化け物公爵と転生令嬢の事情 〜不遇からの逆転〜

長船凪

文字の大きさ
16 / 16

16 誓いのキス (最終話)

◆◆◆  ウィステリアサイド ◆◆◆

 他国の貴賓を招いていたのに狩猟大会はあのような大騒ぎとなった。

 婦人のテントまで魔獣がやってきたのは魔獣を呼び寄せる魔核を近くに埋めていたらしいと判明した。
 捜査の結果、伯爵家とそれに共謀する貴族の仕業で皇帝はその責任を取らせることにしたし、それに加えて伯爵家は公爵と公爵夫人を害そうとした罪も加算で、皇帝命令で家屋敷、領地を没収というか、私の保有財産としてくれた。

 イレザは娼婦の館に送られ、母親は戒律の厳しい修道院に送られ、伯爵は片腕を凍傷で失った後にギロチンにかけられ、伯爵と共謀した貴族も処刑された。

 他国の賓客のいる場所であのような騒ぎを起こすから、助からないわ。
 私が連座で処分されてないのは、既に公爵家に嫁いでいたからだ。


 * * *

 事が済んでから、私は伯爵邸に戻った。
 一時帰宅だ。
 お供は護衛騎士二人とメイド一人。


 私は私のというか、ウィステリアの髪を一房切って、それをリボンで束ねて、乳母の形見の真珠のネックレスと同じ壺に入れ、伯爵家の裏庭にあるウィステリアの花の下に埋めた。

 墓石の代わりの花の下に。

 ここはウィステリアと乳母の思い出がある場所のようだったから。

 この作業が終わってから、私はエドから預かっていた移動スクロールで公爵領に飛んだ。

 すると公爵城の敷地の中にあるやや小さめのパルテノン神殿のような場所に出るわけなんだけど、
 あの、ゲームで言うならワープスポット的な場所。


「あら? お嬢様、見てください! アーチに花が!」

 庭にウィステリアの花が咲いている!
 ついに公爵領にも春が来たのね!


「わぁ、綺麗……」 
「奥様、お気に召しましたか?」


 エドが迎えに出て、私に声をかけてきてくれた。


「ええ、これを用意するのは大変だったでしょうに」
「あなたの、花嫁の歓迎の花です。春の遅い土地ゆえ、遅れましたが」

 花嫁って……妻のベッドにも来ない男が、なにを言っているのか。


「その顔は、ベッドにも来ない男が何を言っているのかと考えていますね」
「うっ!」

 エドは苦笑し、人払いをして、私を藤の花の下にエスコートして行った。


「あはあ、そうだ、あなたの本も出来てきましたよ」

 上着の内側から手品のように一冊の本が出て来た!

「わあ! ほのかの本! ありがとうございます! これで彼女の物語を忘れずに済みます!」
 

 何故かエドは、ここで寂しそうに笑った。
 

「……先程、何故心のうちがバレたんだと思ったでしょう?」
「え? ああ、まあ、私ったらよほどわかりやすい顔でしたか?」

「そろそろフェアではないので、私の真実をお話します。私が化け物と呼ばれる真の理由です」
「え?」

 その時、ざあっと風が吹いた。


「私には己が望む望まないにかかわらず、近くにいる者の心の声が聞こえてしまうのです」
「!!」

 ━━確かに、腑に落ちた。
 エドの側には大人はほとんど近寄ろうとしない、本当に必要最低限しか。


 サトリサトラレの、サトリ能力を、持っていたのね!!
 あ、だから汚職貴族やスパイのあぶり出しも容易にできるんだ!!
 それは皇帝にも重宝されるわけね!


「どうです、不愉快で恐ろしいでしょう? 貴方を怯えさせると思い、今まで言えずにすみませんでした」
「恐ろしいというか……それは大変でしたね」
「え!?」


 予想外の反応に戸惑っているな。


「人間の多くは醜く愚かで、さぞ辛かったでしょう」
「あなたも、怖いでしょう?」
「怖いというよりは、やや恥ずかしいですね。
あのメイドおっぱい大きいなーとか、思ったら即バレるんでしょう」
「そ、そうです」


 私、きっと急にいろんな事がありすぎて、感覚が麻痺してきたんだと思う。


「でもそれであなたが安心できるなら、それでもいい気がします」
「ええっ!?」
「エド、私はあなたの敵ではありません」


 ◆◆◆ エドラールサイド ◆◆◆

『私はずっとエドの味方です。家族ですから』

 彼女の心はそう告げている。 
 真っ直ぐに告げてくる。

 そして元から彼女はかなり明けすけな性格だ。
 思ったことをすぐ口にする。


「逃げたくはないのですか?」

 こんな化け物から……。

「どうして? こんなに素晴らしい贈り物をくださったのに?」
「!!」

 彼女は親友の本を大事そうに抱えて、ウィステリアのアーチの下で本当に嬉しそうに微笑んだ。

 花の妖精の如くに。
 そしてその心より、偽りの言葉も聞こえない。


「あっ! 猫ちゃん!」

 気がつくと白い猫がウィステリアの足元にいた。

『かわいい!! 撫でていいかな?』

「あの時の……夢に出た白猫に似ている」
【そうだとも】

「え!? 猫が喋った!?」


 !!


【ああ、そなたにはいつぞやは我が眷属が世話になったな】
「え?」
【前世の猫と交通事故】
「ああっ!!」

【あれは幻のようなものだったのに、そなたは車の側で神の眷属たる猫霊を偶然見つけ、助けようとしたせいで運悪く事故で死んだ】

「はっ! 神!? 私は無駄死にしたってこと!?」
【そのようなものだな】

「あーーっ! 私はアホか!」
【だが猫に優しい女だったゆえ、新たな生を与えることにした】
「え!? それでなんであんな地獄のような家に!?」


【ウィステリアは実は無能ではなかった】
「え?」
【魔力無しと罵られていたが、あの娘には特別な豊穣の加護があった、植物に愛され、幸運を呼ぶ存在だった】

「それでなんで伯爵家はあんな事に!?」
「古の文献で読んだ事がある。ウィステリア嬢は、幸運の……女神の祝福を持つ者だったのか?」
【そう、それを粗末にするから伯爵家は没落。いや、破滅したのだ】


「なんですって!?」

【祝福の加護は受け取り側に問題があると発動しないのだ。ちなみにウィステリアがバルコニーから飛び降りた時に木の枝が助けようと伸びた、だが、心、魂までは救えなかった】


「……なんとかならないの?」
「流石にとうに飛び去った魂はもうどうしようもないだろう」
「あ、ちょっと待って、狩猟大会で見た藤の花はもしや」
【魔獣からウィステリアを守ろうとした】

「なるほどな」

【前のウィステリアには申し訳ないことになってしまったが、その代わり来世は家柄よりも善良な両親の元に産まれる事を保証し、今ここにいるウィステリアは公爵領に豊かさをもたらせるだろう】

「マ!?」
【マジだ】


 そう言って、猫は姿を消した。
 幻のように眼の前から掻き消えたのだ。

 そして、その翌年の春に、本当に祝福はあった、アメジストとダイヤモンドの鉱山が我が領地から出たのだ。

 これで領民の暮らしももっと楽になる。 

 彼女の望むとおりに海ではカニやホタテも獲るようにして、地元でも大好評で観光名物にもなり、電卓も完成して、書類仕事も楽になったし、その魔道具の売り上げもかなりのものだ。


「よかったですね! ところで私のクローゼットに売却したはずのウェディングドレスがいつのまにか戻っていたのですが」

「君は自分の持ち物が少ないと、だからそれもある意味記念品のようなものだろうし」

 私がゴニョゴニョと言い訳をすると彼女はニンマリと笑い、とある提案をしてきた。

「せっかくドレスがあるし、もう一回結婚式からやり直しをしませんか?」

『初夜もね! そろそろいいでしょ!?』


 !!

「まいったな……君にはかなわないな」
「私の世界の幸せな物語だと、セオリーなんですよ!」

 頬を染めつつも、君の世界の物語を語ってくれる。

「ああ。私の幸運の女神の言う通りにしよう」


 ウィステリアの花がまた咲く頃に、結婚式からやりなおそう。


「はい、ここで、キッスですよ?」

『恥ずかしいから早く!』

「お望みのままに……」


 君という存在を知ってから、世界は眩ゆいばかりの光に満ちて、失う事が極端に怖くなった。

 けれど、偽りのない心を注いでくれる君を、この命尽きるまで、力の限り全力で守っていきたい。

 かくも美しく、ウィステリアの花の如くある君に、
 私の、

 全てを捧げる。


 ~完~


















感想 4

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(4件)

sanzo
2024.09.26 sanzo
ネタバレ含む
2024.09.26 長船凪

楽しい妄想、その後の話もありがとうございます!
キャラと物語が愛されてる感が嬉しいです!

解除
はっち
2024.09.13 はっち

凄く大好きなお話しでした
終わってしまうのが寂しいです
これから領地改革とかあるのかなー的に 期待してたのですが 終わってしまって残念です( ´_ゝ`)
番外編とかあるなら是非 お願いします

2024.09.16 長船凪

わあ! 大好きと言ってもらえて嬉しいです!
ありがとうございます!
番外編、いいネタ思いついたら書いてみますね。

解除
みあみあ
2024.09.11 みあみあ

なんか楽しく読ませてもらってます

2024.09.12 長船凪

ありがとうございます!

解除

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

ようやく自由にしてくださって感謝いたします

一ノ瀬和葉
恋愛
華やかな舞踏会の夜、突然告げられた婚約破棄。 誰もが涙と屈辱を予想する中、令嬢の唇からこぼれたのは――思いがけない一言だった。 その瞬間から、運命は静かに、しかし決定的に動き出す。 ※ご都合です、小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】孤高の皇帝は冷酷なはずなのに、王妃には甘過ぎです。

朝日みらい
恋愛
異国からやってきた第3王女のアリシアは、帝国の冷徹な皇帝カイゼルの元に王妃として迎えられた。しかし、冷酷な皇帝と呼ばれるカイゼルは周囲に心を許さず、心を閉ざしていた。しかし、アリシアのひたむきさと笑顔が、次第にカイゼルの心を溶かしていき――。

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

私は私で幸せになりますので

あんど もあ
ファンタジー
子爵家令嬢オーレリーの両親は、六歳年下の可憐で病弱なクラリスにかかりっきりだった。 ある日、クラリスが「オーレリーが池に落ちる夢を見た」と予言をした。 それから三年。今日オーレリーは、クラリスの予言に従い、北の果ての領地に住む伯爵令息と結婚する。 最後にオーレリーが皆に告げた真実とは。

十年間虐げられたお針子令嬢、冷徹侯爵に狂おしいほど愛される。

er
恋愛
十年前に両親を亡くしたセレスティーナは、後見人の叔父に財産を奪われ、物置部屋で使用人同然の扱いを受けていた。義妹ミレイユのために毎日ドレスを縫わされる日々——でも彼女には『星霜の記憶』という、物の過去と未来を視る特別な力があった。隠されていた舞踏会の招待状を見つけて決死の潜入を果たすと、冷徹で美しいヴィルフォール侯爵と運命の再会! 義妹のドレスが破れて大恥、叔父も悪事を暴かれて追放されるはめに。失われた伝説の刺繍技術を復活させたセレスティーナは宮廷筆頭職人に抜擢され、「ずっと君を探していた」と侯爵に溺愛される——

愛を知らない「頭巾被り」の令嬢は最強の騎士、「氷の辺境伯」に溺愛される

守次 奏
恋愛
「わたしは、このお方に出会えて、初めてこの世に産まれることができた」  貴族の間では忌み子の象徴である赤銅色の髪を持って生まれてきた少女、リリアーヌは常に家族から、妹であるマリアンヌからすらも蔑まれ、その髪を隠すように頭巾を被って生きてきた。  そんなリリアーヌは十五歳を迎えた折に、辺境領を収める「氷の辺境伯」「血まみれ辺境伯」の二つ名で呼ばれる、スターク・フォン・ピースレイヤーの元に嫁がされてしまう。  厄介払いのような結婚だったが、それは幸せという言葉を知らない、「頭巾被り」のリリアーヌの運命を変える、そして世界の運命をも揺るがしていく出会いの始まりに過ぎなかった。  これは、一人の少女が生まれた意味を探すために駆け抜けた日々の記録であり、とある幸せな夫婦の物語である。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」様にも短編という形で掲載しています。