につく者もいる。模擬戦闘室で訓練に励む者もいれば、他クラス他学年の生徒との交流を図る者までいる。

 それぞれがそれぞれに有効的に時間を使っているのだから一人か二人、三人か四人くらいはなにやら怪しげなことを企んでいる新入生がいてもおかしくはないだろう。



 学校敷地内にある森にて。
 一応人目を避けるようにやや奥まった場所に、真新しい制服に身を包んだ四人の生徒がいた。
 
「ところでなに召喚させんだよ」

「うーん……魔物とか? 精霊の類でも面白そうだよね!」

「どっちも載ってるよ。他にも動物とかあるけど……やっぱり召喚対象は魔界か天界の生物が多いみたいだな」

 召喚魔法学の授業で配布された魔導書を片手に、レオンはパラパラとページをめくる。

「普通に考えんなら精霊じゃね? 今日の授業でも習ったしな」

「ああいいね。ぼくも精霊見たい」

「んじゃそれやってみよう!」

 レオンの持つ魔導書を参考に、少し開けた地面に他三人がああだこうだ言いながら魔法陣を描き始めた。


 事の発端は召喚魔法学の授業終了後、ルベルがポツリと漏らした「召喚魔法かぁ。ちょっと興味あるよね」という何気ない一言だった。
 ただの独り言のつもりだったそれをローズが耳聡く拾い、レオンがにっこり笑顔で魔導書を手に取り、アッシュが悪どい笑みで近づいてきた。

『なら試してみよォぜ。自習自習』

 こんなにも自習という言葉が似合わない人間も珍しい。
 そう思ったルベルだが、明らかに何かを企んでいるアッシュにローズとレオンも追随した。



 そして現在に至る。


 初めの一言を呟いたばかりになかば強引に連れて来られたルベル。これでも実は結構ノリ気で魔法陣を描いていたりする。

 基本的にこういう楽しいことは好きなのだ。
 にっこり笑ういつもの表情となにも変わらないために分かりづらいだけで、ルベルもなかなかに楽しんでいた。

「あ、アッシュそこの文字配列違う」

「ややこしいなオイ。魔法陣とか描き慣れてねーんだけど…」

「逆に魔法陣手書きする魔法なんてあんまないもんね」

「仕方ないだろ。召喚魔法は魔法陣が創成魔具の代わりなんだから」

 召喚魔法は基本六属性から逸脱した魔法───《古代魔法アポカリプス》に分類される魔法だ。

 《古代魔法アポカリプス》は基本的にはその属性を持つ魔導師しか扱えない希少魔法なのだが、その中でも稀に、創成魔具に加工することでその属性を持たぬ魔導師でも扱えるようになる。

 召喚魔法はそのうちのひとつだ。

 召喚魔法の創成魔具は、武器やアクセサリーといった身につけるタイプのものではなく、魔法陣を描くことによってその役割を果たすというのが大きな特徴だ。
 いちいち複雑な魔法陣を描かなければいけない手間はあるが、それをクリアし魔力さえ流せばほぼ確実に何かは召喚できる。
 
 ゆえに召喚魔法は《古代魔法アポカリプス》でありながら、基本六属性と近いところにある魔法と言える。
 
「よし、できた」

 慣れない作業に悪戦苦闘しながらもなんだかんだ完璧に描き上げた四人はその魔法陣を囲む。

 そして、はて、と首をかしげた。

「……え、誰が召喚すんの?」

「「「…あー……」」」

 召喚魔法を試すのはいいが、そういえば召喚主を決めていなかった。
 四人は顔を見合わせ、もう一度首をかしげた。

「そういやそこまで考えてなかったな。別にオレがやってもいいぜ」

「うん私もいいよ。てかやりたい!」

「そういうと思った。ルベルはどう思う?」

「うーん、きっとみんなお試し感覚だし、召喚しても契約するつもりはないよね。だったらわざわざ誰かひとりに召喚主を絞らせる必要はないんじゃない?」

「……んん? どゆこと?」

「ここはみんなで魔力を混ぜて召喚するのもアリじゃない、ってことだろ?」

「そういうこと」

 召喚魔法というのは、基本的には召喚主と召喚対象の一対一の取引だ。
 魔力によって対象を呼び出し、血液によって契約を成立させる。

 だが、召喚魔法は召喚主と召喚対象を直接的に繋ぐ魔法であるため、召喚対象が危険なもの或いは召喚主の力量以上の対象を召喚してしまった場合、召喚主に害が及んだり、最悪召喚対象に殺されてしまう可能性もある。

 というようなことを本日の召喚魔法学で教師が言っていた。

 軽い調子でさらっと説明されたためこれを重要視した生徒がどれほどいたかは定かではないが、つまりは死ぬ可能性を伴う魔法ということだ。

 今回はそのリスクを均等に負担し、何かあった場合に誰でも対処に移れるよう、四人の魔力を混ぜて召喚することが妥当だと考えたわけだ。

「あれ、でも複数人で召喚してもいいんだっけ? 魔力を混ぜるってことは新たなリスクも生まれるかもしれないって聞いたような…」

「うん。だからやってみるんだよ。なんたってこれ、”自習”らしいしね」

「ハッ、つまりはオマエが試してみてえってだけだろ?」

「ふふ」

「いいじゃんいいじゃん! やってみようよ!」

「どうせ授業ではこういうことやらないだろうし。どうなるか実験してみるのもいいかもな」

「そうと決まればさっさとやるか」

 要は全員革新派だったという話だ。

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