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17 王との謁見

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 翌日、私はケインが王都に持っている公爵家の別邸でメイにドレスを着付けてもらっていた。

 どうやら市民の間で王都の救世主として、私、ケイン、ブライアンの三人の名前が囁かれているようだ。

 このため王家が非公式に私たち三人と会うことを要請してきたらしい。

 私としてはセバスチャンとメリンダ、メイにも王家から何がしかの報奨を貰いたい気分だが、いかんせんそこは貴族社会ということで貴族籍ではない3人は候補にも挙がらなかった。

 平民の三人に報奨を与えることはやはり難しいのだろうか。
 もっとも下手に報奨をもらうと、やっかんだ貴族が何か仕掛けてこないとも限らない。
 それはそれで三人にとっては危険が伴うことになってしまう。

 私がこんなことを考えているとメイが声をかけてきた。
「お嬢様、いかがですか?」
 メイが私の黒髪を綺麗に結い上げてくれた。

「ありがとうメイ。」
 メイは嬉しそうに私にうなづいた。
「お嬢様、とても素敵です。」
 そこにタイミング良くドアがノックされた。

「どうぞ。」
 私の声にケインが中に入ってきた。

「とても綺麗だ。レイチェル。」
 なんともウットリする声でささやいてくる。
 思わず腰が抜けそうになった。
 きれいなのはケインの方のように気がする。

 透き通るような銀色の髪に美麗な顔、それに公爵家の正装がピタリと映え、物語の中にいる主人公そのものだ。
 私が呆けた様子で見ているとケインがすっと手を差し出してきた。

 私は慌てて差し出されたその手に手を添えた。

 ケインに促され、私は階段を降り正面玄関に横付けされた馬車にそのまま案内された。

「「「「いってらっしゃいませ。」」」」
 大勢の使用人に見送られ、馬車に乗って王城に向かう。

 いよいよ、これからが本当の大勝負だ。

 これを機会に公爵家の時期継承権を取り戻し、絶対に父をぎゃふんと言わせるんだ。
 私は自分の手を固く握った。

 その私の手をケインが横からそっと包み込む。
「あのー。」
 私は突然のことにドギマギして思わずケインを見た。

「何か不安なことがあるのですか、レイチェル。」
 油断していたらいつの間にか肩を抱かれ、ケインの胸に顔を埋めていた。

『ちょっとこの状態は一体何。私は今まで何考えてたの。』 
 
「あのー。お願いですから手は離してください。もう大丈夫ですから。」
 私は必死にケインに離してくれるようにお願いした。

 ケインは上から私の顔にニッコリ笑いかけると、
「まだ王城までは時間がかかりますから、このまま眠っていても大丈夫ですよ。」

『このケインの胸に抱かれた状態で眠れってなんの拷問ですか。そんなこと無理です。』
 私がびっくりして顔を上げると、ケインの美麗な顔から天使の微笑が放たれる。

 腰が抜けそうだ。

 結局、私はケインの顔を直視できずにそのままケインの胸に顔を埋めたまま、王都まで馬車で運ばれた。

「レイチェル、起きて下さい。 王城に着きますよ。」

「えっ、王城?」
 私はケインの胸に抱かれたままどうやら寝てしまっていたようだ。

『なにやってんの、わたし。』

「あのー。」
 私はどうしていいかわからず、ただケインの顔を見た。

「レイチェルが安心して寝ている顔が見れて、とても幸せな気分でしたよ。」
 ケインはそう言うと私の頬にキスをした。

「えっ。」
 私の頭の中が真っ白になった。

 何、今の頬にチュッて・・・。

 チュッっていう音がして、頬に温かいケインの唇の感触がして・・・えっと・・・。

「レイチェル。」
 ケインはフリーズしている私を抱き上げると馬車を降りていた。
 周りにいた貴族たちが好奇心、満々にその様子を見ている。

 先に来ていたブライアンが近づいて来た。
「レイチェル嬢はどうしたんだ。ケガでもしているのか?」
 ブライアンが心配してケインに尋ねている。

「なんでそうなる。」
 ケインがブライアンを睨んだ。

「なんでって、じゃあなんでお前が抱いて歩いてるんだ。」
 ブライアンが今の二人の状態を目線で示した。

「何か問題があるのか?」

「いや、問題ありまくりだろ。」
 ブライアンがケインに突っ込んだ。
 現にレイチェルは周りの女性たちから刺すような目線で見られている。

「だから何が問題なんだ。」

「何がって。」
 ブライアンとケインが言い合っているうちに謁見の間の控え室に着いていた。

 控え室に着いたのでケインは渋々といった様子で腕からレイチェルを降す。
「立てますか、レイチェル。」

「えっ、ここどこ?」
 私はやっと我に返った。

「謁見の間の控室です。」
 ケインは耳元で囁くように説明する。

「えっ!でもさっきは馬車の中だったような。どうやって私ここに来たの?」

「気にする必要はありませんよ。」
 ケインは甘くささやく。

『いや、気にする必要があるだろ、そこは。
 ケイン、お前、馬車の中でレイチェル嬢に何してたんだ?
 よもや世間様に見せられないようなことをしてたんじゃないだろうな。』
 ブライアンはケインに疑いの眼差しを向けた。

 そこにこの国の宰相であるレイチェルの父が遅れて入って来た。
「レイチェル。」
 私が父に視線を向けた時、ちょうど謁見の間の扉が開いた。

 侍従長が促す中、私たちは王と王妃の前に進み出てその場で礼をする。

「顔を上げよ。」
 王から声がかかる。

「今回の魔獣討伐は大変見事であった。それを称え、ここでそれぞれ望みのものがあれば余の力が及ぶ限り、叶えよう。」

 王はケインを見た。
 ケインは私を見た。

「ではレイチェル嬢よ。望みがあれば言うが良い。」
 私は息を吐くと王の目を見つめた。
「恐れながら、どうか私が公爵家を継承することをお許しください。」

 王はレイチェルの父である宰相を見た。
 父である宰相は王の前なのでそのまま頭を下げたまま否定的な言葉は言わなかった。

「うむ、許可しよう。」

「ありがとうございます。」

『やった。これで公爵家を継承できる。』

「では次にブライアン、そなたの要望を聞こう。」

「はっ、私は特にこれと言ってありません。」

「うむ、そのなたの無欲な心に何も答えんわけにはいかないな。ブラアイン、そなたに伯爵の爵位を授ける。」

『へっ、なんで俺、今より高い爵位をもらわにゃならんの。』

「ブライアン、気に入らないか?それではもっとたか・・・。」

「はっ、ありがとうございます。」
 ブライアンはもっと高い地位をと言われる前に慌てて感謝の意を述べたが心の中では号泣していた。

『俺の気軽な三男生活がぁー。なんでこんなことに・・・グ・・・。』

「うむ、最後にケイン。おぬしの望むものを述べよ。」

「はい、ではどうかレイチェル公爵令嬢との婚姻の許可をお願いします。」
『はい?なんかコンインとか聞こえたけど聞き間違いかしら?』
レイチェルは聞きなれない言葉にフルーズした。

「なんと申した、ケイン。」

「婚姻の許可をお願いします。」
 ケインは王を見て頭を下げた。

「ケイン。知っての通り、公爵家同士の婚姻は許可出来ない慣習を知っておろう。」

「ですので私がアインハルト公爵家から出て、ツバァイ家に婿入りします。」
 あまりのことに周りが騒然としている。

「お主、公爵家の継承から外れるというのか? アインハルト家はどうする。」

「優秀な弟がいますので何も問題ありません。」
 ケインはきっぱり言いきった。

「それほどにこの婚姻を望むか、ケイン。」
 王は再度、ケインに問い質した。

「はい。」
 ケインは今度は王妃の目を見て言いきった。

「まあ、すてき。物語のようだわ。好きな人の為に爵位を捨てるなんて。」

『王妃様間違っています。公爵家の職位を捨てて、公爵家に婿入りするって爵位は変わっていないくないか?』
 ブライアンは心の中で突っ込んだが王妃のはしゃぎように無言を貫いた。
 
 王妃はそう呟くと王を見た。
「陛下。愛し合っている恋人同士を引き裂くなんて、そんな酷いことしませんわよね。」
 王妃は王に目線で詰め寄った。

 王は王妃にベタ甘だ。

「うむ、余は寛大である。許可しよう。」

「では、式はレイチェルが成人する一か月後にお願いします。」
 ケインはすかさず畳みかけた。

「まあ、電撃的ね。王都の再建祝いも兼ねて盛大にやりましょう。
 そうだわ。物語の二人の為に私が婚約発表の舞踏会を主催してあげましょう。
 とてもいい考えだと思いませんか、陛下。」

「うむ、王妃はいつもすばらしい。では皆のもの。さがるがよい。」

 ここで王との謁見が終了した。
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