魔法が生きる世界で

やっさん

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第一章 魔法が生きる世界

帰ってきたあの男

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【帰ってきたあの男】






ルイスにとってこの2週間は、とても平穏な毎日であった。
もちろん、任務のために幾つかの戦場には赴いたが、それは大して苦になるものではない。

むしろ日頃のストレスを発散出来る、最高の場所だと思っている
魔獣相手ならなおのこと、遠慮はいらないからな。

ルイスにとっての平穏・・・それはすなわち、一度たりともあの男と顔を合わせないことだ。


「あ、そういえば今日だよなルイス」
「・・・何が?」


隣では多種多様の料理がこれでもかと机にひろがっている。勿論、これは全部キリクが食べるのだ。1人で。

一方ルイスは、大好物のクリームシチューとサラダというチョイス。キリクからは、それじゃぁ足りないだろうと料理を押し付けられたが、拒否した。


「おいおい、なんだよルイス!お前が一番よく知ってるはずだろ?あの人が帰ってくるんだよ」
「あの人・・・・・・」


ルイスは暫く考える素振りを見せたあと、ハッと思い出した様子でキリクを見つめた。
そして彼にしては珍しく、あからさまに顔を歪ませていくのをキリクは目の当たりにする。


「・・・キリク、このシチューお前にやる」
「え、マジで?いいのかよ??」


ルイスはコクコクと何度も頷くと、机に掛けてあった上着を羽織り、そそくさと立ち上がる。


「・・・もしかしてお前、姿をくらます気が?」
「ちがう、ただの散歩だ・・・」


半分冗談で聞いたつもりだったが、ルイスの挙動不審な顔を見ればガチの逃亡だ。
・・・いや、これは長年付き合ってきたキリクだからこそ、彼の表情の変化に気づけたのかもしれない。

大好物のシチューなど気にもとめず、ルイスはスタスタと食堂を出ていく。


「・・・あの人から逃げられるとは思えねぇけど」


それは本人も重々承知していることだ。
それでも動かずにはいられないのだろう。


「健闘を祈るぜ、ルイス」


ほぼ無傷では済まないだろうと思いながら、ルイスが残したシチューをペロリとたいらげたキリクだった。









正直、どこに行けばいいの分からないのが現状である。
取り敢えず適当に広場を歩いてはいるが・・・なんだかだんだんと眠くなってきた。


(あの木の下にでも潜んでよ)


この軍事施設内で一番大きく、立派なこの樹木は季節に合わせて様々な顔を出してくれる。
例えば今は秋に近づいているから、色鮮やかな紅葉が楽しめる。


(あ、先着がいる)


やはりそこは兵達のたまり場になるみたいで、下級兵が数人ワイワイと賑わっていた。


「あ・・・!」


すると、一人の子がルイスと目が合った瞬間、さっきまでのお祭り気分など吹っ飛んで緊張感丸出しで敬礼してきた。


「お、お疲れ様ですルイスさん!!」


それにつられて、ほかの兵達もビシッと敬礼してきた。


「・・・あー、うん
お疲れ様」


適当に返事をしただけなのに、下級兵達は一瞬パァと嬉しそうに笑った。
月影軍の中でもルイスの名は知れ渡っており、彼に憧れる者も少なくはない。

本人はそれに薄々気付づいてはいるものの、あまり気にしていない様子だ。


「もしかしてここ、使われますか?」


ルイスは迷った。
確かにお昼寝場所としてはここはうってつけだが・・・わざわざどいてもらうほどでもない。
そう思い、ルイスは右手をヒラヒラとふった。


「いや、いいよ。
君達か使いな」


よくよく考えれば、こんな開放された場所にいてはよけいに見つかってしまう。
名残惜しいが、他の場所を探すしかない・・・
しかしそれは、彼らの声により阻まれた。


「そんな、僕達はそろそろ任務がありますのでどうぞ使ってください!!」
「・・・・・・」


キラキラと目を輝かせながら、自分達がいた場所を促す下級兵達。


「・・・あー、じゃあ遠慮なく・・・」


流石のルイスも、無情に断るわけにもいかず、木の幹もたれかかった。
未だに他人から向けられる「尊敬」の眼差しは慣れない。

嫉妬や恨みの視線ならば、軽く流せるのだが・・・


「じゃ、じゃぁ自分達はこれで失礼します!!」


そう言ってそそくさと建物の方へ走り出した彼らを眺めながら、ルイスはふと思った。


(俺・・・下級兵の頃、あんなに年上相手に丁寧に接してたっけなぁ)


答えはもちろん、否である。
ルイスの根本的な性格は昔と全く変わっていない。
むしろ年々酷くなっているのが現状だ。

それでも周りがルイスから離れないのは、彼の今までの実績や実力によるものであろう。
それに彼の性格からして、自分の能力をひけらかすようなことはしない。


「ふわぁ~眠ぅ」


心地よい風がルイスの肌を包み込む。
この季節にしては、とても暖かく快適な温度だ。
まさに、外のお昼寝にはもってこいだ。

ルイスは一度、周囲に嫌な気配がないか探ってみたが、今のところ睡眠を邪魔する輩は近くにいない。

腰に刺してある刀を鞘ごと抜き、腕に抱え込む。
これはいざという時に、瞬時に対応ができるようにするためだ。

しかし、ルイスからしてみればこれはかなり警戒心を解いた状態でもある。
もし只ならぬ気配を感じたらすぐに目を覚ますし、危機管理能力は万全だ。


(んじゃ、少しの間眠らせていただきますー)


ルイスはゆっくりと、スカイブルーの瞳を瞼に隠した。









ルイスが眠る樹木には、誰も近づこうとはしない。
なぜならそこは、今やルイスの安眠場所であり、一目でも彼の姿を捉えれば彼の妨害などしようとは到底思えないからだ。

幾多の戦場を潜り抜け、周りの同年代と比べるとかなり大人びた雰囲気を醸し出す彼が、年相応の素顔を見せるのはこの時だけ。
ほんの少しの無邪気さと、生まれ持った美しい顔立ちのコントラストに魅了される者は多い。




パキッ…




だがそこに、一つの影が無遠慮に足を踏み入れた。

安らかな眠りなど気にもせず、堂々と足を進めるそれは、しかし不思議と誰も気づかない。

存在感の塊がすぐそこにあるのにも関わらず、一切の気配を断ち切り、ルイスへと近づいていく。


「お、おい・・・あれはもしかして・・・・・・!」
「わぁ、いつの間に!」


周りが気づいた時には、すでに樹木の真ん前にいた。


「・・・!!?」


流石のルイスもその異変に気づき、目を覚ます。
そして瞬時に刀を構え、鞘から引き抜こうとした
しかし・・・


「遅せぇよ」
「なっ!」


しかし、時すでに遅し。
ルイスの前に現れた巨大な影は、ルイスが掴んだ柄のテッペン・・・頭かしらと呼ばれる部位を掌で抑えた。


「よォ、ルイス・・・久しぶりだなぁ」
「・・・・・・グレン、隊長・・・・・・」


そう彼こそが、若くして月影軍大将に上り詰め、黒竜の隊長をも務める男・・・・・・
そしてルイスが最も警戒していた人物・・・


「ちょいとお前、ツラ貸せや」


炎の如く真っ赤に燃えるその瞳からは、決して逃れることは出来ない。




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