メイドは見た。

しゃもん

文字の大きさ
11 / 18

11.二人の日常と三人の王族

しおりを挟む
 王城・文官室――午後のひととき

「……なあ、ニー。」

「ん?」

「兄さんからの手紙、また来てたんだけどさ。」

 イチが封筒を手に、眉をひそめる。
「“ナナ姉さんのこと、どう思ってる?”って。  
 “困ってるなら、兄としてできる限りの助言をする”って。」

「うちにも来た。“最近、ナナ姉さんと話す機会はあるか?”って。」

「……なんで兄さん、そんなにナナ姉さんのこと気にしてんの?」

「さあ……まさか、ナナ姉さんが兄さんに何か言ったとか?」

「うーん……。」

 二人は顔を見合わせ、同時にため息をついた。

「……とりあえず、返事は“普通です”でいいよな?」

「うん。“特に問題ありません”って書いとこう。」

 実兄の心配をまったく理解できない二人がここにいた。


  * * *  

 王城・地下牢――夕刻

 冷たい石の壁に囲まれた牢の中。  
 王の異母兄は、鎖につながれたまま、静かに座っていた。  
 その前に立つのは、王とセリナ王女。

「……なぜ、そこまでして王になろうとした?」

 王の問いに、異母兄はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「……母のためだ。」

「……」

「私の母は、側妃だった。  
 正妃の子であるお前が生まれた時、  
 父の目は完全にお前に向いた。」

「……」

「母は、それが許せなかった。  
 “あの女の子が王妃になったから、私たちは捨てられた”と、  
 毎晩のように私に言い聞かせた。」

 セリナが目を伏せる。
「……あの人、そんなに……」

「優しさなんてなかった。  
 愛されなかったことを、私にぶつけていた。  
 “お前が王になれば、すべてが報われる”と、  
 私に言い続けた。」

 王は静かに目を閉じた。
「……それでも、兄上は母上を愛していたのですね。」

「……ああ。  
 だから、私は王にならなければならなかった。  
 それが、私の“存在理由”だった。」

 しばし沈黙が流れた。

 やがて、セリナが懐から小さな銀の瓶を取り出した。

「……これは?」

「毒入りのワインよ。」

 異母兄が目を見開く。
「……私に、これを?」

「ええ。あなたの処刑は、まだ発表されていない。  
 もし、これを飲めば――“病死”として処理される。」

「……」

「王家の血を引く者として、  
 民の前で晒されるより、  
 静かに幕を引く方が、あなたにとっても名誉でしょう?」

 異母兄はしばらく黙っていたが、やがてふっと笑った。
「……哀れみか?」

「ええ。哀れみよ。  
 でもそれは、あなたが“兄”だから。」

「……やはり、王はお前がなるべきだったのではないか?」

「それは、私が一番思ってるわ。」

「なら、なぜ――」

「だって、王になったら、好きな男を伴侶にできなかったもの。」

「……自己中だな。」

「自覚はあるわ。」

 セリナはさらりと微笑んだ。

 王は思わず吹き出しそうになり、咳払いでごまかした。
「……姉上、もう少し言い方を……」

「事実でしょ?」

 異母兄は、そんな二人のやりとりを見ながら、  
 かすかに目を細めた。

「……あの頃の私たちに、  
 こんな未来があるなんて、思いもしなかったな。」

「私たちは、変わったのよ。」

 王はそのまま何も言わずに姉を連れて、出ていった


 異母兄は、銀の瓶を見つめたまま、しばらく身動きしなかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

婚約破棄?それならこの国を返して頂きます

Ruhuna
ファンタジー
大陸の西側に位置するアルティマ王国 500年の時を経てその国は元の国へと返り咲くために時が動き出すーーー 根暗公爵の娘と、笑われていたマーガレット・ウィンザーは婚約者であるナラード・アルティマから婚約破棄されたことで反撃を開始した

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

私が……王太子……のはずだったのに??

#Daki-Makura
ファンタジー
最愛と朝を迎えたら……城下が騒がしい……?? 一体……何が起きているのか……??

ギルドの受付嬢はうごかない ~定時に帰りたいので、一歩も動かず事件を解きます~

ぱすた屋さん
ファンタジー
ギルドの受付嬢アイラは、冒険者たちから「鉄の女」と呼ばれ、畏怖されている。 絶世の美貌を持ちながら、常に無表情。そして何より、彼女は窓口から一歩も動かない。 彼女の前世は、某大手企業のコールセンター勤務。 営業成績トップを走り抜け、最後には「地獄のクレーム処理専門部署」で数多の暴言を鎮めてきた、対話術の怪物。 「次の方、どうぞ。……ご相談ですか?(クローズド・クエスチョン)」 転生した彼女に備わったのは、声の「真偽」が色で見える地味な能力。 だが、彼女の真の武器は能力ではなく、前世で培った「声のトーン操作」と「心理誘導」だった。 ある日、窓口に現れたのは「相棒が死んだ」と弔慰金をせしめようとする嘘つきな冒険者。 周囲が同情し、ギルドマスターさえ騙されかける中、アイラは座ったまま、静かにペンを走らせる。 「……五秒だけ、沈黙を差し上げます。その間に、嘘を塗り直すおつもりですか?」 戦略的沈黙、オウム返し、そして逃げ場を塞ぐイエス・セット。 現代のコールセンター術を叩きつけられた犯人は、自らその罪を吐き散らし、崩れ落ちる。 「あー、疲れた。一五分も残業しちゃった。……マスター、残業代三倍でお願いしますね」 これは、一歩も動きたくない受付嬢が、口先だけで悪を断罪し、定時退勤を目指す物語。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

旧王家の血筋って、それ、敵ですよね?

章槻雅希
ファンタジー
第一王子のバルブロは婚約者が不満だった。歴代の国王は皆周辺国の王女を娶っている。なのに将来国王になる己の婚約者が国内の公爵令嬢であることを不満に思っていた。そんな時バルブロは一人の少女に出会う。彼女は旧王家の末裔だった。

処理中です...