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1[リア]
転移
――走っていた。
慣れないドレスのスカートを両手でつかみ、なりふり構わず全力で。
「こちらですわ!」
「はいっ!」
二人の女性に誘導され、誰もいない部屋へ飛び込んだ。
急いで扉を閉めると、二人のうち一人が鍵をかけ、もう一人は細い腕で家具を動かし始める。
「手伝いますっ!」
三人で力を合わせ、机や椅子を扉の前に動かせば、即席バリケードの完成だ。
「こちらの中に!」
「ははいっ!」
促されるままクローゼットに飛び込んだ瞬間、ゴッと音がして目から火花が散った。
入り口に気を取られていたせいで、重そうな木のハンガーに額をぶつけた。驚いたのと痛いので心臓が激しく鼓動している。
気を取り直し、揺れているハンガーを二つ外し、一つずつ両手に握った。
あの頼りないバリケードを突破されたら、もっと頼りない武器を振り回して戦うしかない。
クローゼットは服が一着も掛かっておらず、ただ木の匂いがするだけの四角い空間だった。暗く、扉の隙間から光が少しだけ漏れてきている。静寂にドクドクと心臓の鼓動だけが重なっていた。
思わずその場にしゃがみ込み、長いため息をついた。
「どうしてこんなことに……」
わたしは今、全然知らない場所で、全然知らない人に追われている。
前日の晩、わたしは間違いなく自分の部屋でベッドに入った。ところが、目が覚めたら別の場所にいる。こんなことが起き得るのだろうか。
寝起きの視界にゴールドの領域が多すぎて目眩がしたのは生まれて初めてだった。天井にはゴージャスなトリの絵が描かれていて、まるで石油王が住む部屋のようだった。
本人の知らないうちに運ばれるなんて尋常ではない。これが夢か幻でないのなら誘拐事件だ。
視線をベッドに落とし、そっと布団をめくってみると、お気に入りの豆柴さんパジャマだった。富豪ルームと庶民パジャマのギャップが残酷すぎて泣きたくなる。
ふとベッド脇に人がいることに気がついた。思わず体がこわばる。
まさか誘拐犯か!? と思ったものの、水色のドレスを身にまとった女性だった。
北欧系の美しい顔立ちをしていて、ブロンドの髪をきれいに結い上げている。年齢は二十代前半くらいだろうか。身なりが良すぎて、誘拐犯どころか、むしろ誘拐されたお姫様に見える。
彼女は心配そうにこちらの様子をうかがっていた。悪い人には思えない。気品のある優しそうな人だ。一緒に誘拐された人だろうか?
「おはようございます。あのぅ、ここはどこでしょうか」と、尋ねてみた。
彼女は人さし指を唇に当て、小さな声で話すよう合図をした。
「王都ですわ」と、彼女は言った。
王都……? 王都って、どこ?
不安と嫌な予感が胸をよぎる。
別の質問をしようとした瞬間、ドアをノックする音が聞こえた。
彼女の緊迫した表情が、扉の向こうに好ましくない人物がいることを物語っている。
重たそうな扉が開き、奇妙な服装をした男が三人、部屋に入ってきた。
濃いパープル地に金の刺繍がゴテゴテと施されたローブは、床を引きずるほど裾が長い。まるで漫画に出てくるインチキ占い師か悪役魔法使いのコスプレだ。隣の部屋で季節外れのハロウィン・パーティーでもやっているのだろうか。
面白い格好をしているわりに、三人の表情はそれほど楽しそうではなかった。
彼らが誘拐犯に違いない。しかし、人をさらうには面白すぎる格好だ。変装だったとしても、動きづらそうだし顔も隠せていない。
わたしは心の中で密かに彼らを「魔法使い軍団」と呼び、笑いをこらえていた。
男性が連れ立って女性の寝室に入ってくるのはいかがなものか。
しかも、彼らは名乗りもせず、わたしのことを勝手に「神薙様」と呼んでいた。床に膝をついて話しかけてくるわりに、時折見せる薄笑いが怪しい。
そのうち湯浴みをしろとか着替えろとか、そんなことを言い始めた。
こちらもパジャマのままではいられないので着替えたい。しかし、着替えとして用意してある服がスケスケのネグリジェだった。
彼らはアホなのだろうか……。
初対面の男に言われるがまま入浴して、そんなものを着る女性なんて、これまでも、これからも絶対にいないと断言できる。
水色ドレスの女性には仲間が二人いた。
薄いオレンジ色のドレスと、クリーム色のドレスで、やはりどちらも誘拐されたお姫様のようだった。華やかでかわいらしい人たちだ。
魔法使い軍団と顔見知りではあるものの、上下関係はなさそうだ。
「スケスケを着ろ」と言う変態と「そんなものは着ない」と拒否するわたしとの間に挟まれ、彼女たちは困惑していた。
しかし、彼女たちから見てもスケスケは非常識。最終的にはわたしの意に沿う服を選んでくれた。
襟付きの長袖ロングドレスで、露出はゼロだ。こんな連中の前で一ミリたりとも肌を出してなるものか。
オジサンたちの要求はシンプルだ。
彼らはわたしと無理やりにでも親密な関係になりたいようだった。
断固拒否する。ところが、一つ困ったことがあった。
彼らが寝室の出入り口を塞いでいるため、わたしは監禁されたも同然の状況だったのだ。
「出て行け」と言ったところで、言うことは聞かないだろう。
何かされる前に逃げなくてはならない。
問題は、どうやってその隙を作るかだ。
寝室の奥にある支度部屋で、女性三人に手伝ってもらいながら着替えをしていた。
そこを出れば変態オジサン三人組が待っている。無策でノコノコ出て行くことはあり得ない。
何か武器になりそうなものはないか探した。
支度部屋というだけあって、身に着けるもの以外はドレッサーとトルソーがあるだけ。重量的にトルソーを振り回すのは少し厳しい。
ふと目の前に置いてあった化粧品の瓶を手に持ってみた。
「むっ、いいですね。この重さ」
これは使える。
「あのぅ、これをちょっとお借りしてもよろしいでしょうか?」
わたしは瓶を指さし、水色ドレスの女性に尋ねた。
彼女が首をかしげながら「はい」と言ってくれたので、化粧水・乳液・クリームの三つをお借りすることに。
「皆さんにちょっとご相談があるのですが……」
軽くストレッチをして肩を回しながら美女三人組に話しかけた。
お姫様たちは変態オジサンを嫌っている様子だったので、逃亡の手助けをしていただけないか相談したのだ。
彼女たちが目を輝かせて快諾してくれたので、こしょこしょと作戦会議をした。
ふっふっふっ。さあ、覚悟はいいですか、変態さんたち。
支度部屋のドアを開けると、オジサン三人は部屋の中央付近に集まっていた。
助走をつけ、重たい化粧品の瓶をフルスイングで投げつける。ゴッと鈍い音がして、見事に全弾が命中。彼らが慌てふためき、痛がっている隙に逃げ出した。
ロングドレスで走りづらいけれども、オジサンのローブも負けず劣らず裾が長いので、そう簡単には追いつけまい。
「ほーっほっほ。華麗なる脱出劇」と得意げなわたしに、水色ドレスさんは「隠れましょう!」と言った。
魔法使い軍団は十数人で構成されているらしく、同じ建物の中には大勢の順番待ちがいると言う。
彼らが何を企んでいたのか、想像に難くない。おのれ……許すまじ、変態。
そうして冒頭の猛ダッシュに至った。
現在地は、全然知らない建物のクローゼットの中(真っ暗)である。
逃げ出した直後、クリーム色ドレスさんだけが反対方向へと走り、建物の外へ助けを呼びに行ってくれた。わたしたちは援軍が来るまで籠城作戦というわけだ。
平和な朝を返してほしい。
昨日、いつもよりも少しお高いパン屋さんでクロワッサンを買った。楽しみにしていたのに、なぜかわたしの両手にあるのは武器である。わたしの優雅な朝食はどうなってしまうのだろう。
「というか、ここはどこ?」
まずはそこからだ。
「お父さん、身代金なんて払えるのかな……」
家を売らないとおそらく無理だろう。
「必ず助けが来ます。しばらくの辛抱ですわ」
クローゼットの外から水色ドレスさんの声が聞こえた。
令嬢ことばがかわいい。真似したい。
「アテクシ、優雅な朝ごはんがしたいですワっ」
心の中で言ってみたけれども、いまいち上手くいかなかった。
しばらくすると正義の味方が到着し、魔法使い軍団を退治してくれたようだ。
援軍を連れて戻り、一部始終を見ていたクリーム色ドレスさんが、一生懸命その様子を話してくれた。
ただ、話に出てくる単語がほとんどわからない。人名や地名など、聞いたことのない言葉ばかりだ。
仕方がないのでそれぞれの特徴を聞き出し、なじみのある単語に変換することでイメージをつかむことを優先した。
彼女の話をまとめると、こうなる。
・指揮官のクマが地を裂くような雄叫びで敵を震え上がらせた。
・部下のゴリラが一斉に魔法使い軍団へ襲いかかり、ちぎっては投げ、ちぎっては投げした。
本当かどうかはさておき、とにかくそういう状況だったらしい。
「神薙様、もう安心ですわ」
「第三騎士団が助けてくださいました」
「クランツ団長様とお会いになられますか?」
三人娘が一斉に口を開いた。
神薙様とはなんだろう……。もう、わからないことだらけだ。
このあたりには騎士がいるらしい。
クランツさんという人が団長で、雄叫びを上げた指揮官のクマだ。
細かいことはさておき、助けていただいたお礼を言わなくては。
クマさんのもとへと向かう途中、紫の変態が連行される場面を見かけた。
言い訳をするオジサンたちに向かって「黙って歩け、ゴルァ!」と、ムキムキの団員が吠えていた。
クマだのゴリラだのと、半ば悪ふざけのようなイメージをしていたのに、現実がそれと変わらないのは気のせいだろうか……。
第三騎士団の人たちは、わたしが想像していた騎士とはまったく違っていた。
女の子のピンチを救うのはイケメン騎士というのが少女漫画のテンプレだけれども、彼らは超パワー系ゴリゴリマッチョの集まりで、全員が総合格闘家かアメリカのプロレスラーのようだった。
大きな肩と太い腕。前に張り出したぶ厚い胸筋が、紺色の制服に包まれている。たぶん本気で強さを求めると人体はこうなるのだろう。
わたしは彼らのたくましい筋肉に心から感謝していた。
クマ……もといクランツ団長は、栗色の髪に南国の海のような青い瞳の人だった。
伸び放題のヒゲは、髪と同様に毛先があっちこっちを向いているし、若干つながり気味の眉毛が特大のインパクトを与えている。
人だとはわかっているのだけれども、体の大きさと多毛さに、どうしてもクマに見えてくる。うっかり「くまんつ」と呼んでしまいそうだ。
彼はその見た目からは想像もつかないほど穏やかな人で、部下の皆さんも親切だった。わたしはできるかぎり丁寧にお礼を言った。
「お疲れでしょう。お茶をいれさせます。座ってゆっくり休んでください」
くまんつ団長は癒し系の優しい声で言った。
☟
サロンと呼ばれている部屋に案内され、暖炉に近いソファーに座った。
ふにゃりと体の力が抜ける。自分の身を守るためとはいえ、ずっと緊張していたので少し疲れた。
それにしても不思議な部屋だ。
椅子とソファがやたらと多い。大勢でお茶を飲むための部屋なのだろうか。
全体の雰囲気に統一感はあるけれども、家具の規格はバラバラだ。一人がけのリビングチェアもあれば、五人くらい座れそうな長いソファもある。
高い天井からは大きなシャンデリアがぶら下がり、陽の光を反射してキラキラしていた。壁は寝室と同じ配色で、上品な白と金。ただし、家具やカーテンは紫が多めで、やや毒を感じる色合いだ。
ソファの座り心地は良いけれど、家具の配色のせいで部屋の居心地はそれほどでもない。
娯楽らしきものは本棚とピアノ、それからハープのような楽器のみ。テレビなどの家電は一切置いていなかった。
いったいここは何の建物なのだろう。
家と呼ぶには広すぎるし、ホテルにしては小さい。かと言ってペンションにしては豪華すぎる気がした。
ほどなくして、爽やかなオレンジの香りがする紅茶が出てきた。
ところが誰も席に着かないし、わたし一人分のお茶しか用意されていない。
「私たちが神薙様と同席するなんて恐れ多い」と、三人娘は近くに座ることすら躊躇している。
聞きたいことがたくさんあるのに、相手が壁際で置き物のように立っているのでは話もできない。
お茶と甘いものが嫌いなわけではなく、一緒にお茶するのが嫌なわけでもない。身分がどうのと言っている。
「三人のお茶とお菓子もお願いします」と、こちらも必死だ。向かいに座ってもらうのにえらく苦労した。
お茶セットが運ばれてくると、彼女たちはうれしそうに微笑んだ。口々に「夢のようですわ」「こんな日が来るなんて」と喜んでいる。
あえて「夢みたい」という言葉の意味までは確認しなかった。
まずは腹ごしらえだ。
起きてから何も口に入れていなかったし、走ったせいか喉も渇いている。
お茶請けは三段重ねのアフタヌーンティーセットだ。まだ朝だけど遠慮なく「いただきます」と手を合わせた。
最下段の小さなサンドウィッチは、新鮮なキュウリが主役でハムが脇役。味付けは塩コショウでシンプルだ。それが妙に美味しく感じた。
「わたしは坂下莉愛というのですが、皆さんは?」
三人の名前を尋ねると、年の順にフリガ、イルサ、マリンと自己紹介してくれた。三人の職業は「神薙の侍女」だそうだ。
水色ドレスさんが侍女長フリガ。外に助けを求めに行ってくれたクリーム色ドレスさんがマリン。細い腕で家具を動かしていた頑張り屋さんがイルサだ。
三人とも年齢が近く、年長者のフリガが侍女長ということになっているけれども、厳密な上下関係はないそうだ。仲の良い友達のような雰囲気だった。
「それで、神薙ってなんですか?」と尋ねた。
「神に遣わされた方のことですわ」と、フリガが答えた。
「一時代に一人、大陸に一人しか現れない、高貴なお方なのです」とイルサ。
「まさかこんなに穏やかな方で、一緒にお茶ができるなんて」と、マリンが言った。
三人は頬を赤らめうっとりとしている。
いくつか質問を追加したものの、要領を得ない返事が返ってきた。
別の人に聞いたほうがいいかもしれない。
「ちょっと、くまんつ団長にも質問してきますね?」
わたしはカップを置き、立ち上がった。
「すみません。ちょっとお伺いしたいのですが……」
声をかけると、彼はビッと背を伸ばした。
そのせいで余計にお顔がはるか上へと遠ざかる。三十センチくらい身長差がありそうだ。高い、遠い、摩天楼のクマである。
「なんでしょうか」と、彼は言った。
「あ、あのぅ、神薙というのはなんのことでしょうか。それと、わたしがなぜここにいるのか、おわかりになる方はいらっしゃいますか?」
わずかに彼の顔が引きつった。
なぜそんなことを自分に聞くのだ、と顔に書いてある。
「なる、ほど。まだ誰からも、何も聞いていらっしゃらない、と?」
「ハイ。聞いてもわからない単語が多すぎて、理解ができないと言いますか……」
彼は「承知しました」と言うと、部下に指示を出し始めた。
彼はわたしが監禁されそうになった件も含め、関係各所と連絡を取り合ってくれていたらしい。
「この際なので、すべて引き受けます」と言って、諸般の事情に詳しい方とも連絡を取ってくれることになった。
わたしはお茶を頂いて少しゆっくりしたあと、三人娘に手伝ってもらって再び着替えた。
口には出さなかったけれど、出てくる服がどれもお姫様のようなドレスで頭が混乱する。直前まで着ていたドレスと、新たに出てきた「よそゆき用ドレス」との違いもわからなかった。
いずれにせよ「本日の主役」と書いてあるパーティーグッズのたすきがピッタンコ。魔法使い軍団だなんて、自分を棚に上げて何を言っていたのだろう。わたしもハロウィン・パーティーから飛び出してきた人のようだ。
恥ずかしいので明るい色は避けてブルーグレーの落ち着いたドレスにしてもらった。
誰か説明してほしい。
なぜわたしはこんな格好をして、豪華な場所をしずしずと歩いているの……?
「本来なら、神薙様の警護は第一騎士団の任務なのですが」と、くまんつ団長は恐縮した様子で言った。
「今日は責任者が別の任務で不在にしております。不慣れではありますが、我々が代わりを務めさせていただきます」
彼はものすごく低姿勢だ。
「ハ、ハイ。よろしくお願いいたします」
「外に車を待たせてあります」
「ハイッ」
彼のエスコートで建物の外へ出ると、確かに車が待っていた。
しかし、わたしが思っていた車とは系統が違う。
馬車だった……。
鹿毛と栗毛の馬が一頭ずつスタンバイしている。
ツヤツヤの毛並みにつぶらな瞳。まつげが長くてかわいい♪ 競馬場でもここまで接近して見たことはなかった。
じっと馬を見ていると、くまんつ団長が心配そうな顔でのぞき込んできた。
「はっ、スミマセン。馬なのですねぇ」
慌てて言うと、彼は笑顔を見せた。
笑うとすてきな馬……じゃなくてクマ……じゃなくて人だ(もう大混乱)
裾の広がった長いスカートを片手で持ち上げ、彼の大きな手を支えによいしょよいしょと馬車に乗り込む。
中の広さは六人乗り。座り心地はフカフカだ。
外が見えるよう、窓に掛けられたカーテンを開けた。
ブフォッ、ブフォッ、ブルルルルッ……!
文字にすれば旧式の車のエンジン音に見えそうだけれども、ここで聞こえているのは馬の息づかいだ。
二頭引き、二馬力。ゆっくり移動する分には困らない。
後部から出るものが排ガスか排せつブツかで、環境への影響はだいぶ違うだろう。排ガスよりは自然で良い気がした。しかし、乗り込む際に容赦なく降り注ぐバフンを見てしまったせいか、フクザツな気分だ。
カッポンカッポンと心地よい音を立てながら、馬車はのんびりと進んでいく。
窓の向こうには、まるで映画の撮影セットのような街並みが見えていた。
わたしは自動車のない時代にタイムスリップでもしたのだろうか。それとも……
あまり考えたくはないけれど、異世界だったりして?
慣れないドレスのスカートを両手でつかみ、なりふり構わず全力で。
「こちらですわ!」
「はいっ!」
二人の女性に誘導され、誰もいない部屋へ飛び込んだ。
急いで扉を閉めると、二人のうち一人が鍵をかけ、もう一人は細い腕で家具を動かし始める。
「手伝いますっ!」
三人で力を合わせ、机や椅子を扉の前に動かせば、即席バリケードの完成だ。
「こちらの中に!」
「ははいっ!」
促されるままクローゼットに飛び込んだ瞬間、ゴッと音がして目から火花が散った。
入り口に気を取られていたせいで、重そうな木のハンガーに額をぶつけた。驚いたのと痛いので心臓が激しく鼓動している。
気を取り直し、揺れているハンガーを二つ外し、一つずつ両手に握った。
あの頼りないバリケードを突破されたら、もっと頼りない武器を振り回して戦うしかない。
クローゼットは服が一着も掛かっておらず、ただ木の匂いがするだけの四角い空間だった。暗く、扉の隙間から光が少しだけ漏れてきている。静寂にドクドクと心臓の鼓動だけが重なっていた。
思わずその場にしゃがみ込み、長いため息をついた。
「どうしてこんなことに……」
わたしは今、全然知らない場所で、全然知らない人に追われている。
前日の晩、わたしは間違いなく自分の部屋でベッドに入った。ところが、目が覚めたら別の場所にいる。こんなことが起き得るのだろうか。
寝起きの視界にゴールドの領域が多すぎて目眩がしたのは生まれて初めてだった。天井にはゴージャスなトリの絵が描かれていて、まるで石油王が住む部屋のようだった。
本人の知らないうちに運ばれるなんて尋常ではない。これが夢か幻でないのなら誘拐事件だ。
視線をベッドに落とし、そっと布団をめくってみると、お気に入りの豆柴さんパジャマだった。富豪ルームと庶民パジャマのギャップが残酷すぎて泣きたくなる。
ふとベッド脇に人がいることに気がついた。思わず体がこわばる。
まさか誘拐犯か!? と思ったものの、水色のドレスを身にまとった女性だった。
北欧系の美しい顔立ちをしていて、ブロンドの髪をきれいに結い上げている。年齢は二十代前半くらいだろうか。身なりが良すぎて、誘拐犯どころか、むしろ誘拐されたお姫様に見える。
彼女は心配そうにこちらの様子をうかがっていた。悪い人には思えない。気品のある優しそうな人だ。一緒に誘拐された人だろうか?
「おはようございます。あのぅ、ここはどこでしょうか」と、尋ねてみた。
彼女は人さし指を唇に当て、小さな声で話すよう合図をした。
「王都ですわ」と、彼女は言った。
王都……? 王都って、どこ?
不安と嫌な予感が胸をよぎる。
別の質問をしようとした瞬間、ドアをノックする音が聞こえた。
彼女の緊迫した表情が、扉の向こうに好ましくない人物がいることを物語っている。
重たそうな扉が開き、奇妙な服装をした男が三人、部屋に入ってきた。
濃いパープル地に金の刺繍がゴテゴテと施されたローブは、床を引きずるほど裾が長い。まるで漫画に出てくるインチキ占い師か悪役魔法使いのコスプレだ。隣の部屋で季節外れのハロウィン・パーティーでもやっているのだろうか。
面白い格好をしているわりに、三人の表情はそれほど楽しそうではなかった。
彼らが誘拐犯に違いない。しかし、人をさらうには面白すぎる格好だ。変装だったとしても、動きづらそうだし顔も隠せていない。
わたしは心の中で密かに彼らを「魔法使い軍団」と呼び、笑いをこらえていた。
男性が連れ立って女性の寝室に入ってくるのはいかがなものか。
しかも、彼らは名乗りもせず、わたしのことを勝手に「神薙様」と呼んでいた。床に膝をついて話しかけてくるわりに、時折見せる薄笑いが怪しい。
そのうち湯浴みをしろとか着替えろとか、そんなことを言い始めた。
こちらもパジャマのままではいられないので着替えたい。しかし、着替えとして用意してある服がスケスケのネグリジェだった。
彼らはアホなのだろうか……。
初対面の男に言われるがまま入浴して、そんなものを着る女性なんて、これまでも、これからも絶対にいないと断言できる。
水色ドレスの女性には仲間が二人いた。
薄いオレンジ色のドレスと、クリーム色のドレスで、やはりどちらも誘拐されたお姫様のようだった。華やかでかわいらしい人たちだ。
魔法使い軍団と顔見知りではあるものの、上下関係はなさそうだ。
「スケスケを着ろ」と言う変態と「そんなものは着ない」と拒否するわたしとの間に挟まれ、彼女たちは困惑していた。
しかし、彼女たちから見てもスケスケは非常識。最終的にはわたしの意に沿う服を選んでくれた。
襟付きの長袖ロングドレスで、露出はゼロだ。こんな連中の前で一ミリたりとも肌を出してなるものか。
オジサンたちの要求はシンプルだ。
彼らはわたしと無理やりにでも親密な関係になりたいようだった。
断固拒否する。ところが、一つ困ったことがあった。
彼らが寝室の出入り口を塞いでいるため、わたしは監禁されたも同然の状況だったのだ。
「出て行け」と言ったところで、言うことは聞かないだろう。
何かされる前に逃げなくてはならない。
問題は、どうやってその隙を作るかだ。
寝室の奥にある支度部屋で、女性三人に手伝ってもらいながら着替えをしていた。
そこを出れば変態オジサン三人組が待っている。無策でノコノコ出て行くことはあり得ない。
何か武器になりそうなものはないか探した。
支度部屋というだけあって、身に着けるもの以外はドレッサーとトルソーがあるだけ。重量的にトルソーを振り回すのは少し厳しい。
ふと目の前に置いてあった化粧品の瓶を手に持ってみた。
「むっ、いいですね。この重さ」
これは使える。
「あのぅ、これをちょっとお借りしてもよろしいでしょうか?」
わたしは瓶を指さし、水色ドレスの女性に尋ねた。
彼女が首をかしげながら「はい」と言ってくれたので、化粧水・乳液・クリームの三つをお借りすることに。
「皆さんにちょっとご相談があるのですが……」
軽くストレッチをして肩を回しながら美女三人組に話しかけた。
お姫様たちは変態オジサンを嫌っている様子だったので、逃亡の手助けをしていただけないか相談したのだ。
彼女たちが目を輝かせて快諾してくれたので、こしょこしょと作戦会議をした。
ふっふっふっ。さあ、覚悟はいいですか、変態さんたち。
支度部屋のドアを開けると、オジサン三人は部屋の中央付近に集まっていた。
助走をつけ、重たい化粧品の瓶をフルスイングで投げつける。ゴッと鈍い音がして、見事に全弾が命中。彼らが慌てふためき、痛がっている隙に逃げ出した。
ロングドレスで走りづらいけれども、オジサンのローブも負けず劣らず裾が長いので、そう簡単には追いつけまい。
「ほーっほっほ。華麗なる脱出劇」と得意げなわたしに、水色ドレスさんは「隠れましょう!」と言った。
魔法使い軍団は十数人で構成されているらしく、同じ建物の中には大勢の順番待ちがいると言う。
彼らが何を企んでいたのか、想像に難くない。おのれ……許すまじ、変態。
そうして冒頭の猛ダッシュに至った。
現在地は、全然知らない建物のクローゼットの中(真っ暗)である。
逃げ出した直後、クリーム色ドレスさんだけが反対方向へと走り、建物の外へ助けを呼びに行ってくれた。わたしたちは援軍が来るまで籠城作戦というわけだ。
平和な朝を返してほしい。
昨日、いつもよりも少しお高いパン屋さんでクロワッサンを買った。楽しみにしていたのに、なぜかわたしの両手にあるのは武器である。わたしの優雅な朝食はどうなってしまうのだろう。
「というか、ここはどこ?」
まずはそこからだ。
「お父さん、身代金なんて払えるのかな……」
家を売らないとおそらく無理だろう。
「必ず助けが来ます。しばらくの辛抱ですわ」
クローゼットの外から水色ドレスさんの声が聞こえた。
令嬢ことばがかわいい。真似したい。
「アテクシ、優雅な朝ごはんがしたいですワっ」
心の中で言ってみたけれども、いまいち上手くいかなかった。
しばらくすると正義の味方が到着し、魔法使い軍団を退治してくれたようだ。
援軍を連れて戻り、一部始終を見ていたクリーム色ドレスさんが、一生懸命その様子を話してくれた。
ただ、話に出てくる単語がほとんどわからない。人名や地名など、聞いたことのない言葉ばかりだ。
仕方がないのでそれぞれの特徴を聞き出し、なじみのある単語に変換することでイメージをつかむことを優先した。
彼女の話をまとめると、こうなる。
・指揮官のクマが地を裂くような雄叫びで敵を震え上がらせた。
・部下のゴリラが一斉に魔法使い軍団へ襲いかかり、ちぎっては投げ、ちぎっては投げした。
本当かどうかはさておき、とにかくそういう状況だったらしい。
「神薙様、もう安心ですわ」
「第三騎士団が助けてくださいました」
「クランツ団長様とお会いになられますか?」
三人娘が一斉に口を開いた。
神薙様とはなんだろう……。もう、わからないことだらけだ。
このあたりには騎士がいるらしい。
クランツさんという人が団長で、雄叫びを上げた指揮官のクマだ。
細かいことはさておき、助けていただいたお礼を言わなくては。
クマさんのもとへと向かう途中、紫の変態が連行される場面を見かけた。
言い訳をするオジサンたちに向かって「黙って歩け、ゴルァ!」と、ムキムキの団員が吠えていた。
クマだのゴリラだのと、半ば悪ふざけのようなイメージをしていたのに、現実がそれと変わらないのは気のせいだろうか……。
第三騎士団の人たちは、わたしが想像していた騎士とはまったく違っていた。
女の子のピンチを救うのはイケメン騎士というのが少女漫画のテンプレだけれども、彼らは超パワー系ゴリゴリマッチョの集まりで、全員が総合格闘家かアメリカのプロレスラーのようだった。
大きな肩と太い腕。前に張り出したぶ厚い胸筋が、紺色の制服に包まれている。たぶん本気で強さを求めると人体はこうなるのだろう。
わたしは彼らのたくましい筋肉に心から感謝していた。
クマ……もといクランツ団長は、栗色の髪に南国の海のような青い瞳の人だった。
伸び放題のヒゲは、髪と同様に毛先があっちこっちを向いているし、若干つながり気味の眉毛が特大のインパクトを与えている。
人だとはわかっているのだけれども、体の大きさと多毛さに、どうしてもクマに見えてくる。うっかり「くまんつ」と呼んでしまいそうだ。
彼はその見た目からは想像もつかないほど穏やかな人で、部下の皆さんも親切だった。わたしはできるかぎり丁寧にお礼を言った。
「お疲れでしょう。お茶をいれさせます。座ってゆっくり休んでください」
くまんつ団長は癒し系の優しい声で言った。
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サロンと呼ばれている部屋に案内され、暖炉に近いソファーに座った。
ふにゃりと体の力が抜ける。自分の身を守るためとはいえ、ずっと緊張していたので少し疲れた。
それにしても不思議な部屋だ。
椅子とソファがやたらと多い。大勢でお茶を飲むための部屋なのだろうか。
全体の雰囲気に統一感はあるけれども、家具の規格はバラバラだ。一人がけのリビングチェアもあれば、五人くらい座れそうな長いソファもある。
高い天井からは大きなシャンデリアがぶら下がり、陽の光を反射してキラキラしていた。壁は寝室と同じ配色で、上品な白と金。ただし、家具やカーテンは紫が多めで、やや毒を感じる色合いだ。
ソファの座り心地は良いけれど、家具の配色のせいで部屋の居心地はそれほどでもない。
娯楽らしきものは本棚とピアノ、それからハープのような楽器のみ。テレビなどの家電は一切置いていなかった。
いったいここは何の建物なのだろう。
家と呼ぶには広すぎるし、ホテルにしては小さい。かと言ってペンションにしては豪華すぎる気がした。
ほどなくして、爽やかなオレンジの香りがする紅茶が出てきた。
ところが誰も席に着かないし、わたし一人分のお茶しか用意されていない。
「私たちが神薙様と同席するなんて恐れ多い」と、三人娘は近くに座ることすら躊躇している。
聞きたいことがたくさんあるのに、相手が壁際で置き物のように立っているのでは話もできない。
お茶と甘いものが嫌いなわけではなく、一緒にお茶するのが嫌なわけでもない。身分がどうのと言っている。
「三人のお茶とお菓子もお願いします」と、こちらも必死だ。向かいに座ってもらうのにえらく苦労した。
お茶セットが運ばれてくると、彼女たちはうれしそうに微笑んだ。口々に「夢のようですわ」「こんな日が来るなんて」と喜んでいる。
あえて「夢みたい」という言葉の意味までは確認しなかった。
まずは腹ごしらえだ。
起きてから何も口に入れていなかったし、走ったせいか喉も渇いている。
お茶請けは三段重ねのアフタヌーンティーセットだ。まだ朝だけど遠慮なく「いただきます」と手を合わせた。
最下段の小さなサンドウィッチは、新鮮なキュウリが主役でハムが脇役。味付けは塩コショウでシンプルだ。それが妙に美味しく感じた。
「わたしは坂下莉愛というのですが、皆さんは?」
三人の名前を尋ねると、年の順にフリガ、イルサ、マリンと自己紹介してくれた。三人の職業は「神薙の侍女」だそうだ。
水色ドレスさんが侍女長フリガ。外に助けを求めに行ってくれたクリーム色ドレスさんがマリン。細い腕で家具を動かしていた頑張り屋さんがイルサだ。
三人とも年齢が近く、年長者のフリガが侍女長ということになっているけれども、厳密な上下関係はないそうだ。仲の良い友達のような雰囲気だった。
「それで、神薙ってなんですか?」と尋ねた。
「神に遣わされた方のことですわ」と、フリガが答えた。
「一時代に一人、大陸に一人しか現れない、高貴なお方なのです」とイルサ。
「まさかこんなに穏やかな方で、一緒にお茶ができるなんて」と、マリンが言った。
三人は頬を赤らめうっとりとしている。
いくつか質問を追加したものの、要領を得ない返事が返ってきた。
別の人に聞いたほうがいいかもしれない。
「ちょっと、くまんつ団長にも質問してきますね?」
わたしはカップを置き、立ち上がった。
「すみません。ちょっとお伺いしたいのですが……」
声をかけると、彼はビッと背を伸ばした。
そのせいで余計にお顔がはるか上へと遠ざかる。三十センチくらい身長差がありそうだ。高い、遠い、摩天楼のクマである。
「なんでしょうか」と、彼は言った。
「あ、あのぅ、神薙というのはなんのことでしょうか。それと、わたしがなぜここにいるのか、おわかりになる方はいらっしゃいますか?」
わずかに彼の顔が引きつった。
なぜそんなことを自分に聞くのだ、と顔に書いてある。
「なる、ほど。まだ誰からも、何も聞いていらっしゃらない、と?」
「ハイ。聞いてもわからない単語が多すぎて、理解ができないと言いますか……」
彼は「承知しました」と言うと、部下に指示を出し始めた。
彼はわたしが監禁されそうになった件も含め、関係各所と連絡を取り合ってくれていたらしい。
「この際なので、すべて引き受けます」と言って、諸般の事情に詳しい方とも連絡を取ってくれることになった。
わたしはお茶を頂いて少しゆっくりしたあと、三人娘に手伝ってもらって再び着替えた。
口には出さなかったけれど、出てくる服がどれもお姫様のようなドレスで頭が混乱する。直前まで着ていたドレスと、新たに出てきた「よそゆき用ドレス」との違いもわからなかった。
いずれにせよ「本日の主役」と書いてあるパーティーグッズのたすきがピッタンコ。魔法使い軍団だなんて、自分を棚に上げて何を言っていたのだろう。わたしもハロウィン・パーティーから飛び出してきた人のようだ。
恥ずかしいので明るい色は避けてブルーグレーの落ち着いたドレスにしてもらった。
誰か説明してほしい。
なぜわたしはこんな格好をして、豪華な場所をしずしずと歩いているの……?
「本来なら、神薙様の警護は第一騎士団の任務なのですが」と、くまんつ団長は恐縮した様子で言った。
「今日は責任者が別の任務で不在にしております。不慣れではありますが、我々が代わりを務めさせていただきます」
彼はものすごく低姿勢だ。
「ハ、ハイ。よろしくお願いいたします」
「外に車を待たせてあります」
「ハイッ」
彼のエスコートで建物の外へ出ると、確かに車が待っていた。
しかし、わたしが思っていた車とは系統が違う。
馬車だった……。
鹿毛と栗毛の馬が一頭ずつスタンバイしている。
ツヤツヤの毛並みにつぶらな瞳。まつげが長くてかわいい♪ 競馬場でもここまで接近して見たことはなかった。
じっと馬を見ていると、くまんつ団長が心配そうな顔でのぞき込んできた。
「はっ、スミマセン。馬なのですねぇ」
慌てて言うと、彼は笑顔を見せた。
笑うとすてきな馬……じゃなくてクマ……じゃなくて人だ(もう大混乱)
裾の広がった長いスカートを片手で持ち上げ、彼の大きな手を支えによいしょよいしょと馬車に乗り込む。
中の広さは六人乗り。座り心地はフカフカだ。
外が見えるよう、窓に掛けられたカーテンを開けた。
ブフォッ、ブフォッ、ブルルルルッ……!
文字にすれば旧式の車のエンジン音に見えそうだけれども、ここで聞こえているのは馬の息づかいだ。
二頭引き、二馬力。ゆっくり移動する分には困らない。
後部から出るものが排ガスか排せつブツかで、環境への影響はだいぶ違うだろう。排ガスよりは自然で良い気がした。しかし、乗り込む際に容赦なく降り注ぐバフンを見てしまったせいか、フクザツな気分だ。
カッポンカッポンと心地よい音を立てながら、馬車はのんびりと進んでいく。
窓の向こうには、まるで映画の撮影セットのような街並みが見えていた。
わたしは自動車のない時代にタイムスリップでもしたのだろうか。それとも……
あまり考えたくはないけれど、異世界だったりして?
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