誤解(ごかい)の上は六階!

しゃもん

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20.なぞ

 やつれた様子で聖剣で消された泥道を歩く二人と先頭を意気揚々と聖剣で切り開く克也かつやと彼が背負っている負傷兵の四人は順調に下山していた。
 ちょうど山を降りて平坦な場所を歩き始めた所で後ろを歩いていたシェルが克也かつやを呼び止めた。

「ショウ。この辺でその負傷兵を降ろして頂戴。」
 克也かつやはシェルに言われた通りに傍に会った岩の上に片腕の兵士を降ろした。
 克也かつやが背負っている間に何度か意識を取り戻していたようだがハッキリと覚醒した様子はなかった。
 そんな負傷兵の心臓の辺りにシェルは右手を当てるとその手が淡く光り出した。
 数分後にその淡い光が治まると負傷兵が岩の上に体を起こした。
「ここは?」
 キョロキョロと周囲を見回す負傷兵は見習い兵士の制服を着ている克也かつやと魔術師団の制服を着ている美野里みのりの二人に気がついて目を丸くした。
「傷はもう痛まないでしょう。意識もハッキリしたわね。」
 シェルの質問に若い兵士は頷くと岩の上から降りてその場に立ち上がった。
 すぐに失った腕に気がついて残念な顔をしながらも咄嗟に腰の剣に手を伸ばした。
「これでしょ。」
 それに気づいた美野里みのりが空間から彼が持っていた剣を出して渡した。
「ありがとうございます。あの助けてくれたのは?」
「もちろん私よ。」
 シェルが若い兵士の肩を掴んだ。
「そうでしたか。ありがとうございます。」

”おい、シェル。どちらかというと助けたのは俺達のような気がするんだが。”
 克也かつやが横にいたシェルを小突いた。
”あら、なら克也かつやが私の相手をしてくれる?”

 シェルの問いかけに克也かつやは負傷兵を素直に売った。
 自分と他人なら克也かつやは自分の尻が大事だった。

 負傷兵はシェルにお礼を言った後、落ち着きなく辺りを見回した。
「どうかした?」
「あのー俺以外の人間は・・・。」
 シェルは負傷兵の疑問に首を横に振った。
「そうですか・・・。」
「まあ気にしない事ね。彼らが食べられてくれたおかげであなたは助かったんだから。」
 シェルは腰に片手を当てもう一方の手を顔の前でヒラヒラさせた。
「おいシェル。」
 たまらず克也かつやが小声でシェルを諌めた。
「あら、本当のことよ。」
「そうかもしれないが言い方があるだろう。」
 克也かつやが今度も声を潜めるがシェルはそれに構わずその負傷兵に追い討ちの言葉を紡ごうとした。
「あなたが言いたいことはわかっています。なんでこんなところにいたのかですよね。でもこれも上官からの命令で俺達は食糧確保の目的で北の砦を出ました。」
「あら逃げたわけじゃないの。それに普通砦では最低一か月の食料は備蓄するのが原則のはず。それなのになんで食料確保が必要なの?」
「俺達は王都からの出向組でその辺は地元組が取り仕切っているのでよくわからないんですが一部の食糧庫が魔獣に襲われたようでこの山脈を抜ければ町までそれほどかからないとのことで食料確保の命を受けて山越えをしているところだったんです。」
「確かに山越えすれば平地をゆくより早いけど平地を行く方が安全でしょ。」
「今の状況はわかりませんが俺達が砦を出る時は山側以外は魔獣がいてとても通れるような状態じゃなかったんです。」
「あれだけ私たちが倒したのにまだいるってどういうこと?」
 シェルは美野里みのりの耳元で小声で囁いた。
「なにか魔獣の発生源がその北の砦近辺にあるのかも・・・うーん。」
 美野里みのりが真剣に悩み始めるとそれを聞いたシェルが彼女の思考を一刀両断した。
「なによそのゴキブリの巣があるみたいな言い方は。」
「ゴキブリって・・・。なんだか黒くて光っていて・・・あああやだやだ変なこと思い出しちゃったじゃない。もうどっちでもいいわ。現場に着けば判断できるから。」
「まあそうね。」
 シェルはそこで美野里みのりとの話を終えるとこっちを見ていた若い兵士に北の砦まで案内するように言うと四人は歩き出した。
 歩きながらもシェルは若い兵士に色々話しかけていた。
「そう言えばあなたたち意外には山越えして来た人間に出くわさなかったんだけど他にも食料調達に出たメンバーはいたの?」
「ええ、俺ら王都組以外に2グループほどが逆の裏側の崖から地元組が山越えしてるはずです。そっちは険しすぎなので俺達にはとても無理だったので慣れたメンバーが行ったはずです。」
「慣れたメンバー?」
「ええ、この辺りの人間は兵役期間以外は結構山に入って食料調達とかするんで慣れてるようですよ。でもさすがに崖なんで逃げられないっていうのもあってそっちには魔術師が何人かついていったはずです。」
 シェルと後ろから歩いていた美野里みのりは若い兵士の爆弾発言に絶句していた。
 ”なに?”
 克也かつやはかなり驚いている美野里みのりに念話で理由を聞いた。
 ”何ってこの山を越えようっていうのに一人も魔術師を連れて行かないなんてある意味自殺行為だから。”
 ”えっ、だって魔術師はこの山で魔法使うと気を失うんだろ?”
 ”雪がたくさん積もっている所で使えば確かに気を失う可能性があるけどさっきの彼らがいたようなあまり雪のないところなら平地よりは消耗してもそれほどでもないはず。それなのに・・・。それに魔獣に遭遇した時は魔術師がいるといないとでは天地ほど状況が違うのはわかりきっているのになんで・・・。”
 克也かつや美野里みのりの説明に黙って耳を傾けた。
 そうするとなんで彼らの上官はそんな采配をしたのだろうか?
 克也かつやが何とも言えない違和感に首を捻っているうちに北の砦が見えてきた。
 遠くからでも堅牢な石造りの障壁や分厚い鉄で出来た城門が目を引いた。
 彼等は一旦砦を見下ろす位置にある斜面から砦の周囲を見回した。
 見ると確かに山側には白い雪が被っていてそこには魔獣がいなかった。
 それに対して反対側にはかなりの数の魔獣が山側の雪がないところまで埋め尽くしていた。
「まだあんなにいるなんて・・・。」
 若い兵士は砦の周囲にいる魔獣に唖然とした表情で固まっていた。
「シータ、何かわかる?」
「さすがにこの距離では・・・。でも靄っとした感じと強烈な圧迫感をあの魔獣の群れの後方から受けますね。」
「そうね。やっぱり砦に行くしかないわね。でもどっちから行く?」
 シェルは雪がない魔獣の群れに視線を向けた。
「はぁあ何言ってるんだ。当然魔獣の群れがいない雪が降り積もっている場所からだろ。」
 克也かつやがシェルと美野里みのりの会話にいきなり割って入って来た。
 克也かつやとしてはこれ以上ここで戦闘なんかしたくないというのがヒシヒシと感じられたが美野里みのりとしては不自然な雪の降り積もり方の方が気になった。
「ちなみになんで砦の山側だけ雪が降り積もっているの。普通こんな山裾のそれも片側だけに霊峰山の雪なんか降り積もらないでしょ。」
「ああ、それなら簡単です。魔獣の群れに襲われた時魔術師たちが総力を挙げて風を起こして山からの雪をここに運んだんです。それで魔獣の群れが襲ってきた時外に出ていた兵士たちを助けたんです。」
 シェルと美野里みのりはこの説明に同時に若い兵士を睨み付けた。
「「誰が命令したの?」」
 若い兵士はダジダジになりながら北の砦にいる辺境伯の命だと話してくれた。
「それじゃもう一つ質問ね。今北の砦にいる魔術師は何人いるのかしら?」
「えっと俺が出てくる時は全員がこの山越えに出払ったはずなので・・・。」
「一人も残っていないってわけね。確か辺境伯の領地ってこの山の反対側じゃなかったかしら。」
 シェルの言葉に若い兵士は頷いた。
「それで辺境伯も責任をとって食料調達メンバーに加わったりしてない。」
 若い兵士が素直に頷いた。
 ”おい、それってまさかこちらを囮に・・・”
 克也かつやがイヤな結論に思わずシェルを振り返った。
「ショウは雪がある方からその兵士を連れて砦に入って頂戴。」
 シェルは克也かつやにそう言い放つと右手に杖を出してそのまま山から飛び降りた。
「私もシェルと一緒にこのまま正面から行きます。」
 美野里みのりも同じように左手に”白の書”を出すとそのまま山から飛び降りた。

「おい。」
 克也かつやの呼びかけは見事に二人に無視された。
「仕方ない。俺達は無難に雪がある方から行こう。」
 若い兵士は山を飛び降りて行った二人を横目で見ながら克也かつやを雪がまだ残る砦の山側に案内した。
「あのぉーお二人は大丈夫でしょうか?」
「ああそれは心配ない。むしろ遅れていく俺達があいつらが起こす戦闘に巻き込まれる危険の方が高いな。」
「それってどんな危険なんですか?」
「まあ行けばなんとかなるよ。」
 お気楽な克也かつやの言葉にさらに不安が増した様子の若い兵士はこのままここにいたいと一瞬思ったがまた魔獣に襲われるのも危険には変わりないのでそれから黙って砦まで歩き続けた。

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